7 妖精の森を見つけました
グリフォンに乗って快適空の旅!
風が気持ちいいので鼻歌をうたっていると、ふわりと甘い匂いがどこからか漂ってきたよ。
「これなんの匂いだろ」
『おそらく……このあたりにブルームフェアリーの集落があるのだろう』
「ブルームフェアリー?」
『魔力を持つ特殊な花から生まれる妖精だ。それゆえに様々な種族に狙われることが多いらしいな』
「へー」
妖精なんて全部一緒だと思ってたけど、そんな細かい種類があったりするんだね。
でも魔力を持つ特殊な花か……。ちょっと興味が湧いてきたかも。
『……まさかお主、その花を奪おうなどと思ってはいないだろうな?』
「さすがにそんなひどいことはしないよ! ただ、なんか魔力を取り戻す手がかりにならないかなーって」
いたいけなフェアリーちゃんから花を奪おうなんて考えてないけど、何かのヒントにはなるかもしれないじゃん。
「ねぇ、ちょっと見てこうよ!」
『まったくお主は……まぁ、いいだろう』
なんだかんだいってアーラは匂いのする方に下降を始めた。
ふふ、こうでなくっちゃね!
「うーん、あっちの方かなー」
降り立ったのは深い森の中だった。
くんくんと匂いを嗅ぎながら、甘い香りの方向を目指す。
しばらく進むと、ふと不思議な魔力を感じた。
<魔力感知>を発動させると、なるほど……とある木と木の間がまるで壁でも作られているかのように、淡く光っているではないですか。
これは、ここに何かがあるって証だね。
「……ここ、結界があるね」
結界で入り口は隠せても、漏れ出る匂いまでは隠せなかったみたいだ。
たぶん、ここがフェアリーちゃんの隠れ家への入り口なんだろうね。
「“ディスペル”」
『お、おいっ!』
“ディスペル”はこういった結界や魔法の罠を解除する呪文なんだ。
あまり高度な魔法だと解除はできないけど、今回はそうでもなかったみたい。
私が魔法解除の呪文を唱えた途端、なんと辺りの景色が歪み隠されていた道が現れました!
これに気づかなかったら、たぶんいつまででもこのあたりをぐるぐるループするような結界でも張ってあったんだろうね。こわいこわい。
ふふ、しかしこのルチア様にそんなものは通じないのだ!
「よし、行こっか!」
『……お主、中々にふてぶてしいな。これでは侵略者だと思われても仕方がないぞ』
「大丈夫、話せばわかるって!」
そういえば、妖精の使う言葉ってなんだったっけ。
まぁいいや。いざとなったらジェスチャーで乗り切ろう!
ぶつぶつ言うアーラを引き連れて、私は甘い匂いの元へと歩き出した。
結界の先を進むことしばらく。
段々とあたりに咲く花が増えてきて、ついにはブルームフェアリーの集落らしき場所にたどり着いたぞ!
開けた場所の中央に大きな木が立っており、その枝にいくつもの妖精のおうちらしきものがくっついている。
なんか、ドールハウスみたいでかわいいね!
木の周りにはふわふわと小さな妖精が舞っていて、小さな家に出たり入ったりしているよ。
ふぁー、とその様子を眺めていると、そのあたりをふわふわと飛んでいたフェアリーちゃんの一人が、私とアーラに気がついて高い悲鳴を上げた。
『きゃああぁぁ! どこから入ったんですぅ!?』
「え、普通に入り口からですけど」
『堂々と嘘をつくな。すまぬ、花の民よ。これには事情があって……』
フェアリーちゃんもグリフォンのアーラの言葉は素直に聞いてくれるらしい。
同じ幻獣同士、仲間だと思ってるのかな?
『結界を破ったことは済まなかった。しかしルチアは悪い人間ではないのだ』
『わかりました。あなたの言葉を信じますぅ』
……ちょろい、と喉から出かけた言葉を必死に飲み込む。
このフェアリーちゃんたち警戒心なさすぎだね……。
まぁ、無理矢理結界を破って入ってきた私が言えることじゃないんだけどね!
「ちょっと心配になったんだよ。ここって魔力を持つ特殊な花とかあるんでしょ? 変な奴に狙われてないかなーって」
だからその花を見せてください、と続ける前に、フェアリーちゃんがいきなり私の顔面に向かって突進してきたよ!
「ふぎゃっ!」
『そーなんですぅ! あの薄汚いゴブリンどもが私たちのお花を狙ってるんですぅ!!』
「……は? ゴブリン?」
顔面に張り付いた妖精を引きはがすと、妖精はびゅんびゅんと虫のように私の周囲を飛び回り始めた。
うわー、適当に言ったのに本当にそんな状況だったとは。
『でも優しい人間さんが来てくれて助かったですぅ。これであのゴブリンどもをやっつけてもらえるですぅ!!』
「え?」
『みんなー! この人間さんがゴブリンやっつけてくれるってー!!』
「ちょっと待って、そんなことは一言も」
『すごーい!!!』
いつの間にか、私の周りにわらわらと妖精たちが集まってきていた。
うわー、もう完璧にゴブリン退治に行くと思われてるよ……。
「私、これから冒険者ギルドに――」
『観念せい。余計なことに首を突っ込むからこうなるんだ』
「えー……」
アーラがつんつんとくちばしで背中をつっついてきた。
うぅ、思ったよりも面倒なことになっちゃったよ……。
この妖精ちゃん中々の策士かもしれない……。
まぁでも、結界破っちゃったのは事実だしこのまま放置してさよなら!……っていうのは自分でも酷いと思う。
敵を倒すことで魔力は増えるみたいだし、ここはパパッとゴブリンどもを掃討してやるか!
「わーかったよ! ちゃちゃっとやっつけてあげる!」
『わぁい! 案内するですぅ!』
フェアリーちゃんは嬉しそうにくるくると飛び回ると、森の奥の方へ飛んでいく。
あーあ、行くしかないか……。
『まあいいではないか。妖精は恩には報いる律儀な種族だぞ』
「それ信じていいのー?」
それが本当ならたっぷりお礼とか期待しちゃうぞ!
フェアリーちゃんに導かれるようにして森の奥へと進む。
やがて、森の中の花畑のような場所にたどり着いた。
「わぁー!」
すごい、花がいっぱい!
堕天使ルキフェールだった頃なら見向きもしなかっただろうけど、今の「ルチア」は花も恥じらう乙女なのです。こういうの見ると嬉しくなっちゃうね!
しかも、この花たち普通の花じゃない。
……けっこうな魔力を感じる。
中でも中央の大きな赤い蕾、ものすごい力だ。
「あれは?」
『新しい仲間の蕾ですぅ。ゴブリンどもはあれを狙ってるんですぅ!!』
新しい仲間……ってことは、もしかしたあそこからブルームフェアリーが生まれるのかな?
……なんて、悠長に考えてる暇もなかった。
『あー、また来てるですぅ!』
森の木立の向こうから、ゴブリンの集団がやって来るのが見えたのです。