夢旅5
さて、3人揃てモーヤンのうちにやってまいりました。ゆうべとおんなしようにモーヤンのおかあはんがおりますが。あれ、サッチンやないの。いやあ、べっぴんさんなったなぁ、おばちゃん、びっくりや。なあ、キーチャンもそない思うやろ。いや、そうでもおまへんってキーチャンが遠慮しております。サッチンがうちの子のお嫁さんなってくれはったら、ええのになぁ。おばちゃんとやったら、仲良うできるもんなぁ。嫁と姑みたいなややこしことなれへんもんなぁ。今日もみな泊まるんか? ええよ、ええよ。せやけど、ほんまべっぴんさんなったなぁ。サッチン、あんた、うち連絡したんか? おばちゃん連絡したげよか。あんたとこのおとうはん、曾根崎警察やからきびしいからな。サッチンが、どうも、すんません。ありがとうございますぅ言うて3人階段上りはじめますと、もう電話かけてます。いや、おくさん。サッチン、えらいべっぴんさんなってびっくりしましたわ。うちのお嫁さんにけえへんか言うてましたんやわ。ハハハっちゅう笑い声が2階へこだまします。
サッチン 「絶対、いややからな」
キーチャン「なにがや?」
サッチン 「モーヤンの嫁はん」
モーヤン 「誰もそんなことお願いしてないやん。ほんで今即答せんでもええやん」
キーチャン「まあ、じっくり考えてから、お返事したらどないですか?」
サッチン 「アホか」
モーヤン 「なんやショックやなぁ」
キーチャン「まあ、風呂でも浴びて労働の汗とその失恋の涙を洗い流そやないか、モーヤン。サッチンも風呂入るやろ? さき浴びるか?」
サッチン 「うちはええわ。汗もかいてないし。あんたらだけ浴びといでや」
キーチャン「ほな、一緒に浴びよか、モーヤン。おまえあがってくんの待っとったら、朝なるからな」
30分ほどしてから、無理矢理湯船から引っぱり出されたモーヤンがキーチャンと2階に上がってきよりました。
モーヤン 「サッチンも浴びといでや。バスタオルとか用意してあるから」
サッチン 「そうなん。ほな、せっかくやから浴びさしてもらおかな」
キーチャン「おう、遠慮すな、浴びて来い。あんまり遅なんなよ。さき寝てまうぞ」
しばらくしてから、風呂上がりのサッチンがモーヤンの部屋の前に立っておりますが。風呂上がりにみなで飲みっちゅうてモーヤンのおかあはんに持たされたビールとうまいかが載ったおぼんがありますんで、両手がふさがってます。
サッチン 「モーヤン、ちょっと開けて。手ぇふさがってんねん」
ふとん敷いてたモーヤンがあいよって戸ぉ開けますと、なんやくたびれて毛玉がついたようなスウェットの上下着て、ビールとうまいか載ってるおぼん持ったサッチンが少々ふてくされて立っております。それ見たモーヤンとキーチャンが大笑いしたんですな。
サッチン 「えらいありがた迷惑や、こんなん」
モーヤン 「うちのおかんの寝間着や。ヒヒヒっ」
キーチャン「いやあ、おまえも立派な大阪のおばちゃんやな。なんや、もうモーヤンとこ嫁いだみたいやがな。クククっ」
サッチン 「うるさい! おばちゃんのやけど、これ着ぃてしつこいねんもん」
キーチャン「もしかして、パンツは、その、あれですか?」
サッチン 「知らん! すけべぇ!」
キーチャン「クククっ、やっぱし」
ちょっとの間、ふとんの上に座り込んでビールを飲みながらうまいかをつまんでおりましたが、さんざん飲んで来たとこですから、はよ寝よかっちゅうことになりました。ふとんは2組しかおまへんので、モーヤンがちょうど2組のまんなかに寝て、その右側にキーチャン、左側にサッチンがそれぞれ手ぇ繋いで寝ることなりました。
サッチン 「けったいなことしぃなや。モーヤン」
モーヤン 「一緒に手ぇ繋いでタオルでくくってんねんで。けったいなこともくそもあるかいな」
キーチャン「おまえら、やっぱり一生離ればなれにはなられへん運命なんやな。クククっ」
サッチン 「しょうもないこと言いな!」
キーチャン「おい、電気」
モーヤン 「またや。みなさん、ご協力おねがいしますぅ。一緒に立ちまっせ」
サッチン 「なんや、めんどくさいな」
モーヤン 「タケサンのことなんか考えられるかなぁ」
サッチン 「あんた、なに考えてんねんな」
モーヤン 「別に」
さて、京都のタケサンのアパートですが。これがまた男のひとり暮らしでして、この部屋がまあ散らかってるの散らかってないの。散らかっておるんですが。こないまで散らかるかっちゅうくらい散らかっております。まだおつゆが残ってるどんぶりやら、なんや得体の知れん液体が入ってるコップやら。缶ビールの空き缶にペットボトルに脱ぎ捨てたままの服。足の踏み場もあらぁしまへん。そんな部屋で埋もれるように寝ておりますタケサンです。そこへ例によって例の如し。ちゃぶ台の上に積み重なった週刊誌やら漫画本のゴミの山みたいな隙間からシュッと、モーヤンに手ぇ引かれるようにして出て来たキーチャンとサッチンです。ゴミの山の下のほうに写真があったんでっしゃろな。それがですわ。みな出て来るなり、いきなりどんぶりに足突っ込んだり、コップひっくり返したり、缶ビールの空き缶踏みつぶしたり、えらい賑やかな登場となりましたんで、タケサンもすぐに起きてしまいました。
サッチン 「うわっ、なんか足突っ込んだで」
モーヤン 「なんや、へんなもん踏んだがな」
キーチャン「痛たぁ、あかん。こける、こける」
タケサン 「う、うわぁ、ドロボーや!」
キーチャン「おい、タケサン、おいらや。誰か電気点けぇ、電気」
モーヤン 「どこや、あった、あった。ほれ」
サッチン 「うわっ、なんや、このカッコ。水着やん。なんでこんなカッコしてんねんなぁ」
モーヤン 「ほんまや、海パンや」
キーチャン「なんじゃこれ、ほんまに海パンや。なんの写真から出て来てん?」
モーヤン 「若狭行った時のんや。高校ん時みなで美浜行ったやん、海水浴」
キーチャン「ああ、あん時のんか。せやけど、写真持ってへんなぁ、おれ」
モーヤン 「タケサン、せこいから写真の焼き増ぁし、もろてへんねんで、おいら」
サッチン 「なあ、なあ、出直そや。うちこんなカッコいややわ。高校ん時、プクプクしてておなかとかポッコリしてんねんもん」
キーチャン「アホか、出直してどないすんねん。どないでもええやんけ、そんなもん。おまえがプクプクしとったんは、おいらみな知っとるわ」
サッチン 「せやけど、恥ずかしぃわぁ。うち」
モーヤン 「水着でよかったで。服汚れんで済んだもん」
キーチャン「しかし、ほんま、きったない部屋やなぁ、タケサン」
タケサンはと言いますと、いきなり騒音とともに水着姿の男女3人が現れましたんでびっくり仰天です。3人がモーヤン、キーチャンにサッチンっちゅうのは頭で理解してるつもりなんですが、なんでこいつらがこんなカッコでここにおるんかわけがわかりまへん。目ぇ鼻、口みな大きぃ開けて腰抜かしたまま座り込んで、ひと言も喋られへんような状態なんですな。
キーチャン「タケサン、タケサン。あかん、こいつ完全に腰抜かしてるわ」
サッチン 「なんか足拭くもんないかなぁ。出て来る時気色悪いどんぶりに足突っ込んでもうた」
モーヤン 「そのへんのTシャツかズボンで拭いたらええんちゃう」
ちょうどそん時タケサンの部屋のお隣さんが壁をドンドンって叩いてる音がしたんですな。
サッチン 「お隣さん、うるさい言うてはるで」
モーヤン 「ほんまやな。帰ったほうがええんちゃう、キーチャン」
キーチャン「なんや、もう帰るんか。こいつ、どないする? 腰抜かしたままやで」
サッチン 「大丈夫やて。じき立ち直る」
モーヤン 「タケサン、ほな帰るで」
サッチン 「明日また、あこの串カツ屋おいでや。ほんで、ちょっとは掃除しぃや。タケサン」
キーチャン「よう見とけよ、帰るとこ。クククっ、ほな、明日な」
タケサンの目の前で3人手ぇ繋いだか思たら、モーヤンを先頭に、キーチャンとサッチンがそれに引っぱられるようにちゃぶ台のゴミの山ん中に吸い込まれるようにあっちゅう間にシュッと消えてしまいよりました。
タケサン 「あわわわわわわわっ」