夢旅7
つぎの日の夕方バイト帰りのモーヤンにキーチャン、それにサッチンとタケサンが串カツ屋にむかっております。
モーヤン 「なんや、いやな予感しまくりやわあ。また、誰か連れて来てるで、ボンサン」
キーチャン「大学の教授でも連れて来て、おまえのこと、あちこち調べよるかもしれんな」
モーヤン 「きょ、教授。そらあかん、それだけは堪忍やで、ほんま」
さて、4人が串カツ屋に来てみますとボンサンがえらいむつかし顔して剣菱飲んでます。
キーチャン「よう、ボンサン。ひとりか?」
ボンサン 「おう、みな来たか」
モーヤン 「ボンサン、誰か呼んだんやろ? 誰呼んだん? まさか大学の教授とか呼んでないよな」
ボンサン 「そんなもん呼ぶかいな。きみら、このこと誰にも言うてへんやろな」
キーチャン「おやおや、めずらしぃこと言うひと出てきたで。誰にも言うなよっちゅうても、みな誰か連れて来よってんけどな。おねえちゃん、そうや、わかってるねぇ。当たり前だのクラッカーの剣菱や。ほんで、おまえ、ゆうべ考える、考えるてなに考えとってん? ボンサン」
ボンサン 「モーヤンの瞬間移動のこと知ってるんはこの5人っちゅうことやな。よっしゃ、ちょうどええな。ちゃうちゃう、学会とか発表せえへんて。発表するにしたかて、もうちょい先の話や。わかった、わかった。モーヤンが絶対いやや言うんやったら、ずっと先にしょ。ほんでや、5人でひと仕事せえへんか?」
キーチャン「なんやねん、そのひと仕事て?」
モーヤン 「なんや、今まで以上にいやな予感するで」
ボンサン 「モーヤンの瞬間移動でやな、強盗するんや」
タケサン 「なんやて?」
サッチン 「ご、強盗て、あんた!」
ボンサン 「でかい声だすな、サッチン」
キーチャン「強盗てどういうこっちゃ、ボンサン」
モーヤン 「そんなことひと晩中考えとったんか?」
ボンサン 「まあな。はじめは瞬間移動の理屈とか考えとったんや、おれかて。せやけど、なんぼ考えてもわけわからん。で、ふと思たんや。ゆうべみたいに写真さえあったら、その場所に瞬間移動できるんやろ。どこでも忍び込めるがな。きみら。たとえばやな、おいら5人の写真撮るんや。そんときのカッコは黒尽くめや。全身黒タイツに黒の目出し帽や。その写真を昼間に銀行とか宝石店に持って行って、どっか目立てへんとこに置いて来るんや。ほんで晩になってからシュッと瞬間移動で忍び込むんやがな」
キーチャン「悪いやっちゃなあ。ええ、ボンサン」
タケサン 「かしこいとは思てたけど、そういうふうに頭使うか。ボンサン」
モーヤン 「あかんあかん、ボンサン。なに考えてんねんな」
サッチン 「おもろいかもわからんなぁ」
モーヤン 「な、なに言うねんな、サッチン」
サッチン 「せやけど、全身黒タイツはちょっとなぁ」
キーチャン「いや、おれも、今な、ボンサン悪いやっちゃなあ思たけど、それはいける思たんや。せやけど全身黒タイツのカッコが頭浮かんだ途端、いかにもってな感じであんましカッコええもんちゃうなぁ思て」
ボンサン 「アホか、きみら。全身黒タイツはたとえや。いつも着てる私服で忍び込むわけいかんやろ」
サッチン 「それやったら、ええわ」
モーヤン 「なんもええことあらへんがな、サッチン」
タケサン 「で、どこ押し込む?」
モーヤン 「むちゃくちゃやがな、みな。ちょっと待ちぃな」
ボンサン 「それがや、よう考えたらいろいろ問題があるんや」
モーヤン 「なあ、なあて。おれは放ったらかしか、え、みなさん」
ボンサン 「銀行にしたかて宝石店にしたかて、店内のどっか目立てへんとこに写真置いて来るんはできる思うんや。せやけど、きょうびセキュリティーっちゅうやつは万全やろ。店内もこうこうと電気点いてるやろし、24時間防犯カメラも回っとる。おいらがシュッと出て来るとこカメラなんかに映っとったら大事件なって、ワイドショーでバンバン流されるがな。ワイドショーどころやないわな、世界中に報道されるで。なんもないとっからプーッて風船みたいに膨れて人間が出て来たっちゅうて。そんな目立つことしたら絶対あかんやろ」
キーチャン「警備のおっさんおるかもしれんしな。あれか、銀行の大金庫て映画に出て来るみたいに丸うてでっかいやつで、分厚い鉄のんか?」
タケサン 「そらそやろ。たぶんセキュリティーコードとかあって素人では無理やで」
サッチン 「ほな、金庫ん中に写真置いて来たらええやん」
キーチャン「アホか、金庫ん中どないやって入んねんっちゅう話をしとんやないか」
タケサン 「やっぱし銀行は無理かなぁ。宝石店かぁ。一応オモチャのピストルとかあったほうがええかな?」
モーヤン 「あ、あのぉ、みなさん、本気ですか?」
ボンサン 「せやろ。いろいろ具体的に考えてると問題が出てくるんや。宝石盗むにしたかて、素人のおいらが簡単には売りさばかれへんし、できたとしてもそっから足が付くやろ。そや、モーヤン。おまえ、だいたい瞬間移動する時、物持って行ったり、物持って帰ってきたりできるんか?」
モーヤン 「どうやら、みなさん本気のようですが、おれ、そんなんしたことありまへん」
ボンサン 「あれやな、いっぺん、物の持ち運びできるかどうかだけでも、さき確かめとかなあかんな」
キーチャン「せやな」
タケサン 「論理的やな」
サッチン 「ほな、今晩にでもどっか行ってやってみたらどない?」
ボンサン 「よっしゃ、そうしょ。予行演習や。どこ行く?」
キーチャン「商店街の時計屋でも行くか?」
タケサン 「どうせやったら、オモチャ屋行って、小道具のピストルでもいただくっちゅうのは?」
サッチン 「うちは、なんか秋物のかいらし服とか欲しぃなぁ。あと、あれやなぁ、本番で黒尽くめのカッコする時のちょっとゆったりめで動きやすぅて、しゃれた服とかあったらええなぁ」
ボンサン 「あんな、サッチン、盗んだ服来て強盗入るっちゅうのはあかんやろ。目立ったらあかんねん。モーヤン、なんかないか?」
モーヤン 「あのぉ、おれもみなさんのお仲間ですか?」
キーチャン「当たり前だのクラッカーやろ。おまえおらな話ならへんがな」
モーヤン 「ほな、ちょっと言わしてもらいますけど。おれはいややで、強盗とか。それだけはやめとこな、みな。せやけど、いや、あんな。今ちょっと思い出してな。物パクってくるとか、そんなんちゃうで。前から思てたんやけど。今から言うがな、せかしないな。あんな、はったりのヨッサンいてるやろ」
キーチャン「あの、いきりのヨッサンか?」
タケサン 「知ったかぶりのヨッサン?!」
ボンサン 「嘘たれのヨッサン!」
サッチン 「どすけべのヨッサン!!」
モーヤン 「そうや、あのヨッサンや。おれ、あいつにマンガの本貸したことあんねん。小学校ん時。おれのお気に入りや。全32巻。その5巻から8巻まであいつに貸してんけど、返してくれへんねん。なんや、借りてないとか、あれは誰それに貸したとか言うてごまかされとったんやけど、絶対あいつが持っとんねん。それ取り返しにいくんやったら、ええけど。なんや、えらい気色悪いねん。本棚見るたんびに5巻から8巻まで抜けてんのが」
キーチャン「モーヤン、それ、手塚治虫のやつやろ。せやろ、おれ、9巻から13巻まであいつから返ってけえへんねん」
ボンサン 「おれ、14巻から19巻までないねん。今思い出した。そうや、ヨッサンや。あいつに貸したんや。ずうーっとなんでや思てたんや。ヨッサンや。あのボケ!」
タケサン 「おれかて、謎のUFOの正体っちゅう図鑑とかエンタープライズ号の秘密とかっちゅう本あいつに貸したままやねん。中1の時やで」
サッチン 「あんたら、まだええわ。うちなんか、いつの間にか中学ん時ヨッサンと付き合うてたことなってたんやで。高校入ったとき、びっくりしたわ。おまえ、あのヨッサンと付き合うてんのかって、みんなに言われたもん。しかもなんか半笑いやん。うち、なんも知らんやん、最悪やで。わかってくれるぅ。高校は別々やったのに、あの、ヨッサンってみんな知ってるねんもん」
キーチャン「わかる、わかる。あいつ、すぐ誰々と付き合うてるとか言うねんな。ほんで、なんでも知ったかぶりで、知らんことないねん」
タケサン 「せや、ほんで、貸したもん、返してくれっちゅうても、なんや、あれはどうのこうの言うてごまかして、嘘つきよるねん」
ボンサン 「ちょっと100円貸してっちゅうやろ、あいつ。100円くらい貸したるがな。返してくれへんねん。こっちもこないだの100円返してくれって、そないせこいことしょっちゅう言われへんがな、子供ながら。せやけどちっちゃい時の100円は大きいがな。そんなん何回もあったからな。よっしゃ、まずはヨッサンとこ行こ。写真やったら、用意せんでも中学の卒業アルバムとかあるやろしな。あいつとこ行って、取り返しに行こ。決まりや」
モーヤン 「強盗から、視点をちょいずらそぉ思ただけやけど、こない盛り上がるとはな」
ボンサン 「おまえ、ええアイデア出してくれたで、モーヤン。恨みやら、憎しみほど大きい原動力ないからな」
モーヤン 「ボ、ボンサン。おまえのこと、ちょっと誤解しとったかもしれんな。ほんまに坊さんなるつもりか?」
なんや銀行強盗やら宝石泥棒みたいな物騒な相談しておったんですが、大学生いうてもやっぱしまだまだ子供ですわな。結局はったりとか、いきりとか、ようさんあだ名持ってるヨッサンとこパクられたもん取り返しに行こかっちゅうことなりまして。剣菱で乾杯ですわ。さあ、それからですが。5人揃てみな、なんやかんやヨッサンの被害に遭うてますんで、まあ、ヨッサンをボロクソにけなすほど、うまい酒のあてはあらへんてな具合ですわな。
ヨッサンも上級生ボコボコにして泣かしたとか、隣の学校の番長とケンカしたあと手ぇに包帯巻いて登校して来たとか、景気のええワルやったら、もうちょい、こぉ、みなから一目置かれるような人物になっとったんでしょうが、やることがせこいんであきまへん。おれはやるでぇとかえらそうにほざくんですが、言うだけ番長ですわ。こないだのあれはどないなってんねんってたんねても、ああ、あれか、あれはどないやこないやっちゅうてごまかしよる。ほんで、もひとつどでかい話ぶちまける。それ言うた舌の根の乾かんうちに100円貸して、ですわ。ヨッサンが誰それはああやこうや言うて悪口言いますわな。こっちも調子のって、笑いながら冗談半分で、そやねん、あいつはああやこうやておんなしように言うてると、知らん間に、あいつ、おまえのことこない言うてたでって本人につげぐちされてまんねん。ほんで自分はおまえの味方やでみたいなこと言いますから。まあ、こんなこと子供ながらにわかるもんでして、誰かてヨッサンのこと信用せえへんようになったんですわな。そんなんですから中学ん時にはすでにようさん肩書き持ってる、えらいせこ~い伝説的人物になっとったわけです。
そんなヨッサンのせこ~い悪行の数々をあてに酒飲んでると盛り上がるの盛り上がらへんの。盛り上がっておるんですが。ほんで、こんなとこで酒飲んで酔うてる場合ちゃう。はよモーヤンとこ行って、みなでヨッサンとこ瞬間移動してあいつビビらしたろっちゅうことなりました。
サッチン 「なあ、ちょっと、買いもん行ってもええ?」
キーチャン「ええけどなんやねん、買いもんて? こんな夜遅ぉ」
サッチン 「今晩もモーヤンとこ泊まるやん。知ってるやろ、言わんでも。あんたら絶対笑うんわかってるもん」
キーチャン「なにがや?」
サッチン 「着替えやん」
キーチャン「着替え? ああ、寝間着のことかい。もう笑わへんて。だいたいこんな夜遅ぉ店開いてへんがな」
サッチン 「そのへんのコンビニでええねん」
キーチャン「なに気にしとんねん。ほんで、コンビニに寝間着とか売ってるかぁ?」
サッチン 「知らんけど。また、あんたら笑うやろ。下着だけでもええねん」
キーチャン「笑えへんて」
ボンサン 「きみら、なんの話してんねん?」
キーチャン「なんもない。はよ行こ、モーヤンとこ」