#63要求条件
サチ国には文字はないので交易条件の書いた紙を宗像が読み上げる。
「1、サチ国と日本皇国の両国は互いを独立国として認め合い、国交を結ぶこと」
これについては何もいう事はない。サチ国王や重臣は見守っている。
「2、サチ国の首都に駐サ日本大使館を置くこと。日本皇国の首都には駐日サチ大使館を置くこと」
「待て。大使館とは一体何だ?」
宗像が次の項目を読み上げようとした時、サチ国王がそれを止めた。どうやら大使館という
単語が引っかかったようだ。
「大使館とは、その国と外交をする大使が常駐する役所のことです。大使は派遣元の国の
代表となります」
サチ国側はそんな制度があるのか、と感心した。日本皇国では制度が洗練されているが、
そもそもこの時代の日本に外交なんてないので大使館がなくて当たり前だ。
「続けます。3、サチ国は日本皇国に周防長門(山口県)を割譲すること」
「っ!!?」
その要求がされた瞬間、宗像を除くその場の全員が驚愕した。サチ国からすれば、せっかく
進出した本州の領土を奪われてしまうということだ。同時に、サチ国側はまるで敗戦国のような
扱いに怒りを覚えた。
「な、何故我が国がそのような扱いを?」
サチ国王は聞いた。
「何か、問題でもありましたか?」
宗像は全く悪びれる様子もなく、言い返した。その様子に国王も黙り込み、「続けろ」と言った。
「4、日本皇国はサチ国の彦島を100年租借すること」
「租借とは何だ?」
国王はまた聞いてきた。今度は租借が何か分からなかったようだ。
「租借とはある国が他国の領土を一定期間借りることです。租借させてもらった暁には、
租借料として年間1万石を支払います」
「っ!!?」
租借の意味を聞いた時、どれだけ領土を奪うつもりか、と思ったが、租借料を聞いた時、
それは違う驚きに変わった。「石」とは米の量の単位で、1石は成人男性が年間に食べる
米の量で、1万石は1万人を養える量だ。未だに飢饉が起こるサチ国にそれだけの米があったら
・・・と思うと夢みたいな話だ。
「5、両国の交易地を彦島とする。両国の国民の出入りは彦島内に限定する」
それを聞いた瞬間、周防長門を割譲させたのはその為だったか、と思った。なぜなら交易地
への出入りの途中に他国の領土があれば邪魔だからだ。しかしまだ疑問は残る。
「何故、交易地を彦島にするのだ?」
「もし、陸続きの場所につくると人の出入りによって疫病が流行るかもしれませんので、
隔離しやすい島を選びました」
それには納得した。疫病が流行っては双方に害があるからだ。
「条件はこれで以上です。我が国にとって嬉しい返事を期待しています」
「ああ。こちらも最善の方法を考えておく」
そう言うと宗像は去っていった。第3条は屈辱的な内容だったが、第4条はサチ国にとって
利益の方が大きかった。そのことにサチ国王は悩んだ。