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幻想時空落語「夢旅」  作者: 海馬漂泊
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夢旅1

 え〜、お運びありがたく御礼申し上げます。しばらくのあいだお付き合いのほど、おねがい申し上げときます。しかし暑いですな。どんならん。この「あ〜暑い、暑い」言うてんのがなんかこうエネルギーになりませんやろか、ほんまに。いろいろ大変なことがつづとるんですが、ちょっとのあいだでも笑てもらえればと思とります。

 せやけど、なんですなぁ、まあ、世の中には不思議なっちゅうか、信じられへんようなけったいな話があるもんですな。せんだって、なんやテレビでやってたんですわ。どこや忘れてもたけど、なんやアメリカの田舎の話やったと思いますわ。双子の女の子が生まれたんやて。まあ、普通やったら、うれしいですわな。かいらしおんなし顔した女の子やで。そら、お父ちゃんもお母ちゃんも喜ぶがな、普通。それがや、えらい貧乏やったみたいやねんな。お父ちゃんとお母ちゃんで一応相談したんでっしゃろ。なかなか家族計画っちゅうのは、うまいこと行きまへんな。あかん、あかん。いきなり、ふたりも育てられへん言うて、双子のふたりとも、里子に出したらしいんですわ。別々のとこに。たしか何百キロも離れとった言うてましたな。ほんで里子に出されたふたりは、それぞれ自分が双子やいうのも知らんまま、育てられたわけやけど、おのおの片付くとこ片付いて、子供もできた30過ぎくらいになってから、偶然、双子やっちゅうのがわかったんですわ。そら、いっぺん会いたいですわな。ほんまに血ぃ繋がった双子の姉妹がおるんですもんな。ほんで、連絡とりあって、いよいよ会うことになったんですわ。こういうとき、双子はよろしいですな。いっぺんも会うたことのうても、相手の顔見たらわかりますからな。自分とおんなし顔してるんやから。うれしかったんでっしゃろな。待ち合わせしとったレストランで抱き合うたらしいですわ。さあ、それからや。どこで育って、どんな生活やったか、どんなことして来たか、30年分の話で盛り上がる、盛り上がる。ほんで、話してると奇妙な偶然が重なる。高校のクラブ活動でやっとったことが一緒。最初に付き合ったボーイフレンドの趣味が一緒。好きな音楽が一緒。結婚した旦那の名前が一緒で、子供も男の子と女の子のふたりで一緒。これはただの偶然やないっちゅうて、いろいろ話してると、最近おんなし病気にかかってるし、おんなし車に買い替えてる。どんどん共通することが出てくる。おもろいもんですなぁ。双子のシンクロっちゅうヤツらしいですな。生まれてすぐ生き別れなって、何百キロも離れてんのに、ほとんどおんなし人生なんですわ。いくら双子やから言うて、不思議なもんですわ。

 わたしかて、なんとも説明でけへん、気色悪い思いしたことありますねん。虫の知らせて言いますやろ。あれですわ。妙な夢見たんですわ。夢ん中で、うちのおばあはんが枕元に出てきよって、苦しそうにお腹おさえてわたしの名前呼ぶんですわ。マーくん、マーくん。わたしの下の名前マサヒロ言いますねん。パッと起きましたがな。おばあはんや。なんか、あったんちゃうか。そのころ、内弟子で師匠の家に世話なっとんたんですけど、まだ黒電話の時代ですわ。気色悪い夢見たから、おばあはんに電話かけたかったんやけど、電話があんのは1階の師匠とおかみさんが寝てはる部屋のほん近くの廊下なんですわ。もう、気になってしゃあないから、2階からソーッと降りてきましたわ。今のひと知らんかもしれませんが、昔の黒電話のダイヤル回す音、結構音しまんねん。0なんか最悪でっせ。こう指で引っ掛けてまわしてね。ジーーーーーーーコ。もう世界が消滅するんには、たっぷりの時間やろっちゅうくらいかかって、繋がりましたわ。おかん、おかんか? かすれるような声ですわ。なんや、あんたか!聞こえへん!もうちょい大きい声出しや言うねんけど、おかんはこっちの状況わかってまへん。おばあはんはっちゅうたら、おばあはん?さっき、えらいことなってたんや。生まれる、生まれるっちゅうて、みな起こされたがな言いますねん。なんでや言うたら、知らんがな!ボケとんねん。夜中に冷蔵庫あさってへんなもん口に入れたんやろ。お腹下しとんねん。子供生まれるはずないからな。

 おばあはんには、お腹に悪い虫おったんでしょうが、こっちはそんなしょうもないことで枕元に出てこられて起こされたもんですから、腹の虫がおさまりません。

 これから、おはなしすんのも、ちょっとけったいな話ですが。



モーヤン 「なあ、キーチャン」

キーチャン「なんや、モーヤン、ちょぉ待て。おねえちゃん、剣菱おかわりつけてんか」

モーヤン 「キーチャン、ほんま飲み過ぎやで。バイト代全部酒に化けてまうで」

キーチャン「飲まなやってられるかい。けったくそ悪い。働いた分全部飲んだるっちゅうねん」

モーヤン 「せやけど、おいら三流大学やからしゃあないでぇ」

キーチャン「それが、むかつくっちゅうとんねん。おいら朝からずうーとくそ暑い倉庫ん中で、上げたり下ろしたり、重たい荷物の仕分けばっかりや。それがやで、一流大学やからっちゅうて、冷房効いた事務所であいつら涼しい顔して伝票整理やぞ。おんなし時給でやってられるか。アホくさい。おねえちゃん、さっき剣菱、言うてんけど」

モーヤン 「なあ、キーチャンて」

キーチャン「あいつら、こんど、事務所のパートのおばはんらの娘と合コンやるらしいがな。しかも、おばはんらが企画したっちゅうとるがな」

モーヤン 「なあ、キーチャン。おれの話も聞いてぇや」

キーチャン「さっきから、なんやねん。キーチャン、キーチャンて、おまえ、なんも思えへんのか!」

モーヤン 「あんな、誰にも言えへんか? ゼェータイ誰にも言えへんか?」

キーチャン「なんやねん、いきなり。おもろい話やったら、絶対誰かに言うけどな」

モーヤン 「キーチャン、おちょくらんといてや」

キーチャン「わかった、わかった。ほんで、なんやねん?」

モーヤン 「あんな、おれな、なんや、瞬間移動っちゅうんかな。テレポーテーションっちゅうんやったっけ。あれ、できんねん」

キーチャン「おねえちゃん、はよ、剣菱持ってきてんか」

モーヤン 「ほんまやて」

キーチャン「モーヤン、まあ、これ、ぐっと飲め。最近暑いからな」

モーヤン 「キーチャン、ほんまやて」

キーチャン「なんや、おまえ、ほんなら、あのスタートレックみたいに転送できるっちゅうんか」

モーヤン 「まあな、ちょっとちゃうねんけど。できんねん」

キーチャン「ほな、おまえ、お勘定払わんと、こっからシュッと消えてうち帰れるんや」

モーヤン 「いや、そういうわけには、いけへんねん」

キーチャン「なにが、いけへんねん。おまえ、今できる言うたがな」

モーヤン 「いや、いろいろ条件あって、今ここでっちゅうわけには、いけへんねん」

キーチャン「ほう、どんだけ、おもろい話かじっくり聞かしてもらおか」

モーヤン 「別におもろい話ちゃうから、オチとかないで。聞く?」

キーチャン「どうせ、喋るんやろ」

モーヤン 「聞いてくれるか。あんな、おれ、ほんまに、あのスタートレックの転送みたいに瞬間移動できんねん。ちょぉ待ってぇや。これから説明すんがな。いろいろ条件ってさっき言うたやろ。これが夜寝てからやないとできへんねん。待ってや、キーチャン、おれもようわかれへんねん。たぶん、ちっちゃいときから、やってたみたいやねん。せやから、ちっちゃいときのことあんまし覚えてないねんけど、親戚とかのうち遊び行くやろ。はじめて行った親戚のうちやのに、おしっこ言うて迷わんとひとりで便所に行ったり、親戚のお兄ちゃんの秘密のオモチャ箱の隠し場所知っとったりで、けったいな子や言われててん」

キーチャン「そんなもん、まぐれやんけ。だいたい想像つくがな。便所やら秘密のオモチャ箱なんか」

モーヤン 「ちゃうねん、そんなこと、なんべんもあってん。ほんで、けったいな子やて言われててん。あとからよう考えたら、おれ、ちっちゃいときから夜寝たあと瞬間移動やってたみたいやねん。せやから、夜中、いつのまにか親戚のうち行って、うろうろしとったから、便所の場所とか、親戚のお兄ちゃんの秘密のオモチャ箱の隠し場所とか知っててん」

キーチャン「そんなん、夢ん中で見とったことが、たまたま当たっただけの話やろ」

モーヤン 「そやねん。おれも最初はちゅうか、中学くらいまではずうーと夢や思ててんけど、高校入る前の春休みやな。あれは。これは夢やないてわかったんや」

キーチャン「ほう、高校入る前の春休みな。ほんで、なんで夢やないてわかったんや?」

モーヤン 「うん、ほんまに言わんといてや、誰にも」

キーチャン「わかったから、なんでやねん?」

モーヤン 「あんな、サッチンにチューしたことあんねん」

キーチャン「はぁ?」

モーヤン 「せやねん。絶対言うたらあかんで」

キーチャン「どっから突っ込んでええのか、わからんけど。サッチンは、あのサッチンか?」

モーヤン 「うん」

キーチャン「サッチン? チュー? あの、えげつない女とか?」

モーヤン 「えげつないは言い過ぎやで。ちょっときついとこあるけど、ええ子やん。キーチャンはあんまし好かんみたいやけど」

キーチャン「おまえ、小学校の頃から好きや言うてたもんな。ほんで、高校入る前の春休みにチューしたんか? ついに」

モーヤン 「ほんま、言わんといてな」

キーチャン「せやけど、サッチンもおまえのこと好きやったとは知らんかったな」

モーヤン 「ちゃうねん、おれが勝手にしてん。サッチン寝てるときに」

キーチャン「なんや、ややこしなってきたで。それはさっきの話と関係あんのか?」

モーヤン 「うん。夜寝てるとき、瞬間移動でサッチンの部屋行って、寝てるサッチンにチューしてん」

キーチャン「夢やとか夢やないとか、瞬間移動やらサッチンにチューとか、全然わけわからんことなってきたぞ。どないなっとんねん? モーヤン」

モーヤン 「あんな、夜寝る前に誰かのこと考えるねん。サッチンの話したから、サッチンでええわ。サッチンのことずうーと考えるやろ。どないしてるかなぁ、サッチン。高校は別々なるなぁ、これからあんまし会われへんなぁ、さみしいなぁとか。ほんで寝るやろ。ほんならいつの間にかサッチンの部屋に瞬間移動してんねん。キーチャン、それが夢とちゃうねん。せやから夢やないてわかったんや。高校入る前の春休みに。それがサッチンのチュー事件やねん。サッチンにチューした晩のつぎの日、偶然サッチンに会うたんや。あっこの商店街で。おれの心臓バクバクやがな。ゆうべ夢ん中でチューしたからな。ほんまは夢ちゃうかったんやけど。サッチンのやらこい唇の感触まで覚えてるがな、こっちは。ほんなら、いきなり言いよったがな。きのうモーヤンの夢見たわ。うちにチューしにきたで、気色悪いって。ほんで、やっぱり、あれは夢やないんや。ほんまにサッチンのうち行ってたんやてわかったんや」

キーチャン「信じられるかい、そんなもん」

モーヤン 「ほんまやから、しゃあないがな。ほな、なんで、サッチンがおれとチューした夢見たと思う?」

キーチャン「知るかい。偶然やろ」

モーヤン 「おれがチューしたとき、サッチン起きたんや。ほんで、おれ、見られてん」

キーチャン「見られたんやったら、そんとき、おまえ、どないしてん?」

モーヤン 「そっから、シュッと消えて、うち帰ったんや」

キーチャン「まあ、ええわ、そういうことにしとこか。ほんで、なんでそんなことできんねん?」

モーヤン 「写真やねん」

キーチャン「写真?」

モーヤン 「せや。おれの写真があるとこやったら、その場所に行けんねん」

キーチャン「まったく、わけわからんなぁ」

モーヤン 「あんな、自分で自分の写真持ってんのはあたりまえやけど、いつの間にか他人かて、ようさんおれの写真持ってるんや。せやろ、親戚集まったときの写真とか、修学旅行の写真とか、卒業アルバムとか、みんなで海行ったときの写真とか。全然知らんひとの写真にかて、隅っこに写ってたりすんねん。ほんで日本に旅行で来た外国人の写真にも写ってたりするんや。大袈裟に言うたら、おれが写ってる写真が世界中に散らばっとるんや。せやから、おれが写ってる写真あるとこやったら、世界中どこでも行けんねん。ほんまやて」

キーチャン「おまえ、ほんまにどないかしたんちゃうか?」

モーヤン 「ほんまに、ほんまやて」

キーチャン「えらい凝った夢見ただけやろ」

モーヤン 「世界中どこでもおれの写真あったら、その場所行ける言うたやろ。パリとか行ってみたいなあって寝る前考えるやろ。ほんまにパリに行ったことあんねん。ニューヨークとかロンドンもあるで。ただ、こっちは夜中なんやけど、むこうは昼間やから見つかるんや、ときどき」

キーチャン「あんな、だいたい、写真があったら、瞬間移動できるっちゅうのがわかれへんねんけど」

モーヤン 「生まれ持った能力っちゅうやつかな。おれにも、なんでそんなことができるかわかれへんねん。理屈はわからん。せやけど瞬間移動でむこうに行くとき、むこうのアルバムとかから、おれが紙みたいに薄っぺらになってページの隙間から出て来て、プーッて風船膨らむみたいにちゃんとしたカラダなんねん」

キーチャン「頼むわ、モーヤン。その話、全部信じなあかんか? もう1本剣菱よろしやろか?」

モーヤン 「キーチャン、わかるけど、ほんまやねん。おねえちゃん、ここ剣菱な。ほんで、串カツも追加やで」

キーチャン「帰るとき、どないすんねん? さっきサッチンに見つかった言うたし、パリとかでも見つかって帰ってきたから、ここおるんやろ?」

モーヤン 「うん、帰ろって頭ん中で思たら、シュッて帰れるねん。帰るときは、逆にアルバムとかの写真に吸い込まれるみたいにして、あっちゅう間に自分の部屋に戻ってるねん。ほんで朝起きるねん。せやから最初ずうーと夢やと思ててん。寝てる間しか瞬間移動してないからな」

キーチャン「夢や、夢」

モーヤン 「ほな、今晩キーチャンのうち行こか?」

キーチャン「おう、ガチガチに戸締まりしときますわ」

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