#80訪問
ミエサイド
同じ頃、ミエは日本皇国の首都である弓削京を訪れていた。ミエは補佐官の辞職後、
このあとサチ国が崩壊することを確信し、日本皇国へ亡命していた。これに対し、日本皇国は
それを受理して、国内での滞在を認めた。
入国した後、ミエは日本皇国の各地を放浪し、ついに、この弓削京までたどり着いたのだ。
そこまでの道中で、よく日本皇国の発展ぶりが伺えた。とても整っている地方の支配体制、
法制度、計画的な都市構造、先進的なインフラ、医療制度、どこをとっても全てが日本皇国より
劣っていた。
「こんな国と戦争をするなんて・・・私も愚かだったな」
ミエはそう思えて仕方がなかった。隣国なのにここまで差があるのか、とも思っていた。
しかし、それは地方都市や、全国に共通するものに過ぎず、弓削京はそれをも超えていた。
弓削京には、中央に皇居があり、四方に皇居に向かう大通りが続いている構造となっている。
ミエはその中でも、西の大通りへ入っていく西方門まで来ていた。
「ここが、弓削京の入り口か・・・・」
西方門にはとても太い欅の柱が使われており、門の上部には、彫刻での装飾が施されていて、
一部には金箔が使われている。西方門は壮大だった。
「あの黄金色に光るのは・・・何だ?」
ミエはその中でも金箔に目が行った。サチ国には、そもそも金の採掘技術が完成しておらず、
しかも、まだ九州では砂金が見つかっていなかったため、金の存在すらあまり知っていない。
しかし、ここに突っ立っていても駄目なので先に向かった。
「門の警護はいないのか?」
サチ国の、特に首都では入る際に荷物の検査や徴税は当たり前だった。武器を持って入られては
困るからだ。しかし、日本皇国にそんなことはなかった。日本皇国はそれだけ、治安がいいという
ことだ。そんな思いを胸の内に秘め、また歩き出した。
大通りに入った後、またもや驚きだった。ここまで人通りの多い道にも関わらず、ゴミは1つも
落ちていなく、道脇には浮浪者も乞食もいない。それらの逆のことがサチ国の首都では当たり前
だったため、強い驚きを感じたのだ。
先に進むと、今度は商店街にあたり、どの店も人で賑わっていた。経済活動も活発なようだ。
更に進むと、今度は数多くの省庁が立ち並んでいる行政の枢軸に来た。
「こ、これは・・・・」
さっきまでの建造物は、歴史で言うところの江戸時代のようなつくりだったが、この区域では、
レンガ造りの高層ビルが軒を連ねている。サチ国の王宮は、サチ国の最先端の技術を
使って造られた3階建ての大型建築だったのに対し、これらの高層ビルは平均して5階建てだったのだ。
これにはミエも言葉を失った。これらを造らせた日本皇国の王は宇宙人か何かなのかとも
思ったりした。
しかし、その認識も案外正解なのかもしれない。同時に、ミエは、たった1つの島にいても
世界は見えないということも知った。