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4 こんにちは、グリフォンさん

 森の中を進むにつれて、だんだんと魔力の気配が強くなっていくのを感じる。

 <魔力感知>や辺りの生き物の気配を探る<生命探知>を使い、私は危険を避けて進んだ。

 昔と違って今は魔法を使える回数が限られてるし、できるだけ温存しておきたいもんね。

 ……やがて、<生命感知>が大きな生き物が複数集まっている箇所を捕らえる。

 気づかれないようにそっと近づく。そこには……


「っ……!」


 筋肉隆々の緑色の巨体――オーガが何体も集まってるじゃん!

 その向こうにはぽっかり穴を開いた洞窟が見える。あそこがオーガの巣なのかもしれない。

 でも、こんなに人の町に近い場所にオーガの巣があるなんて……ちょっとやばい気がするなぁ。


 じっとその様子を見ていると、やがて洞窟の中から一頭のオーガが姿を現した。

 その途端、洞窟の前に集まっていたオーガが現れたオーガに頭を垂れるようなそぶりを見せたんだ。

 あれが……この群れのボスかな。


 ボスオーガは何やらオーガの言葉で集まった奴らにまくし立てている。

 その様子は、どこか演説のようにも見えた。

 ……おかしい、オーガってこんなに知能が高くはないと思ったのに。その統率の取れた様子にちょっと危機感を覚えてしまうよ。

 ルキフェールが死んでからだいたい百年ほどの時が流れている。

 その間に、オーガ共は飛躍的な進化を遂げた……とも考えにくい。

 じゃあ、なんだろう?


 そう考えを巡らせて、オーガの群れを観察して、私は気がついた。

 ボスオーガの頭部に、紅い宝石のあしらわれた王冠のようなものが乗っている。

 そこから、強い魔力を感じる。


 気づかれないようにそっと、<魔力感知>を発動させる。


「っ……!」


 オーガの頭の上の王冠、それが今まで見たこともないほど強く光っていたんだよ!

 きっとあれは、強力な魔道具に違いないね! 

 もしかしたら、それであのボスオーガの知能まで向上したのかも。

 この辺りは特に魔力の気配が強い。

 あの王冠がこのあたりの魔素に変化を与え、あのオーガ軍団まで少し特殊な状態にしてしまった……という感じかな。


 これはまずい。早くこの事態をなんとかしないと、人里に被害が出るかもしれないよ。

 急いで町に知らせて、冒険者か騎士団を派遣してもらうべきだね。

 さっそく行動を起こそうと、私はそっと立ち上がった。

 だがその瞬間、うっかり小枝を踏んでしまったのか、ぱきりと大きな音が響く。


 うわ、やばいじゃーん!


「ウグァ!?」


 オーガの群れが一斉にこちらを振り返る。そして、ばっちり目が合ってしまった。

 ひゃあぁぁ……。


「あの、私怪しい者じゃないんで……」


 一応弁解してみた。でも、オーガに通じるはずがない!


「ウグアアァァァァ!!!」

「うひゃあああぁぁぁ!!」


 一斉にオーガがこちらへ突進してくる。ひいぃぃぃ……!

 私は一も二もなく駆け出した。

 早く逃げなきゃ! 今の魔力であの群れを相当するのはさすがに厳しそうだし。

 早く、逃げ……


 そこで気がつく。このまま私が一直線に町に逃げれば、私を追ってきたオーガはそこで暴れるだろう。

 そうなったら、町の人に犠牲が出るかもしれない……!

 今の私は人間だ。その仲間意識が発動したのか、やっぱり私のせいで町の人が襲われるのってなんか嫌だしね!

 こうなったら走り続けてオーガをいて、気づかれないうちに森を脱出するしかない。

 そう決めて、ひたすらに森の中を走る。

 でも……


「はぁっ……はぁ……」


 やがて息が切れてくる。堕天使だったころだったら身体強化の魔法が使えたし、空を飛ぶ翼だって持ってたし、そもそもこんなオーガの集団くらい指先一本で蒸発させられたのに!!

 それなのに、今の人間の少女の体はこんなにも弱く脆い。

 ……悔しい。堕天使の時のような力があれば、こんなのなんともなかったのに!!


「あぅっ!」


 そんな時、疲れて足がうまく動かなかったのか、木の根につまづき派手に転んでしまう。

 慌てて立ち上がったが、すぐ背後にオーガが迫っていた。

 ……え、まさかこんなところで死ぬの!?

 オーガごときに殺られるなんて、ナルシスト天使ミカエルに全身串刺しにされるのに匹敵する嫌な死に方だよ!


 逃げようとしたけど、間に合わない。

 そしてオーガの爪が振り下ろされる瞬間――


「ウグアァッ!?」


 私とオーガの間に、いきなり何かが割り入ってきた。

 いきなり空から飛来した鳥のような何かがオーガに襲い掛かっている。

 ……いや、鳥じゃない。大きな翼を持ってるし、頭部も鷲みたい。

 でも、下半身はまるで獣のような四つ足。


 これは……幻獣のグリフォンだ!


 オーガが怯むとそのグリフォンはくるりと旋回し、私のすぐ上にやって来た。

 そして……


「えっ、わひゃああぁ!?」


 いきなりの浮遊感に変な声が出ちゃった!

 グリフォンが私の背中をがしりと爪で掴んだかと思うと、私の体は宙に浮いていた。そのままグリフォンは高く飛んでいく。

 えっ、なにこれ!


 高度が上がるにつれて森の木々がどんどん小さくなる。

 高い! ちょっと怖い!!

 これ落ちたら絶対死ぬんですけど!


「ひゃああぁぁぁ!!」

『喋るな。舌を噛むぞ』

「うわああぁぁ! しゃべったあぁぁぁ!!」


 そう言えば幻獣の中には言葉を喋れるのもいるんだっけ……

 すっかり忘れてた!


「ねぇ、どこいくの!?」

『だから喋るなと……奴らが追ってこられない、我の巣だ』


 このグリフォンは私の味方だって思っていいのかな。

 私はまるで運ばれる獲物のように、落ちないことを願いつつ空中散歩をおっかなびっくり体験しました。

 うぅ、自分で飛ぶのは好きだけどこうやって運ばれるのは結構怖いもんだね……。


 やがて、高い岩場に降ろされる。

 ちらりと下を除くと、まさに絶壁というべき場所だったよ。下の方に森やその向こうの町が小さく見えるね。

 うーん、空を飛ぶ手段を持ってないとここには来れなさそうだね。


「ここがあなたの巣なの?」


 振り返ると、グリフォンはこくりと頷いた。

 ふぅ、なんとか話が通じそう。

 よかった、いきなりとって食われるようなことはなさそうだね。


『娘御よ。なぜあのような場にいたのだ。あの町の住人は森に潜む者を恐れ森に立ち入ろうとはしないであろう』

「へぇ、そうなんだ。私この町を通りがかっただけだから全然知らなくて」


 まったく、そんな注意事項があるなら誰か教えてよ!

 危うくオーガに食い殺されるところだったじゃん!


『……変わった童だな。死ぬような目にあったのにそのようにぴんぴんしておるとは』


 うーん、確かに怖いっていえば怖かったよ。

 でも、前世の色々を思い出した今となればオーガ=雑魚敵っていう意識が抜けないんだよね。

 今の私の実力からすれば、そんな舐めた真似してたらすぐに死にそうだけど。


「あのオーガ、ちょっと異常だった。オーガのボスが持ってた王冠が原因だと思うんだけど」

『なんだ、そこまでわかっておるのか』

「このままだと町の人まで襲われそうだよ。なんとかしないと!」

『そうだろうな。現に、オーガ共が力をつけ森の獣はほぼ食い尽くされた』

「それってやばいじゃん!」


 調子に乗ったオーガはじきに人里を襲うようになるだろうね。

 もしかしたら、そのためにあんなに町に近い場所に巣穴を構えていたのかもしれない。

 うわー、早くしないとまずそうだよ!


「あなたも、そこまでわかってるなら町の人に話してオーガを討伐してもらえばいいじゃん」

『……自覚がないのか』

「なにが?」

『我の言葉を解するのは素養のある者のみ。試したことはあるが、逆に我の方が人を襲う魔物として討伐されそうになったわ』


 幻獣の言葉を解するのは素養のある者のみ。

 そうなんだ、全然気づかなかった……。

 どうやらあの町では、このグリフォンの言いたいことを理解してくれるような人は見つからなかったようだね。


「じゃあ私が行ってくる。すぐに冒険者か騎士団を連れてきてもらって……」

『おそらく、間に合わんだろうな』

「えっ?」

『オーガ共があの穴倉に巣を移したのは最近だ。先ほどのあれは、おそらく決起集会のようなものだろう。数日の間に、早ければ今日明日にでもオーガ共は人里への侵略を開始する』

「えぇっ!?」


 町に戻って、冒険者や騎士団を呼んで……ってやってたら間に合わないじゃん!

 町の人を避難させるにしても時間がかかるし、そもそも子供の私の話を信じてもらえるかどうかもわからない。

 残る方法は……


「あのボスオーガを、倒す……」

『あやつは強いぞ。我も何度か挑んだが、オーガとは思えん統率の取れた動きで頭領を守っておる。あの王冠さえ奪えれば活路は開けるだろうが……』


 そうだよね、あの王冠がボスオーガを強化している。

 あの王冠を奪えれば、私だってその力の恩恵に……


「そうだ!」


 最初から倒すことを考えなくてもいい。オーガたちを攪乱して、その隙に王冠を奪う。

 あの王冠が魔道具ならそれで私も強い魔法が使えるようになるはずだ。

 うー、そう考えたらすごい欲しくなってきた!


「私が幻惑魔法を使って隙を作るから、あの隙にあの王冠をちょちょっと奪って私のとこに持ってきてくれない?」

『それは構わんが……奴はあの王冠に執着している。奪われたとなれば地の果てまでもお主を追いかねんぞ?」

「だいじょーぶ! その場でばばーんと倒して見せるから!」


 魔力さえあればあんなオーガの群れなんて私の敵じゃない!

 グリフォンも訝しげな顔をしていたが、私の提案に頷いてくれた。

 よしよし、これで私の魔力復活へ一歩近づく……じゃなくて町の人を守らなきゃね!

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