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5 従魔ができちゃいました

 私とグリフォンはこそこそとオーガの巣の近くに戻ってきた。

 もう町の襲撃に行ってたらどうしよう……と心配だったけど、オーガたちはまだそこにいた。

 よしよし、これで一安心だ。


「じゃあ私が幻惑魔法をかけるから、その隙にあの王冠を取っちゃってね」

『それはいいが……お主は幻惑魔法など使えるのか?」

「任せとけって!」


 大規模なものは使えないけど、短時間オーガの群れを攪乱するくらいなら大丈夫そうだね。

 落ち着いて現在の魔力を確認する。

 <魔力顕現>っと……


 MP45/45


 うーん、はじまりの杖の補助効果があってもこんなものか。

 これは失敗できないなぁ。まぁ、失敗するなんてまったく考えてないんだけどね!


「いくよ……“フィアー”」


 杖を構え、オーガの群れに向かって<フィア―>の魔法を発動させる。

 数秒した後、オーガ達は何かを恐れるように叫んだり暴れたりし始めた。

 よしよし、大成功だ!


 この<フィア―>の魔法は、対象に恐怖の幻惑を見せて錯乱させる魔法なんだ。もっと魔力があれば、混乱させて同士討ちを狙う<コンフューズ>とかも使えたんだけど、今の魔力だとこのくらいが限界かな。

 でもこれでも結構魔力を使う。二度目はない。

 あとはグリフォンがうまくやってくれるように祈らないと……!


 オーガのボスも何かを恐れるように手足を振り回している。

 だが何かに気づいたように雄たけびを上げ始めた。その途端、周囲のオーガたちの動きがぴたりと止まる。

 やばい、まさか正気に返ったか……!?

 そう焦った途端、大きな羽音が聞こえた。


「ウグァ!?」


 グリフォンが素早い動きで宙を舞う。

そして、ボスオーガの頭の上から王冠を奪い取ることに成功したよ!


「やった!」


 グリフォンが私の元に戻ってくる。その爪先から王冠を受け取り、今度は私の頭の上に乗せてみる。

 ……さっきまでオーガがつけてたものって考えると頭に着けたくなんてないんだけど、仕方ないよね!


「ウグアアアァァァァ!!」


 ボスオーガが激高したようにこちらへ突進してくる。

 やばっ、<魔力顕現>っと……


 

 MP305/345



 おぉっ……! “フィア―”で消費したとはいえMPがめちゃくちゃ増えてる!

 これならばっちりだ!!


『おいっ、来るぞ!?』

「大丈夫だって!」


 魔力さえあれば怖いものなんて何もない。

 こんなオーガぐらいちょちょっと一捻りじゃーん!

 一発でオーガの群れを殲滅するような、広範囲魔法……そうだ!



「“ライトニングテンペスト!”」



 オーガの群れに向かって、無数の雷撃の嵐を放つ。

 バチバチと辺りに無数の閃光が走ったかと思うと、次の瞬間雷撃は圧倒的な力でオーガたちを四方八方から撃ち抜いていく!


「グギャアアアァァァァ!!」


 オーガたちの断末魔と、バリバリと電撃がほとばしる轟音が響き渡る。

 私の方にまでびりびりとした衝撃が伝わってくるくらいだよ。

 ふ、ふふふふふ…………


「ああぁぁぁぁ! 気持ちいいぃぃぃ!!!」


 やっぱ魔法ってこういうものだよね!

 派手に、爽快に、圧倒的に!!

 これこそが堕天使ルキフェール様の力だ!!


『……お主、いい性格をしとるな』


 グリフォンの若干引き気味な声が聞こえたけど気にしない!


 やがて雷撃がやむと、その場には黒焦げになったオーガたちが倒れ伏していた。

 あのボスオーガも、無残な姿になってるね。

 ふふ、私にかかればこんなものよ……と悦に浸った途端、


 ぱきっ、と頭上から嫌な音が聞こえた。


「えっ!?」


 あれ、なんか嫌な予感が……

 慌てて王冠を手に取り確認する。そして私は絶句した。

 なんと、王冠にはめ込まれていた紅い魔石がぱきぱきと割れ砕け散っていくではないか!


「ちょ、ちょっと待ってよー!!」


 慌てて砕けた欠片を拾い集めたけど、その欠片からは先ほどまでも強大な魔力が感じられない。

 まさか、使い切りタイプだったのか!?


「うっそー!!」

『やかましい童だな……』


 グリフォンが呆れたように近づいてくる。

 でも、私はショックで魂が抜けたような気がしていた。

 そんな、せっかく強力な魔道具を手に入れたかと思ってたのに……。

 これで前みたいにばんばん強力な魔法を使いまくろうと思ってたのに……!


 そんなのってないよー!!


 くすん、と鼻をすすりながら一応<魔力顕現>で確認してみる。


 MP5/55


 ……あれ、さっきとは比べ物にならないけど、元々のMPに比べると上限がちょっと増えてるぞ?


「もしかして、オーガを倒したことで強くなったとか……?」

『事情はよくわからんが、強い敵を倒せば自身も強くなる。それは当然の摂理ではないのか?』

「!!?」


 そういうものなの!?

 そう言えば、前世のルキフェールも挑んでくる奴らをいつも一捻りにしてたっけ。

 なるほど、戦えば戦うほど強くなる。これはいいことを聞いたね!


『……お主、ただの童ではないな。何者だ』

「えっ?」


 振り返ると、グリフォンが真面目な顔でじっと私の方を見ていた。

 何者だって言われると、うーん……


「名前はルチア。今は人間の12歳。前世は……魔術が大好きな堕天使だったんだ」


 ちょっと迷ったけど、この際正直に話すことにした。

 家族にはまさか前世が堕天使でした、なんて言えなかったけど、まぁこのグリフォンにならいいかなって気がしたんだよね。


『なるほど、前世の記憶を引き継いでおるのか』

「引き継ぐっていうか、最近思い出したんだけどね。魔力さえ元に戻ればオーガの群れなんて私の敵じゃないしね!」


 無茶苦茶な話だとは自分でも思うけど、グリフォンは納得したように頷いていた。

 幻獣って長い時を生きる種族だし、色々と達観してるのかなー。


『して、お主はこれからどうするつもりなのだ』

「うーん、元々は王都の魔術学院に入学するつもりだったんだけど……」


 それが、魔力を取り戻す近道だと思っていた。

 でも、戦って強くなれるならそっちの方が早くない?

 魔術学院に入っても、どうせほとんどは座学だろうしね。そんなのつまんない。

 私はもっと、ばばっと派手な魔法が使いたいのに!!

 うーん、やっぱり……ここは路線変更だ!


「それはやめて、冒険者になろうと思うんだ!」


 冒険者になれば、色々なモンスターと戦える。しかも、モンスターと戦ってお金を得ることもできる。

 魔道具の情報だって手に入るし、何よりも誰でもウェルカムな職業なんだ!

 たぶん子供の私でもなんとかなる気がするんだよ。


『そうか、ルチアよ……』


 グリフォンが真面目な顔をして一歩私の方に近づいてくる。

 そして、その場に跪くような体勢を取った。

 えっ、なになに!?


『我を、お主の従魔にしてはもらえぬか』


 従魔、従魔ねぇ……。

 ちょっといきなりでびっくりしたよ。


「私は別にいいけど……なんで?」

『我は各地を旅し強さを求める修行に明け暮れておる。だが……この森のオーガには歯が立たず、敗北を期しておったところだ。それを、お主はたった一度でオーガ共を殲滅して見せた。その強さに、我は感銘を受けたのだ』


 ふふーん、私のファンになっちゃったってことか!

 別に断る理由もないし、ここは受けてもいいかな。

 グリフォンがいれば移動も便利そうだしね!


「わかった。いいよ、契約しよう」


 そっとグリフォンに手を伸ばし、そのふわふわとした羽毛を撫でる。

 私とグリフォンが触れ合い……繋がりあう。


『……契約の証に、我に新たな名を』

「うーんグリフォンの……名前……」


 幻獣が従魔になることを承諾し、主……この場合は私が従魔に新たな名前を与えることで契約は成立する。

 名前はどうしようかな。これから一緒に戦う仲間になるんだし、適当につけたらだめだよね……。


「そうだね、あなたの名前は……『アーラ』。古代語で『翼』っていう意味なんだ」


 私の移動手段……じゃなくて翼になってね、アーラ!


『ルチアよ、我の命続く限り主を守ろう』

「そんな必要ないくらいすぐに強くなるよ」


 こうして、私とグリフォン――アーラは従魔契約を交わした。

 仲間も増えたし、心機一転冒険者を目指して頑張ろう!


「行き先変更! 目標は王都じゃなくて……冒険者ギルド!!」


 あっ、故郷の家族には何て言おう……。

 まぁ、適当に手紙でも書いとけばいっか!!

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