バンキッシュの操
騎士が一人に平民が三人。妙な組み合わせで連れ立って歩く。さあ、着いたぞ。
「バンキッシュ様……せっかくここまで来ていただいたのに……申し訳ありません……」
「どうした?」
「どうしても怖いのです……昔、舞台女優のような顔をしているのに、気に入らない男がいるとすぐ八つ裂きにして殺す女を見て以来……怖いのです……」
実際には八つ裂きではなくて四つ斬りだけどね。
「ほう、それは怖かったろう。恐ろしい女性もいるものだ。」
「ですからバンキッシュ様……一緒に入ってもらえませんか……そして私の隣の部屋で……」
「私達からもお願いします! もちろんお代はこちらで出しますので!」
「どうかお願いします! 若を男にしてやってください!」
「ふぅむ、仕方あるまい。いいだろう。」
「ありがとうございます! バンキッシュ様の期待に応えられる男になってみせます!」
そして僕とバンキッシュは揃って入店。バンキッシュには二位の女、ニキータを付ける。アンジェラを付けるのがベストなのだが、万が一にもサミュエルとバンキッシュが繋がるとマズイからな。口からポロっと出てしまうことはあるものだ。それに今のバンキッシュならばニキータでも十分だろうしな。
「バンキッシュ様、行って参ります! バンキッシュ様もどうぞ楽しまれてください!」
「うむ、男になって来い。」
バンキッシュより先に部屋に入るが、奴も入ったところですぐに出る。行き先は、奴を覗ける隠し部屋だ。全室が覗けるわけではなく、一つだけ監視できる部屋があるのだ。ヤバげな客が来た時に使う部屋ってわけだ。
そして驚いたことに、バンキッシュは、童貞だったようだ。あんな余裕の態度をしておきながらニキータを相手に狂ったように腰を振ってやがる。酒に葉巻に薬、これらが効いてるってこともあるがな。
それにしても、激しくすれば女が喜ぶとでも思ってるのか? どうやらこいつは堅物なんかじゃなく、ただ金がなくて遊び方を知らない愚物だったってわけだ。おかしいねぇ。金庫番まで任される騎士が安月給なわけないだろうに。ま、こいつの金の使い道なんかどうでもいい。女と薬、この味を知ったからにはもう抜け出せまい。後はじっくりと嵌めるだけだ。クックック。
「バンキッシュ様! ありがとうございました! おかげで勇気が出せました! 何だか自信が付いた気がします!」
「ふふ、それはよかった。いい思い出になったな。またクタナツに来たら飲もうではないか。」
「ありがとうございます! バンキッシュ様のご恩は忘れません!」
「バンキッシュ様、お礼にはとても足りないとは思いますが、ここの料金を三回分支払っております」
「もし気が向かれましたらまた使ってやってください。ニキータもバンキッシュ様の男っぷりにメロメロだそうです」
「そうか。それならまた来るとしよう。ではな。」
「はい! どうかお元気で! ありがとうございました!」
「ご活躍をお祈りしております!」
「若をありがとうございました!」
バンキッシュは部下が呼んでおいた辻馬車に乗って帰っていった。
「お前達、よくやった。今夜は祝杯だ。まだ飲めるだろう?」
「へい! いただきやす!」
「シンさんこそお疲れ様でした!」
ここからは一ヶ月ほど放置だ。明日は一旦クタナツを出ることだしな。
普通なら一ヶ月も放置すれば人は必ずサボる。しかし契約魔法で縛ってあるためクズ楼主もアンジェラもニキータも全力で僕の指示通りに動く。一ヶ月後が楽しみだ。




