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戻れない道 2

バンキッシュのここ一ヶ月の行動パターンは勤務を終えたら菊花楼蘭に直行。酒、葉巻、薬、女のフルコースか。いい気なもんだ。クックック、三十過ぎて遊びを覚えた男は怖いもんだねぇ。


この勢いでバンキッシュも嵌めたいところだが、今はだめだ。先ほどの契約魔法のせいでもう魔力がない。サミュエルは腐ってもクタナツの男、魔力をケチって魔法を破られたらたまらんからな。まあサミュエルが恥も外聞も捨ててクソ聖女の所にでも駆け込んだら話は別だがな。僕の身すら危険になってしまう。

もっともそのような契約魔法を解こうと依頼する行為すら出来ないように縛ってあるがね。さーて、一眠りするか。朝帰りするバンキッシュを狙うとしよう。





朝か。まずはクズ楼主に働いてもらうとするか。例によって僕は隣の部屋で待機だ。


「バンキッシュ様、おはようございます。ゆうべもお楽しみでしたね。さて、ツケの件ですがお支払いください。盛り場のツケは十日で詰めるのが慣習ですよ。」


「う、うむ、すまぬが待ってくれ……明後日支払う……」


「待てませんな、と言いたいところですが……運の良いことに救世主が来られておりますよ。バンキッシュ様の窮状をお話ししたところ力になりたいそうです。」


「救世主だと? 誰だ?」


さて、出番だな。


「失礼します。どうもバンキッシュ様、お久しぶりです。シンバでございます。」


「あ、ああ、久しぶりだな。クタナツに戻って来ていたのか……」


「ええ、昨日の昼過ぎに戻って参りました。そこでバンキッシュ様のご状況をお伺いした次第です。聞くところに寄りますと、現在のツケは金貨百枚を超えておられるとか。さすがはバンキッシュ様、遊び方も豪快でいらっしゃる。」


「はは、まあな……」


「しかし、それほどの金子です。お支払いがなければこの娼館は潰れ、お気に入りのニキータも売られゆくが定め。それは人民を守ることを第一に考えられるバンキッシュ様も本意ではないでしょう。分かっておりますとも。」


「あ、ああ……」


「幸い私の手元には金貨百枚がございます。これは今回の仕入れに必要な商人の命とも言える資金です。しかし、私を男にしてくださったバンキッシュ様のためならは一時的に手放すことぐらい覚悟してます!」


「そ! そうか!」


「ええ、先ほども明後日支払うとおっしゃっておられました。ですから一時的に私が立て替えます。そして明後日私に返してください。商売上、二日の遅れは致命的ではあります。しかし、バンキッシュ様のためならば……」


「うむ! 任せておけ! 明後日必ず返す!」


かかった! クックック……


「もちろん疑ってなどおりません。ですからこちらに署名をお願いいたします。借用書ではありますが、預り証と変わりません。二日後にご返金いただければ利息もかかりませんので。」


「ああ。任せておけ。ここだな。」


「はい。お願いします。」


よし、書いたな。


「それでは『二日後』のご返済をお待ちしております。」


クックック。どんな金の当てがあったか知らんが、今の契約内容には新たな借金を禁止する項目がある。つまり誰かから借りて金を工面することはできん。自分で金貨百枚を持っていない限り用意することなどできまい。





そして当日。昨夜もバンキッシュは呑気に菊花楼蘭に泊まっていた。しかも朝っぱらからもニキータと楽しんでいやがる。金の工面はできたんだろうな?


一戦を終えたバンキッシュがクズ楼主の部屋までやって来た。今回は僕も初めから同席している。


「すまぬ。当てが外れてしまった。もう少し待ってもらえぬだろうか。」


「バンキッシュ様……そのお金がないと、私は首をくくるハメになるのですが……どうお考えですか……」


「いや、それは重々承知しておる! しかし無理なものは無理だったのだ!」


クックック、女と薬に狂った騎士などこんなものだ。何が平民を守ることが大義だ。笑わせやがる。


「そうですか……では仕方ありません……代官所に行ってお代官様へ訴え出るとしましょう。お代官様は名門貴族の出、金貨百枚ぐらいお手持ちからお支払いくださるでしょう。」


「ま、待て! 待ってくれ! それだけは勘弁してくれ! それをされると私の立場が……」


そうだろうよ。分かってるとも。


「分かっております。バンキッシュ様はクタナツを魔物から守るのに必要なお人。御身を傷つけるようなことは本意ではありません。ところで、そろそろお時間ですかね。」


「時間? 出仕にはまだ余裕があるが?」


クックック。気付かないかねぇ。そろそろ例の契約書を書いてから四十八時間経つんだよ。二日後に返済する約束だったからなぁ。


「ぐおっ、ぐおおおぅ!」


ほぅら、時間が来たねぇ。僕の魔力もほぼ空っぽになってしまったよ。まったく、クタナツ者の相手は疲れるものだ。


「さて、返済しないまま二日が過ぎましたので、契約内容が自動更新となりました。ここからは一日一割の鴉金だぜ? 金貨百枚を十日放ったらかすと二百五十九枚になるなぁ。ついでに僕に絶対服従のオマケ付きだ。」


「き、貴様ぁあ!」


「座れ。」


騎士が平民を斬ろうとしちゃあいけないな。まあ僕は平民ですらないが。


「さーて、バンキッシュさんよ。これからもニキータと楽しみたいだろ? 我慢できるのか?」


「くっ、私が女などに惑わされるものか!」


クックック、どの口が言うかねぇ。


「ニキータはアンタが来ないと悲しむだろうねぇ。別に毎日来てもいいんだぜ? タダにしておいてやるよ。」


「ほ、本当か!?」


「ああ、もちろんだとも。少々仕事をして、いや違うな。仕事をしないでくれたらいいのさ。」


よし、いよいよ仕上げだ。

本来なら僕の仕事はここで終わりなんだがな。それだと大赤字だからな。ここから荒稼ぎだ。

アンタの上前ハネさせてもらうぜ偽勇者さんよぉ。

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