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 暗い暗い嵐の夜の事。稲妻と異形が交錯している所を少年――ジュエルは見惚れていた。現代最高の魔法使い『エドワード=エレクトリカル』と謎の怪物。拳に付けられたメリケンサックに稲妻を纏い、肉体を正しく雷光そのものの如く移動させ、二メートルを優に超える大巨漢から放つ重い拳。

 ワン、ツー、フィニッシュ! 三段目に異形の下顎から叩き上げられるアッパーカット。人間の肉体能力を限界まで駆使し、雷の属性を付与して効果を増幅させた一撃。エドワルドという男は世界最高峰の魔法使い『七賢人』のうちが一人。さも当然かのように異形を屠り、肉片を吹き飛ばしながら命を刈り取る。


「時代は変わった。我々人類は非常に弱く、脆く、繊細だ」


 エドワルドは拳を高く突き上げ、空から落ちる稲妻をその身に集めた。常人であれば耐えられる道理などないが、エドワルド=エレクトリカルは雷の属性を持つ七賢人最強の男だ。稲妻は彼の身体を巡り、魔法理論式を通過して彼のチカラに変換される――!


「古代魔法は確かに強力だ。だがお前はどうだ? 秩序から外れ、その精神を喰われてこの有様だよ。転生者『アレクサンドル=サンジェルマン』」


 サンジェルマンをと呼ばれた異形は咆哮し、絶叫し、その身に帯雷する。世界が共鳴する――軋みをあげる。古代魔法は世界に記された秩序だ。その秩序をサンジェルマンは歪めている。


「オォォォ―――!!!!!」

「そうだった。お前はずっと昔から肉体に固執しないのだったな。輪廻の輪から外れたお前は、この後も、この先もずっと()()()()()()()


 エドワルドは帯雷したまま異形に触れる。エドワルドの一回りほど大きな異形の、おそらく耳元であろう場所に口を寄せて呟いた。


「だから、お前を殺し続けなければいけない。お前は『時代に逆行した悪』。――さぁ! お前は今回、三十人殺したぞ。これで三千と七百人目だッ!」


 それは正しく人間避雷針。上空より降り注ぐ嵐の稲妻を一手に受け、彼の魔法理論式を通過して自身もろ共神の鉄槌を与える一手ゴッド・フォース


雷帝降臨エレキテル・エレクトリカルッッッ――!!」


 バリィッ! 空気を引き裂いてエドワルドの魔法が異形に炸裂する轟音。木々が、川が、空が悲鳴を上げる。

 少年はただ目の前に与えられた光景に目を見開く事のみ。隣人は死んで、父も、母も、弟も異形に食い殺されて、ただ絶望の淵に立たされていて、取り残された少年は眼前の雷帝から与えられる『圧』に気圧されるだけ。

 文字通り塵の一つも残らない。十億ボルトにも達する超高電圧で燃え尽きた異形と対照的に、スキンヘッドの大男がただ立ち尽くす。蒼色の透き通った瞳がジュエルを捉えて、悲しい顔をして、ゆっくりと歩む。


「すまない」


 ジュエルは答えられない。まず村が壊滅した事実を実感していなかったし、目の前で繰り広げられた異形討伐の光景が瞼に焼き付いて離れない。


「今回はヤツが一枚上手だった。謝罪してどうにかなる事ではないが、オレに責任がある」

「……な、にが」


 ジュエルは蒼い瞳をエドワルドに向けた。真摯に、真剣に、誠実に。ジュエルという少年には衝撃的な出来事に脳が追い付いていない。ただこの大巨漢がエドワルド=エレクトリカルであるという事実だけが彼の思考を先行する。


「キミは不幸だ。不運でどうしようもなく、このままでは身寄りもなく死んでしまうだろう」


 エドワルドはジュエルの蒼色をした頭をワシャリと撫でた。その頃には嵐もどこかへ行ってしまって、快晴の空。燦々と降り注ぐ太陽光が残酷に雨粒に反射している。


「何が、あったんですか」

「今は。今だけは考えなくていい。ただキミは運がなかったと思っていれば良い」

「今の怪物は――」

「辛いのはキミ自身だぞ、少年」

「両親を……弟を……。村のみんなを――」


 エドワルド=エレクトリカルはその場に膝をついて、少年を抱いた。少年は彼の大きな胸の中。太陽の光が普段よりも眩しかったのは気のせいではないだろう。


「前を向かなくてもいい。キミは弱く、脆く、繊細なのだから」


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