表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/31

2 <ギフト>と<クラフト>

 翌日から、私はさっそく行動を開始した。

 まずは今のこの体で扱えるスキルや魔法の確認だね。


「<魔力感知>……おぉ、いけるじゃん」


 周囲の魔力を感知するスキルを使うと、確かにスキルは発動したよ。

 てきぱきと料理を作っているお母さんの体が、淡い紫色に光っている。

 これは……魔力反応だね!

 うーん、やっぱり人間だね。前世で関わっていた奴らの魔力量と比べると、巨大なドラゴンとありんこくらいの差がある気がするよ。

 そっと自分の手を確認すると、私の体からも同じくらいの……いや、もっと小さな魔力反応が出ていた。

 ……私の魔力量もたいしたことないね。

 予想はしてたけど、やっぱり落ち込んじゃうな……。


 それに、スキルの効果も随分と弱体化しているみたい。

 以前だったら大きな山一つ分くらいの範囲は<魔力探知>ができたのに、今魔力オーラが視認できるのは私とお母さんだけ。

 小さな家一つ分といったところかな。

 ……効果範囲が、滅茶苦茶せまくなってるじゃん。


「あら、どうしたのルチア?」

「ううん、なんでもないよお母さん!」


 お母さんは私がじっと見つめているのに気がついたのか、不思議そうにこちらを振り返った。

 危ない危ない、慌てて誤魔化してその場から退散する。


 ――ルチア・アルフィーネ


 それが、今の私の名前。

 とりたてて特筆するようなことがないありふれた田舎――ここオリア村で、平凡を絵に描いたような家庭に生まれた12歳の女の子。

 ……まさか家族も、私の正体が反逆の罪で討伐された堕天使の生まれ変わりだなんて、夢にも思わないだろうな。

 昨日までも私も、そんなことは考えたことすらなかったもんね。


「うーん……」


 じっと鏡を覗き込むと、そこにはまだあどけない女の子の姿が映っている。

 背中のあたりまで伸びた、お母さん譲りのちょっと自慢のローズブロンドの髪に、菫色の澄んだ瞳。

 頭の上でぴょこんと揺れるリボンカチューシャはお気に入りで、いろんな色を持ってるんだ。

 うーん……自分で言うのもなんだけど、中々かわいい女の子だと思う。

 この愛らしい少女が、前世では「最強の堕天使」とか呼ばれ恐れられていたなんて誰も思わないだろうな……。


「どうしたの? ルチアちゃん。あっ……もしかして好きな男の子でもできたのかな!?」


 じっと鏡を見つめていると、通りがかったお姉ちゃんが変な勘違いをしてきた。


「だれだれ? お向かいのアルフレド? それともこの前一緒に遊んでたイサークかな?」

「もう、そんなんじゃないよ!」

「大丈夫、ルチアちゃんはとーってもかわいいから!」


 こいつ、全然話を聞いてない……!

 この一人で盛り上がっているのは4歳上の私の姉、ミレーナお姉ちゃんだよ。

 普段は面倒見がいい優しいお姉ちゃんなんだけど、こうやってすぐに思い込みで暴走するのが玉にきずなんだよね……。


「ねぇ、昨日の魔術師の人ってまだこの町にいる?」

「うん、旅の行商人の人と一緒って言ってたから、あと数日くらいはいるんじゃないかな?」


 これはいいことを聞いた!

 前世の私は、それこそ強大な魔法を自由自在に操っていたんだ。

 でも、それは膨大な魔力と感覚に頼っていたところが大きいんだよね。

 だから、人間の身でどう魔術を操るか、というところがいまいち抜けている気がするんだよ。

 魔術に興味を持った子供って振りをして、あの魔術師にいろいろ聞いてみることにしよう。


「ありがとお姉ちゃん。ちょっと出かけてくる!」


 まだまだ試したいことはたくさんある。

 善は急げと私は家の外へと飛び出した。



 ◇◇◇



 小さな小石をいくつか集めて、地面に並べる。

 そして、意識を集中させる。


「<クラフト>発動……」


 その途端、小石たちがかたかたと跳ね自然と集まっていく。

 そして石同士がくっつき大きな石になったところで、ちょっと手でぐねぐねと捏ねて手助けしてやると、なんとか完成した。


「できた! 石のナイフ!!」


 私の手にあるのは、先の尖った石でできたナイフだ。

 ここにお母さんかお姉ちゃんがいたなら「危ないからそんなもの捨てなきゃだめよ!」とか慌てただろうけど、今は私一人。

 へへっ、ちょっと冒険しちゃった感じだね!


「うーん……」


 今私が使ったのは、<クラフト>という珍しいスキルなんだ。

 何が珍しいかって、これは天使を含む上位神族固有の能力なのだ!

 いくつかの素材を合成し、新たなアイテムを作り出す。

 人間でいう鍛冶や錬金術に近いけど、特に器具とかを必要としないのが特徴かな。


 前は、ちょっとイメージするだけでぱぱっとお望みの物を作り出すことができたんだけどなー。

 今は素材同士を融合させることはできたけど、私の手で形を整えてやらなきゃいけないみたいだし、できたナイフも……ちょっと不格好だね……。

 これじゃあ紙くらいしか切れなさそう。ペーパーナイフだよ。

 熟練の神族となればこの<クラフト>で山や湖を作り出したり、果ては天地創造などもやってのけるのんだけど、今の私には難しそうだね。

 この<クラフト>自体も弱体化してるなー……。


 それに、この力は堕天した時に失ったはずなのに。

 何の因果か、人間に転生したらまた使えるようになったみたい。

 うーん、神族固有の能力だから本来は使えたらおかしいんだけどね。

 まぁいいや。魔力量がこんなに少ない以上、使える手は多い方がいいしね。


 一度<クラフト>を使ったら、その力が感じられなくなった。

 完全に使えなくなったということはないだろうから、無制限に使えるわけじゃなく時間を置かないと再び使えないということなんだろうね。

 堕天する前は好きにホイホイ使えていたから、ここでも私は随分と弱体化しているらしい。

 人間って、便利だけど大変だよなー……。


 石のナイフを懐に仕舞いとことこ歩いていくと、原っぱに羊が放牧されていた。

 ……ちょうどいい、他の能力も試してみよう。


「<ギフト>……“電光石火”」


<ギフト>は<クラフト>と同じ天使の能力で、一時的に他者に祝福を与え、その能力をブーストさせるスキルなんだ。

 魔法でも支援魔法で同じようなものがあるね。

 でも堕天使ルキフェールは攻撃魔法に特化してたし、ぼっち……じゃなくて孤高の存在だったから、支援魔法あんまり詳しくないんだよなぁ……。

 ちなみに、今近くにいた羊に与えたのは、一時的に素早さを上げる“電光石火”の加護だよ。


「メェ!?」


 羊は急に“電光石火”の加護を与えられ驚いたように飛び上がった。

 そして、自身の変化に気づくと物凄い勢いで走り出した!


「速っ! おい待てよ!!」


 その辺でダラダラしていた羊飼いが慌てたように逃げた羊を追いかけていく。

 それでも“電光石火”の加護を得た羊の速さは圧倒的だった。羊飼いを引き離し、風のような速さで草原を疾走している。

 うわー、やるじゃん私!


「うん、上出来!」


 これは中々うまくいった。ただ一つ問題なのが、自分自身には<ギフト>を掛けられないということかな。

 これで魔力を増やす祝福とか掛けられれば簡単なんだけど、そううまくはいかないんだよね……。


 その後も色々試してみたけど、やっぱり強すぎる能力は使えなくなっていた。

 使えるのは本当に簡単なスキルと魔法、あとはさっきの二つのちょっと特殊な能力くらいかな。


 そうだ、あともう一つ……。


「……<魔力顕現>」


 これは、前世で私が編み出したスキルなんだ。

 何を隠そう、自身の持つ現在の魔力量を数値化して確認することができるというすごいスキルなのだ!

 ……といっても、堕天使だったときは魔力が枯渇することなんてなかったから、実はそんなに使うことはなかったんだけどね。

 たまに思い出したように自分の魔力量を確認しては、悦に浸るくらいだったかな……。

 おそるおそる、今の「ルチア」の魔力を確認する。



 MP36/36



 うわっ……私のMP、低すぎ……?


 正確な数値は覚えていないけど、“メテオレイン”を使うのにはMPが6000くらいは必要だったはずなんだよね。

 はぁ、そりゃあ発動しないわけだよ……。


 確認したところ初歩的な魔法でもだいたいMPを3~12くらいは使うから、魔力が万全の状態でも数回から10回くらいしか魔法が使えないわけか。

 ……これは思った以上にやばい。


「効率的なMP回復の方法も考えとかないと……」


 魔力を使い果たしてもゆっくり寝たりしてればそのうち自然に回復するけど、私にそんなちんたらしてる時間はないのだ。

 一刻も早く、元の強大な魔力を取り戻さなければ!


「目標! もう一度“メテオレイン”を使えるようになること!!」


 とりあえずの目標をそう決めた。

 その為には、あと5970くらいの魔力を取り戻さなければいけない。

 ……うん、果てしなく遠い目標だけど、


「よーし、燃えてきたぁ!!」


 逆境上等! こんなことでへこたえるルキフェール様ではないのだ!

 魔力が戻った暁には、あのミカエルのナルシスト面に思いっきり魔法をぶち込んでやるのもいいかもね!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ