*041 秘宝と褒美
*041 解決と褒美
「で、まーた俺は寝てたと」
「はい」
俺は借りている部屋のベットに寝かされながらアイリにお世話してもらっていた。
あの後、黒ずくめの男ら全員を無力化を確認した後、魔素の減少と集中の糸が切れたせいで俺はその場で情けない事に気絶してしまったらしい。1分程度だったとはいえ、武器を持った人間と戦っていたのだ。無理もないと思いたいが情けないとも思ってしまう。
というか、毎回、何か事件に巻き込まれる度に最後は寝込むという事事態が情けないのか......
俺が寝ている間にあの事件の首謀者も見つかり、処罰されたらしいので事件は完全に解決したらしい。
「失礼するよ。お、巧君。目が覚めたのかね」
アイリから話を聞いていると様子を見に来たらしい坂本さんが部屋を訪れた。
「すまなかったね、こんな事に巻き込んでしまって。騎士団の中に手引きした者がいて、まんまと会場に侵入されてしまった......」
坂本さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえ、俺は気絶しただけなんで。他にけが人とかは......」
「君のおかげで会場の客や大臣などほとんど傷1つなかったよ。一名の騎士と男の子と姫は少しけがしたが既に回復魔法で治療済みだ」
てことは一番ひどいのは寝込んでいた俺だけか。今回は魔素の使いすぎ、というのもあるが緊張が解けて気絶したというのが強い。あれ?なんか凄く情けな......これ以上はやめておこう。流石に凹む。
「それにしても驚いたな。まさか無属性魔法を使いこなすとは」
「まあ適性がないと思った時に練習したら出来ちゃったんで......」
そう言えばあの適性なし、魔素保有量が少なかった最初の誤診って俺だけなのかな?俺は言ってて気になり、坂本さんに俺の魔法の診断について聞いてみた。
「巧君もなのか。私や妻も同じだったよ」
「やっぱり......原因とかってわかりましたか?」
「妻が言うには私達の世界には魔素なんて物は存在しなかったからこの世界に来た時は保有量は0だった。だが時間が経つにつれ、魔素が体に溜まっていきこちらの人間と変わらないようになったのでは?と考察していたが......」
恭子さんの仮説を聞いて、確かにと頷く。俺はこの世界に来てから2日目くらいで診断をしたせいでまったく溜まってない状態で診断したから適性も保有量もちゃんとでなかったのだろう。
今回、2回無属性魔法と《クリエイト》、パ―ティー前でもバイクを動かす時に多少魔力を使ったが、いつもみたいな脱力感や疲れは出なかったのは保有量に着々と溜まってきているからだろうか。
「あのう、少し気になったのですけどいいですか?」
アイリが少し手を上げ、坂本さんに話しかける。
「なにかね?」
「あの人達の言っていた『イシュトの秘宝』ってのはいったい何なんですか?」
『イシュトの秘宝』、人質を取り交換条件に出していた物か。確かに秘宝っていうくらいだ。どんなものだろう。
「ああ、それか。えーと、はい。これの事だよ」
坂本さんがポケットから、ってあれって......
「あの時のカード?」
最初は魔兵騒動の時、そして今回の事件の時に見たあのカードだ。
「このカードは超級魔法を封じ込めた物でね。魔力を流すだけで誰でも扱う事のできる魔道具だ」
その説明を聞いて俺とアイリは固まる。
超級魔法、前に一度リーナの『イマジネーション』を使って発動した《アクアシャワー》は見渡す限りの場所に雨を降らした魔法。本来なら時間や材料と大がかりな準備をして発動する魔法らしい。リーナは古代魔装でそれらを省略して、わずか数分で発動させていたが......
「超級魔法を、誰でも?」
という事はあの魔兵を取り出した魔法も超級魔法だろう。無属性魔法レベルの短い詠唱で発動できるのだ。古代魔装を見た時にも思ったが、本当にこの世界よく滅ばなかったな。
「もちろん、これに関しては管理は厳重だ。持たせる人間を間違えればとんでもない被害になるからね」
「けど隣のレイン王国にもあるんですよね?今回みたいに使われる事だって......」
今回の事も魔兵の時だってカードを使われて、まずい状況に至った。相手が馬鹿だったり油断したりしてたおかげでなんとかなったけど......
「カードにも数はある。おそらく全部合わせてもそう数はないだろう。その状況でレイン王国は最近だと3枚も失ったのだ。そうそう迂闊に行動しないだろう」
本来、何か仕掛けてきてもカードを使うまでは無いと言う。確かに使えば協力な武器だが今回のように失敗すれば奪われる可能性がある。そうやすやすと失うわけにはいかないという事だろう。
そう考えるとレイン王国はかなりの痛手に違いない。そんな貴重なカードを3枚も失ったのだ。しばらくは大丈夫......と思っていたいな。
「できれば問題事は起こさないで欲しいものだけどね」
俺と同じ事を思っているのか坂本さんも......いや、それだけじゃなくてこういう問題が起きたら事後処理をする立場なのか。俺よりいっそうやめてほしいといった感じの顔をしていた。なんか......お疲れ様です......。
「それより体はもう大丈夫なのかね?」
坂本さんが重くなった話題を変えるためか俺に話しかけてきた。
「ああ、はい。もう動けるくらいには回復したので大丈夫です」
一日寝たおかげか疲れは全然感じない。もう歩き回っても大丈夫だろう。俺は起き上がり軽くストレッチしてみせる。
「そうか、それは良かった。そうだ、巧君。近々王様から何か今回の事で褒美を出すという話なのだが何か欲しいものはあるかね?」
「褒美?いや、俺は別に......」
「言っておくが何か欲しなければ私のようになにか役職や貴族にされるぞ」
いらないです。と言おうとしたが坂本さんがそう忠告したのでやめた。またあんなパ―ティー、いやもっと固いパ―ティーなんかに出されたりするのはもうごめんだ。それに貴族になんてされたらそんなマナーとか知らないから何かと言われそうだし......
なにより坂本さんのアドバイスが妙に力強いのだ。これは自分の経験談、からなのだろうか?
うーん、けど欲しいものか。お金は......ダメだな。なくて困らないものだから別にいいと思うけど「じゃあお金をください!」と言うのはなんか嫌だ。そうだなー、ゲームとかはこの世界にないだろうし......俺にない物とかか?あ。
「じゃあ魔素保有量を上げるとか無属性か闇魔法の効果や威力の上がる古代魔装、とかってのはだめですかね?」
「それなら大丈夫だろう。そう王様に伝えとくよ」
足りない部分は道具でカバーする。って事で俺は魔法の回数か効果を強化するためにそういう効果の魔装があれば便利だろう。
「それっていつ頃になりますか?」
「そうだなー、多分事後処理なんかも考えて5日くらいになるかな?」
できればすぐもらって帰りたかったんだけど......そういう事情なら仕方ないか。
「あの、巧さん」
「ん? なに」
「時間があるなら、バイクの調整や王都を観光などをすればいいんじゃないんでしょうか」
「それアイリがしたい事だよね?」
まあ俺としてはやる事ないし、あるとしてもアイリの言った事くらいしかできないからまあいいか。
「しばらく王都にいるというのならこの部屋は貸すぞ」
坂本さんがアイリとの相談を聞いて、ありがたい事を言ってくれた。
じゃあ経緯はどうであれ、せっかく来たんだし王都を楽しみますか!