*004 挨拶と大魔法
*004 挨拶と大魔法
魔法。現代社会において、さまざまな不可思議な現象、原理などが科学で証明できる事が数多くなり、信じる人はほとんどいないと思う。実際、魔法なんてゲームやアニメなどの架空の物でしか見ない。俺自身もそんな非科学的な物があると思っていなかった。
だが今、目の前の赤毛の女の子、マリンの起こした現象は俺に魔法が実在すると実感させるには十分だった。マリンの掌にまるで風が集まっているかのようにびゅーと音を立てている。
俺が驚いている中、リーナははあっとため息をついていた。
「ほんと懲りないわねー、あなた......」
そういいながらリーナは人差し指をたてて、マリンと同じように叫んだ。
《氷よ落ちろ アイスストーン》
するとマリンの頭の少し上あたりに飲み物に入れるくらいの小さな氷ができたと思ったら重力に従って落ちた。
「ひゃうっ!」
その氷は見事にマリンの首筋に落ちた。狙ってやったのならすごいな。マリンが声を出すと手のひらの風がいつの間にかなくなっていた。
ほんとよく分からない、いったいどうなってんだか。
「前から言ってるけど、当てたいのならそんな中級の魔法じゃなくてもっと簡単な初級の魔法にしなさいよね。あなた詠唱で転換しないと魔力つくれないんだから」
リーナが呆れながらアドバイスをしている。さっきのがもし当たったら簡単に吹っ飛んだはずだ。防いだとはいえ、リーナの落ち着きようから毎回こんな事をしているのかもしれない。
「うるさいわよ!発動すればあんたの魔法より強力なんだからいいじゃない!」
マリンが大声を出して抗議してる。
「はいはい、分かったから。それより村長さんいない?相談があるから呼んでほしいんだけど」
リーナが当初の目的を告げた。あ、そういえば話があってここに来たんだ。魔法なんて見せられたせいですっかり忘れていた。
「はあ!なんであんたなんかのために呼ばないといけな......」
なおリーナに食いつこうとしているマリンが消えた。と思ったら、目の前にガタイのいい感じの白髪のおじいさんが出てきた。
「うわあああ」
俺は驚いて無意識に後ろに下がったせいで足を引っ掛け尻もちをついた。びっくりしたー。
「あ、村長さん。いきなり魔法で現れないでくださいよー」
「はっはっは、うちのバカ娘が騒がしいからの。こっちの方が手っ取り早い」
リーナが普通に話している。多分こんな事は日常的にしているのだろう。心臓に悪い。
俺は立ち上がって落ち着かせている間にリーナが事情を話す。村長はふむふむと頷きながら聞いている。
「なるほど、最近は都市のほうに行く若いのが多いから人手不足での。村に住むのはかまわんよ」
「本当! よかったー」
「じゃがちゃんと働いてもらうぞ、いいかな少年?」
と村長さんが、俺の方を見て聞いてきた。まあ働かざる者食うべからずっていうし、迎え入れてくれるだけでありがたい。
「はい、わかりました。俺は加藤 巧っていいます。よろしくお願いします、村長さん」
俺が自己紹介をすると村長さんの眉がすこしだけ動いたように見えた。あれ?なんか失礼な挨拶だったかな?
「あの...何かまずいことしました?」
俺がおそるおそる聞くと。
「いや、このへんじゃ珍しい名前と思っての」
なるほど、俺の名前が聞いたことなかったからか。リーナとかも苗字なんてなかったし、名前だけ言ったほうがいいのかもしれないな。
「わしはリブルスという。名前でも村長でもどちらでも呼んでかまわんぞ」
「じゃあ村長さんで。よろしくおねがいします!」
俺と村長は手を伸ばして握手をした。
俺とリーナは村長の所に行く時に話しかけた男のところに向かっていた。向かっている途中、先ほどの魔法について聞くことにした。
「なあリーナ。さっき使ってたのって魔法だよな?」
「ええそうよ。さっきマリンが使っていたのは風の魔法《エアブロウ》で相手に収束した風を叩きつける魔法ね。私のは水の魔法《アイスストーン》で氷を生成する魔法よ」
「へー。それって俺でもなんか唱えてたけどそれ覚えれば使えるのか?」
「適性があればね」
それからながながと、リーナ先生に魔法の解説を聞いた。
大気中には魔素とよばれるものがあり、呼吸をする生物は体にその魔素を蓄える。普通の生活をする分には支障がなく、それを扱う事は本来できないらしい。けど一部の人はその魔素に適性をもって生まれるらしい。
その適正を持っていると魔素をその適性の魔力と呼ばれる魔法に必要なエネルギーに転換することができ、それを使う事でさっき使っていた魔法を使う事ができるらしい。属性は全部で火、水、風、土、闇、光の6つがあり、リーナは水と光、マリンは風の適性があるらしい。
「じゃあさっきの村長も適性があるのか?」
「そうよ、凄いわよあの人。なにせ土と闇以外なら全部持ってるんだから」
「えっと2つ使えないから......4つももってるのかよあのじいさん......」
「まあ、今はほとんど使えないんだけどね」
「え?だって適性があれば使えるんだろ?」
「もうあの人も年だからできないのよ」
魔法は確かに使えれば便利だし、武器にしようと思えば強力な力になる。ただそれを使うとなると体の負担がとても大きいらしい。というのも年を取るにつれ、魔法の負担が体にはきついらしい。そのせいで魔法を無理して使ったりすると場合によっては死ぬこともあり得るのだそうだ。
せいぜい、初級魔法程度が限界らしい。まあ若い人と比べたら体は衰えてるんだし、そうなるのも仕方ないのかもしれない。
魔法について話していると、リーナに手伝いを頼んでた男の所についた。男がリーナが着いたのを気ずくとこちらに走ってくる。
見た目的にたぶん、20歳前半くらいだろうか。かなり若い。上がタンクトップなので腕の筋肉が見えるがすごい筋肉だ。農作業をしていればあんな風になるのだろうか。
「ごめんさい、ダスティン。ちょっとおくれちゃった」
「いやいいよ、どうせマリンがまた馬鹿やってたんだろ? それより......さっきすこし聞いたけどそっちの、巧だっけ?どうなったんだ」
視線をこちらに向けてダスティンという男が聞いてきた。
「今日からこの村に住むことになった巧です。よろしくお願いします、ダスティンさん」
軽く自己紹介をしながら頭を下げる。するとダスティンさんが顔をほころばせた。
「そうか! 最近俺みたいに村に残る奴が少なくてな......大歓迎するぞ! 俺の事はダスティンでいい。よろしくな、巧!」
ダスティンがこちらに手を伸ばした。俺も手を伸ばしダスティンと握手した。
こうしてこの世界にきて初めて男友達ができた。
「じゃあいつものように頼めるか、リーナ?」
「わかったわー」
リーナは畑の前に走って行き、両手を上げて目を閉じた。今から頼まれた事をするらしいが、俺はこの後どうなるのかわからないので隣に立つダスティンに聞いた。
「リーナはこれから何をするつもりなんだ?」
するとダスティンはニヤっと笑って答えた。
「いまに見てな。とんでもないのが見れるから」
視線をダスティンからリーナに移す。魔法なのだろうか?ならはやく唱えればいいのに......と謎に思う。
それから2分ほどたってからやっとリーナが叫んだ。
《水に転換 すべてに恵みの水を 我の力をもって具現せよ アクアシャワー》
リーナが長めの詠唱を終えても何も起きなかった。
「おい、何もおきないぞ」
「まあ少し待て。もう少しで分かるから」
ダスティンの答えに首を傾げる。どうなってるんだ?と謎に思いつつリーナのほうに視線を動かそうとした時、ポツンと額に水が落ちた。
え?と思い空を見上げるが雲ひとつない青い空だった。気のせいかとおもったがポツン、ポツンとにわか雨のように降り出した。
「どうなってんだ......?」
俺が謎に思ってると、それにダスティンが答えた。
「これが超級魔法だ。このクラスの魔法なんて初めてだろ?」
ダスティンは俺の反応を見て笑っていた。
魔法ってそんなことまでできるのかよ......俺は降り読ける雨を見ながら、そう思わずにはいられなかった。