6 冒険者ギルドを探そう
ばばっとオーガの群れを殲滅して、グリフォンの従魔までできちゃいました!
今のところ順風満帆だよ!
よし、冒険者になろうと思い立って冒険者ギルドを探す。
でも、町を歩き回ってもそれらしき建物は見つからなかった。
うーん、こういう時は……酒場で情報収集だ!
「残念、この町には冒険者ギルドはないんだよ」
「じゃあ一番近いところで冒険者ギルドがある街ってどこですか?」
「うーん、ここからだと……北のアルミラの街かな」
「ありがとうございます!」
情報を教えてもらった礼としてお酒……は頼めないからアセロラジュースを注文する。
すると、私の膝の上に乗っていたアーラが珍しそうにじっと見つめてきた。
グリフォンのアーラは普段なら私を乗せて空を飛べるくらい大きいけど、今は私の肩に乗るくらいの大きさの、ふっくらした、まるでぬいぐるみの小鳥のような姿に変わっているのです。
これなら街中で連れ歩いても驚かれることも少ないんだ。
この変化能力も従魔契約を交わした幻獣の能力なんだって。知らなかったなー。
(ルチア、なんだそれは)
「アセロラジュース、飲む?」
アーラがこくんと頷いたので、荷物からアーラ用のお皿を取り出しちょっとアセロラジュースを注いでやる。
アーラは器用にテーブルに降りてくると、ちゅんちゅんと愛らしい仕草でアセロラジュースを飲み始めた。
(ふむ、中々の美味だな。従魔になれば人のうまい食事にありつけると聞いておったが……真のようだな)
(もしかして、従魔になったのってそれが目的?)
確かに、ただ水や木の実や肉を食べるよりも、ちゃんと調理した人の食事の方がよっぽど美味しいもんね。
アーラも意外とそういう目的があったのかもしれない。
「お嬢ちゃんのペットかい? よく躾けられてるねぇ……」
「すっごくいい子なんですよ。ねー」
ふわふわした体を撫でると、アーラはどこか不服そうにピィピィと鳴いていた。
確かに、この姿だとどう見てもかわいい小鳥にしか見えないよね。
よしよし、とふわふわの羽毛を撫でてやると、アーラはぷぅ、と体を膨らませた。
(高貴なるグリフォンである我がペットとは……)
(ごめんごめん、でもその方が怪しまれなくていいじゃん!)
この念話能力も従魔特有の能力なんだ。
多少は大目に見られても、街中で堂々と小鳥に話しかけてたらちょっと危ない奴だと思われるかもしれないし。それは避けたいんだよね。
そういう時に便利なんだ。あと周りに聞かれたくない話をする時とかかな。
(ほらほら、宿屋に帰って準備しよ!)
ぷくぅと膨らんだアーラを肩に乗せ、私は酒場を後にした。
◇◇◇
「うーん、お金が心もとないなぁ……」
元々は王都での入学試験を受けるための準備しかしてなかったんだよね。
それに困らないだけのお金は持たせてもらっていたけど、冒険者として生活を始めるとなるとそれもまたお金がかかりそうだよ。
仕方ない、さっき聞いたアルミラの街までは馬車に乗るのはやめて、アーラに乗せてもらおう。
野宿をするのも想定して非常食や野営道具を買い込み、鞄にしまう。
ここで、ちょちょっと魔法を使ってみます。
「“ミニマム!”」
するとあら不思議、大きくてかさばる道具類が少し小さくなったではありませんか!
……なーんてね!
“ミニマム”はこの通りアイテムを小さくする魔法なのです!
ちなみに元の大きさに戻したいときは逆にアイテム大きくする“マキシム”っていう呪文を使えば問題ないっていう便利魔法なんだ。
ルキフェールの頃はどんなものでもそれこそ小指の爪程度にまで小さくできたけど、今はちょっと小さくするのが精一杯みたい。
もっと小さくなれば楽なんだけどなぁ……。
「アイテムボックス欲しいなぁ……」
アイテムボックスはちょっと特殊な魔法の道具なんだ。
魔法の力で実際の収納キャパシティ以上にどどんと色々ぶち込めるんだよね!
今は持ち運びできる鞄や袋みたいなタイプもあるみたい。
見た目以上の収納! これがあれば旅も楽々!!
そんなアイテムボックスが欲しくなってくる。
“ミニマム”とアイテムボックスを合わせれば、それこそ旅も楽になりそうなんだよね。
<クラフト>の力で作れないかな~と試したこともあるけど、やっぱりそれなりに魔力を持つアイテムを混ぜないと魔法具の生成はできないみたいだったんだ。
アイテムボックスって貴重品でかなりお高いみたいだし、自分で作れたら色々楽になりそうなんだけどな。
そのためには<クラフト>ももっと鍛えていかないとね。
「もっとスキル使ってくかぁ」
スキルというものは使えば使うほど成長するという性質を持っている。
その成長速度も人それぞれで、神族や魔族は滅茶苦茶成長が早い。人間はそれに比べると明らかに鈍足なんだよね。
そして、ルチアは人間。道のりは遠いのです……。
まぁ落ち込んでも仕方ない。今はとりあえず冒険者を目指しますか!
「お待たせ~、じゃあ行こっか!!」
待ちくたびれたようにその辺を飛び回っていたアーラに声を掛けると、おとなしく私の肩にとまった。
よし、いよいよアルミラの街に向けて出発だ!
町を出て、森に囲まれた街道を進む。
町からも離れ誰もいなくなったところで、アーラはマスコット形態への変化を解いて元の立派なグリフォンの姿に戻った。
小さい小鳥形態もかわいいけど、やっぱりこっちのほうが従魔!……って感じはするね。
『まったく何がペットだ……』
「まぁいいじゃん。ああいう小さい町にいきなりグリフォンが現れたなんて騒ぎになりそうだしさ」
アーラはぶつぶつ言っていたが素直に私を乗せてくれるみたいだ。
グリフォンの背にまたがり、もふもふした羽毛を堪能する。
「ふわふわ~」
『おい、しっかり掴まってないと落ちるぞ』
「はーい」
抱き着くように首に腕を回すと、アーラはふわりと上昇した。
「うわぁ、たかーい!!」
『おい、暴れるなよ』
たぶん私を振り落とさないように高さや速さは抑えてくれていると思うけど、すごい高い!
でも快適!!
風と一緒になるように飛んでいると、ふと昔のことを思い出した。
私も天使だった頃は純白の、堕天してからは漆黒の、それはそれは立派な翼を持ってたっけ。
あの時は自由に空を飛べるのが当たり前だったけど、今は必死に地面を走っている。
自分で空を飛ぶのも気持ちよかったなぁ……。
でも、魔力さえ戻れば空を飛ぶ魔法も、翼をはやす魔法だってきっと使えるようになるはず。
そんな魔法がないなら作っちゃえばいいしね!
「もっと高くー!」
『調子に乗るでない。落ちても知らんぞ』
結局その日のうちにはアルミラの街には着かなくて、アーラも疲れたと言い出したので森の中で野宿をすることにしたよ。
「“ファイア”」
魔法で火を起こして、買っておいた干し肉と固焼きパンをもそもそとかじる。
もちろん、“ミニマム”で小さくしていたので“マキシム”で元の大きさに戻してからね。
食べ物を魔法で大きくすればその分お腹が膨らむんじゃ?……と思って試したこともあるけど、不思議なことに実物以上に大きくすると味が滅茶苦茶落ちるんだよね……。
食事っていうからにはやっぱり美味しく食べるのが一番だよ。
でも、やっぱり保存食よりは普通の料理が食べたいね……。
『もっと美味いものはないのか』
「贅沢だなぁ。町に着くまではこれで我慢だよ」
アーラは保存食の味がお気に召さなかったのかぶつぶつと文句を言っていた。
どうやらこの数日ですっかり人の食事の味を覚えてしまったみたいだね。
まったく、この贅沢グルメグリフォンめ……。
「ほら、もう寝よ! 明日は早起きね!!」
『寝坊するのはお主の方ではないか。今朝も……』
「あーはいはい! おやすみ!!」
毛布をかぶって、ついでにアーラのふわふわの羽にくっついて寝る体制に入る。
天然の羽毛布団みたいなものだからふわふわで気持ちいぃ……。
でも、背中の方は細かい石がごつごつしてて寝にくい。
やっぱりふかふかのベッドで寝るのが一番だなぁ……。
アイテムボックスがあればベッドとか持ち歩けないかなぁ。
なんてことを考えているうちに、私はいつの間にか眠りの世界へとこんばんはしていたのです。