夢旅8
やっぱりや。今晩もみな来るぅ思てたんやで、おばちゃん。うまいかとか、ようさん買うて来といたからな。あれま、ボンサンやないの。ごめんな、おばちゃん口悪いなぁ、ボンサンやて。せやけど、ちっちゃい時からのあだ名やからええわな。ボンサンはボンサンやもんな。せやけど立派なったなぁ。ふん、ふん、へぇー、おばちゃんら、なんもわからへんけど物理とか勉強してんかいな、かしこかったもんな、ボンサンは。うちの子はこれやろ、もうちょっとなぁ。せやせや、サッチン、今日な、さらの寝間着買うて来たあげたで。いつもおばちゃんのくたびれた寝間着やったら、あれやもんな。なんや、おばちゃん、今晩もみなうち来るような気ぃしとったんやわ。出しといたあげるから、さき浴びといで。な、そうしぃ。
キーチャン「寝間着買わんでよかったやんけ」
サッチン 「うん。せやけど。モーヤンやないけど、めっちゃいやな予感しまくりやわ」
サッチンのめっちゃいやな予感的中ですわ。モーヤンのおかあはんが買うて来てくれた寝間着っちゅうのが、これまた目ぇが痛なるようなピンク色のスウェットの上下でして。ほんで胸んとこには見たこともあらへんキャラクターなんですが、蝶ネクタイしたカメが鎌首もたげて、ニッと笑てます。案の定、大爆笑となりました。
サッチン 「ほんま、かなんわぁ。あれやなぁ、嫁と姑て、こういうとっからいろいろややこしなってくるんやろな。モーヤンのおかあはんかてなんも悪いことあらへんし、うちかてありがたい思わなあかんねんやろけど。こんなんがずう~っと続いたら、あれなんやろな、なんか、こう、いぃ~ってなるんやろなぁ」
キーチャン「クククっ、あかん腹痛い。なんや、おまえ、モーヤンとこ行くん決めたんか。クククっ」
サッチン 「アホなこと言いな。一般論や、一般論」
モーヤン 「別居するがなぁ」
キーチャン「ほんでパンツは、どんなパンツ買うてもろたん? クククっ」
サッチン 「色合わしてピンクの水玉や。なんやったら見したろか。小学生みたいなパンツ」
キーチャン「もうあかん、腹、痛すぎる! ボ、ボンサン、おもろないんか? おまえ」
ボンサン 「なにがおもろいねん、きみら。うちのオカンも妹も似たようなもん着てるわ」
キーチャン「クククっ、そら、そうかもしれんけどやな。クククっ、おまえ、ほんま冷めたやっちゃなぁ。もうちょい、こう、みなと一緒なってやな」
ボンサン 「しょうもない。風呂浴びよ、風呂。はよヨッサンとこ行かなあかんがな」
例によって、モーヤンとキーチャンが一緒にさき風呂浴びたあと、タケサンとボンサンが一緒に風呂からあがって来よりました。それぞれビール瓶とうまいかなど載せたおぼん持っております。
モーヤン 「お、ぼんち揚げもあるやん。これ好きやねん」
キーチャン「ビールにぼんち揚げは、あわんやろ。どれ、ひさびさに食うたらうまいな、ぼんち揚げ」
ボンサン 「ぼんち揚げもええけど、どないやって寝るねん? 5人も」
キーチャン「そないせかんでもええがな、ボンサン。草木も眠る丑三つ時にシュッと出たほうがええやろ。ヨッサンかてまだ起きてるかもしれんがな。ま、ビールでも飲みいな」
タケサン 「せや、モーヤン、ピストルとか持ってへんか? プラッチックのオモチャのやつでええねん」
サッチン 「あんた、どないしてもピストル持って行きたいみたいやな」
キーチャン「ギューンて瞬間移動して、ヨッサンにピュ、ピュッ、バァーンてやりたいんやろ」
タケサン 「アホか、そんな幼稚ちゃうわい。ヨッサン起きたときピストルでおどかしたろ思ただけじゃ」
キーチャン「タケサンとこ行ったときみたいに海パン一丁やったら、えらいカッコええでぇ、クククっ」
モーヤン 「ちっちゃいときの水鉄砲やったら、押し入れあるんちゃうかな」
ボンサン 「あんな、きみら、水鉄砲より懐中電灯持って行ったほうがええやろ」
アホな話ばっかりしております。そろそろ寝よかっちゅうことになったんですが、5人もどないやって寝るかで揉めております。
タケサン 「こないだは、おれがモーヤンの足握って寝たんや」
ボンサン 「なんでそんなことしてん?」
タケサン 「いや、モーヤンと繋がっとかなあかん思て」
ボンサン 「きみら、覚えてないんか? おれの部屋から帰るとき、横1列に手ぇ繋いどったやないか。タケサン、おまえキーチャンと手ぇ繋いどったけど、モーヤンとは手ぇ繋いでなかったがな。別に直接繋がってのうても大丈夫なんやろ。わざわざモーヤンの足なんか握らんでもええがな」
サッチン 「さすがボンサンやわ、理系のするどい観察の目ぇとつっこむ隙もあらへん理屈。ちゃうわ」
ボンサン 「きみらが、ふたつもあるその目ぇでなんも見てへんし、どついても乾いた音しかせえへんそのどたま使てへんだけや」
さてヨッサンの部屋ですが。それがついこないだ新築したばっかりで、ひとりっ子でっさかい2階に広ぉい部屋もろてます。本棚なんかも、こぉ、大きいて立派なもんで。そこにモーヤンらが取り返そう思てるマンガなんかもきれいに並んでるんですな。ヨッサンはと言いますと、これまた大きいベッドでガァガァいびきかいて寝ております。
このヨッサンのうちっちゅうのが昔は駄菓子屋をやっておりまして、モーヤンらもちっちゃいときはよう通てたもんですが、子供らにもあまり評判のええ店やありませんでした。店番はたいがいヨッサンのおかあはんがやっておったんですが、駄菓子の当たりが出て、おばちゃん、当たりや。もう1個ちょうだい言うても、なんやかんやごまかして、くれまへんねんな。あんた昨日も当たったやないの、今日はあかん。二日続けてはあげられへんねんとか言うんですな。そないやってちょろまかしながら銭貯めたんか、最近商店街の近所に小さいながらもスーパー開きよったんです。それがまた評判悪いし、商店街からも嫌われております。地元のもんには便利でいっぺんに買いもんもできるんでちょこちょこ行くんですが、物売ったってるっちゅう感じですわ。そのスーパーにパート行っててすぐやめた近所のひとの話によりますと、売れ残りのお惣菜の賞味期限のシール、閉店後こそこそ貼り替えたりしてるらしんですな。じきにつぶれるで、あっこって噂なっとります。どうやらヨッサンにもおんなし血が流れておりますようで。
そのヨッサンの部屋の本棚からモーヤンに手を引かれてシュッと出て来たんがキーチャン、サッチン、タケサンにボンサンですわ。
ボンサン 「なんや妙な感じやな。ほんまにヨッサンとこ来たんか?」
キーチャン「せや、ほれ見てみ、そこでヨッサンえらいいびきかいて寝てんのうっすら見えるやろ。せやけど、なんやカラダの具合が変やな。タケサン、懐中電灯持って来たか? ちゃんと手ぇにあるか? そうか、うまいこと行くもんやな。よっしゃ、点けてくれ」
タケサン 「あいよ、わあ!」
キーチャン「しっ、静かにせぇ。なんやおかしぃ思たら、小学生やないか、おいら」
サッチン 「ほんまや、小学生やわ。懐かしぃなぁ」
モーヤン 「小学校の卒業アルバムやな、たぶん。6年生んときやろ」
キーチャン「あいつ、中学の卒業アルバム持ってないんか」
ボンサン 「知らんけど、しゃあない。まずは荷造りしょうか。みな自分の本捜せ」
タケサン 「ごっつい本棚やなぁ、ええ。どれどれ、ほとんどマンガやがな。えらいコレクションやで、これ。あいつ、もしかしたら、同級生のみなからちょっとずつ借りてパクったんちゃうか。おれの本どこやろ。あった、あった。えらい上やなぁ。背ぇ届けへんがな。くそっ、なんで小学生やねん。サッチン、肩車するさかい、あれ取ってくれへんか。よっしゃ、ほな行くで。よいしょ。そや、それや。わぁ、懐かしなぁ、謎のUFOの正体。今見たらアホらしいなぁ」
キーチャン「黙ってぇ、タケサン。ヨッサン起きるがな。ほんで懐中電灯ひとりじめすな」
タケサン 「すまん、すまん」
小学生なって出て来たモーヤンらがゴソゴソやってますんで、さすがにいびきかいて寝とったヨッサンも目ぇ覚ましよりました。ガバッと起き上がって部屋の電気点けますとパッと明るぅなった部屋には小学生が5人。みなそれぞれマンガの本とか持っておるんですな。
ヨッサン 「だ、誰や! お、おまえら、どこの子や! どっから入って来てん!」
モーヤン 「見つかってもた」
キーチャン「タケサン、おまえ、うるさいねん。見てみい、起こしてもたがな」
タケサン 「すまん、すまん」
ヨッサン 「おまえらどこの子や言うてんねん。なんでこんなとこおんねん」
キーチャン「バレたらしゃあない。ヨッサン、わかるか? おいら」
ヨッサン 「どこの子や!」
サッチン 「うちらのこと覚えてへんの? 同級生やんか。モーヤンにキーチャン、タケサンにボンサンやんか。ほんで、うちはあんたの話によると中学なったら、あんたと付き合うことになるらしいサッチンやん」
ヨッサン 「な、なにほざいとんねん」
キーチャン「よう見てみ、ヨッサン。おれがキーチャン。モーヤン、タケサンにボンサン、ほんでサッチンや。みな、おまえにはいろいろ貸しがあるんや」
ヨッサン 「んなアホなことあるかい。みな大学生やぞ」
モーヤン 「そらそうかもしれんけど、小学校んときおまえに貸しとったマンガ返してもらいに来たんや。ほれ見てみ、これ。おれのんや。手塚治虫の5巻から8巻」
キーチャン「9巻から13巻」
ボンサン 「14巻から19巻」
タケサン 「おれは、これや。謎のUFOの正体。あとエンタープライズ号の本見つかれへんねんけど、どこや? ヨッサン」
ヨッサン 「げっ! お、おまえら!」
キーチャン「そうや、わかったか。おまえには金もなんぼか貸したまんまやしな。利子つけて返してもらうで」
ヨッサン 「し、知らん。そんなん!」
タケサン 「黙れ! ピュピュッ」
ヨッサン 「わあ!」
サッチン 「あんた、いつの間に水鉄砲持って来たん?」
タケサン 「ヘヘッ。目ぇ覚めたか。ヨッサン」
ヨッサン 「な、なんや、どういうこっちゃ。小学生んときのおまえらが恨んで出て来たんか。なんかの呪いか、これは。すまん、すまんかった。堪忍してくれ。あれは子供んときのことやないか。なんでもええから持って帰ってくれ」
キーチャン「当たり前だのクラッカーじゃ」
ボンサン 「ヨッサン。ええか、悪いことしたら、あかんで。ちゃぁ~んと見てはるひとがおるんやで。な、せやないと、地獄落ちるで」
ヨッサン 「ああ、ボンサンや。わかった、わかりました。どうか堪忍してくれ。もう、あんなこと2度としまへんよってに。どうか、お許しを。おねがいや、消えてくれ、もう悪いことしまへん。消えて、消えてくれ! 消えてください~っ!」
モーヤン 「おまえに言われんでも、シュッと消えますがな」
おおきに、ありがとぉございますぅ。
おおきに、ありがとぉございますぅ。