*006 意志と紹介
*006 意志と紹介
「この人形が、ダスティンの魔装なのか?」
俺はダスティンの犬が持ってきた人形を指さしながら聞いた。俺はリーナの説明で武器や防具、アクセサリーに魔石をはめ込んだものを魔装。その中で古い物は特殊な能力を持つ古代魔装という。
って事を聞いていたが、まさか人形型もあるなんて......
俺は持っていた人形を再び見なおして、ある事に気がついた。
「あれ? 魔石がない」
人形を見る限り、見えるところには魔石はなかった。服の下にあるのだろうか?
「ああ、確かにそれは俺の魔装だけど、その人形自体は魔装じゃないんだ」
「どういう事だ?」
「こういう事だ」
俺とダスティンが話してると人形がしゃべった。人形を見ていると急にさきほどまで口などが動いていたのに動かなくなった。
あれ?と思い、もう一度人形をよく見ても普通の人形だった。
「巧、こっち見てみろ」
ダスティンが呼ぶのでそちらを見ると、ダスティンの横にきらきらと光る幽霊のような物がフワフワ浮いていた。
「なんだそれ!?」
俺が驚いてるとそれを見ていたリーナがその光る物に話しかけた。
「ねえ、ゼフィール。何か用があったの?」
「ああ、そうだった。あなたたちがお昼すぎても帰ってこないから呼んで来い、ってお母さんがね。暇だから来てあげたのよ」
お昼と聞いて、俺はお腹がグーと鳴った。あ、そういえばこの世界にきてから何も食べてなかったな。驚きの連続すぎて、すっかり忘れていた。思い出すとすごい空腹感が襲ってきた。
その様子を見ていたリーナが笑いながら
「お母さんのところいってご飯食べにいきましょうか。ゼフィールの事は行きながら説明するから」
と提案した。ダスティンも頷き、俺もそうすることにした。
古代魔装も普通の魔装のようにただの道具なのだが一部例外があるらしい。ダスティンの魔装『ゼフィール』はその例外のひとつで魔石に意志が宿った魔装なんだそうだ。
魔石はもともとなんらかの生物の化石で、その生物の自我が長い年月をかけて宿った。とか昔の持ち主の強い思いが形になった。とか、もともと武器には意志があり魔石によってそれが現れるようになった。など色んな説があるらしい。色んな物があるんだなー。
ダスティンの魔装の説明を聞きおえる頃には中心部の街に戻っていた。二人が歩いてるのについていくと村長の屋敷ほどではないがかなり大きめの建物に着いた。入口が西部劇とかでよく見るバタ戸だった。酒場とかなのかな?
「ここは1階が酒屋になってて、2階3階が宿になってるの。私はここで寝泊まりしてるの」
「へー」
「それでお昼や夜になると、ここのご飯を食べに結構人が集まるのよ」
なるほど、馴染みの飲食店って事か。この村は人が多いって言うし、さぞ賑やかのなのだろう。
二人が中に入るので俺も入る。中は木製のテーブルや椅子が40か50ほど並んでいる。多いなー。
奥にはカウンターがあって30か40ほどの女の人が皿を拭いていた。
「お母さん、帰ったよー」
「ああ、おかえりー。遅かったけどなにかあったのかい?」
リーナと女の人が親しげに話す。このひとがリーナのお母さんなのか。お母さんが俺の方を見ておや?というような顔をした。
「リーナ、この人は誰なんだい?」
「この人は巧さんといってね、今日から村に住むことになったんだよ」
「へえ、ここに住むのかい。若いのは都市に出ていくばかりだから助かるよ。よろしくね」
お母さんが俺の方を見て挨拶をする。
「はい、よろしくお願いします。リーナのお母さん」
俺が挨拶をするとお母さんは驚いた顔をした。その後、急に笑い出した。あれ?また挨拶して笑われた。リーナが慌てた感じで俺に話してきた。
「ごめん、なんか勘違いさせちゃった。この人はルミエルさんって言うの。私のお母さんじゃないわ」
「え?そうだったの」
なんでもいつも優しく、おいしいご飯をふるってくれて、宿をとっているとその人の洗濯や部屋の掃除などしてくれるので一部の人からはお母さん、と呼ばれているとか。リーナはまさしくその呼んでる人でいつも世話になってるからそれでお母さんと呼んでいるらしい。
お母さんことルミエルさんの笑いがやっと治まってきた。
「はあ、笑った笑った。私の事はお母さんでもなんでも好きに呼んでくれいいよ。改めてよろしくね、巧」
「はい、よろしくお願いします。ルミエルさん」
ルミエルさんが出したから揚げの山盛り(なんの肉なのかよくわからないが)はかなりおいしかった。確かにこの味ならいろんな人が通うのも頷ずける。リーナやダスティンもパクパク食べるからあっという間になくなっていた。
食後のお茶をずずずーと飲む。なんで食後に飲むとおいしく感じるんだろうなー。そう思いながら店内を見るといつの間にかお店の席が半分以上埋まってきていた。いつの間に。
「あれ? もう夕刻か」
ダスティンが外を見てつぶやく。俺も外を見ると確かに少し暗くなっていた。なるほどこの人たちは夕飯を食べに来たのか。
「あ、そうだ。ちょうどいいわね」
突然人が徐々に席が埋まっていくのを見ていたリーナがしゃべった。リーナが立ってお店の前に歩いて行く。何をするんだろう?
「はい、みんなー注目ー!」
リーナが叫ぶと店内にいた人たちがリーナの方を見る。その人たちが「あれ?リーナじゃないか」「どうしたんだー」「またなにか派手なことでもやんのかー」と様々な事をいっていた。みんなの反応からしてやっぱりリーナっていろんな人と仲がいいんだなー。
最後の一言は少し気になるが。いままでにどんな事をしたのだろうか。
「実は今日、この村に若い人が住むことになりました!」
その一言でその場にいた人おそらく全員が叫んだ。
「うおおお、まじかーー」「やっとうちの仕事が減るぜー」「おい母さん!酒持ってこい。今日は飲むぞー」
村長やダスティンとかの時もそうだがなぜみんなは若い人が住むってだけでこんなに喜んでるんだ?そんなに若い人が出て行ってるのかな。
その後はまあ酷かった。武器屋のラモスさん、防具屋のラーザさん、道具屋のマオさん、占い屋のリサさんなどなどこの村でおそらく商売をしている人全員に挨拶された。何が嬉しいのかいろんな人が酒を頼んではがぶ飲みしたりでまるで宴会のようになっていた。
一番きつかったのが後半あたりからよっぱらって絡んでくる人達だ。いろいろ聞かれたりなんだりで受け答えがとにかく大変だ。記憶喪失ってことにしなかったらもっと疲れていただろう。
やっとみんなが帰ったり酔いつぶれて寝ている頃にはすでに暗くなっており日にちがかわっていた。ちなみにリーナやダスティンは途中で抜け出したのか気がついた時にはいなかった。
「今日はあんたのおかげで儲かったわー。今日はただにしといてあげるからゆっくり休みな」
ルミエルさんが笑いながら一部屋貸してくれた。お金なんて持っていなかったのでほんと助かりました......
部屋に入るとだいたい六畳くらいの部屋にベットと机が置いてあった。今日は驚きまくったのと先ほどまでの宴会で疲れていたため、ベットを見るや眠気が襲ってきたのですぐにベットに飛び込んで目を閉じた。
こうして異世界に来て初めてまともな睡眠をした。