*035 パ―ティーとお姫様
*035 パ―ティーとお姫様
《光に転換 対象に癒しを ヒール》
近寄ってきた坂本さんが俺に回復魔法を使うと、たちまち先ほどまでの疲れが無くなっていった。
「すまないね、こいつ喋り出すと止まらなくて」
「ひどいなー、そんな事ないよー」
いや、その通りだと思うぞ?
俺は懐中時計を出して時間を確認するとすでに時刻は5時30分を過ぎていた。俺がアイリに起こされたのが12時前後だったから、食事や移動なんかの時間を抜いたとしても最低4時間は話してたのだろう。
隣のアイリも疲れてるのでは、と思って見ると憧れの魔導師長と魔法関係で話せたのか凄い満足してる感じだ。......魔法もっと勉強しよ。
「ほら、さっさと着替える! 今日は絶対に出ろってイアンがうるさいんだから」
「やだー! あんなたくさんの人がいて明るい場所なんていけるか。亮君の部下なんだからなんとかしてよ」
「今までそうしてただろ! これ以上怒らせるとまーた仕事増やされるんだから。今回は出ろ!」
俺やアイリがいるにもかかわらず、坂本さんが恭子さんと言い合っている。恭子さんが一方的に駄々を捏ねてるだけだが。
やっぱりというか、なんというか。こんなうす暗い地下に引きこもってる恭子さんは明るくて人の多いのが苦手な人らしい。にーt、いや働いてるから違うか。失敬。
結局、抵抗していた恭子さんだったが、坂本さんに首元を掴まれ無理やり実験室から連れ出されていった......
「似合わねー......」
「そんな事ないと思いますけど......」
貸してもらった黒いスーツを着て、鏡の前に立った俺はそこに映る俺の姿にそんな感想を漏らしていた。
なんというか......子供が背伸びして大人っぽい格好をしてる、って感じがするんだよなー。こういう固い感じの服よりもっと崩した感じの方が似合う気がする。
「アイリの方は凄い似合ってるな」
「そうですか?」
アイリの方の衣装は白い段フリルの長いスカートのドレスだ。本人の黒い髪と相まって、清楚な感じが醸し出されてる。何も言われなければ、どこかのいい所のお姫様にしか見えない。
「俺は会場の隅っこでなるべく話しかけられないようにしてるけどアイリはどうする?」
「昨日、パトリックさんに聞いたんですけど、今日のパ―ティーに他にも知り合いの方が来るらしいので挨拶しに行きます」
「へー、他にも魔人がこの国にいるのか」
元の世界だと、ゲームやアニメの中で、人間以外の種族はなにかと差別されがちだが、この世界ではそういう事はないのだろうか。
その辺りを聞いてみると、
「確かにそういう人は少なからずいますけど、この国では滅多にいませんよ」
やっぱりいるのか。まあ元の世界じゃ同じ人間同士でも差別なんてしてるのだし、世界が違えど同じなんだろう。
けどこの国にはいないってどういう事なんだろう。
「まあいないって言うか、いなくなったって感じですけど」
「いなくなった?」
「今の騎士団長さんが団長になった時に騎士団の増員をしたんです。その時に団長さんが連れてきた魔人の方が凄く強くて、やさしい人だったみたいで。それでこの国だと尊敬はあっても軽蔑なんてことはないとか」
「坂本さん、本当にどんな生活をしたらそうなるんだよ」
あの人の今までの経歴をマジで見てみたい。
「その魔人の人ってそんなに強いのか?」
「いえ、昨日聞いた話なので......『魔剣』って呼ばれてる事くらいしか」
なにその異名みたいな呼ばれ方!?まじでどんな人なんだ?古代魔装だってあるんだし......魔法をまとった剣を使いこなす、とかかな。
考えてみると凄いかっこいい......一回そんな派手でかっこいい姿を見てみたいな。
パーティーは俺の予想以上の規模だった。というのも凄い人が多い。部屋自体が広いためギュウギュウというわけではないのだが、何処を見渡してもスーツを着こなした上品な人や強そうな鎧姿の人などが楽しく話していた。
確かに堅苦しい雰囲気はないが......これなら恭子さんが嫌がる理由も分からなくもない。俺も帰りたい......
「あーーー! こんな隅っこにいたのかぁぁぁ」
急に大声が聞こえ、ビクッと驚きながら声の主を無意識に探そうとする。が、探す必要はなかった。なぜなら......
「マリン!? なんでこんな所にいるんだ?」
目の前には赤い精巧な作りをしたドレスを着たマリンが立って、俺の事を睨んでいたからだ。
「私は魔兵の事を説明しに来たのと、お父さんが騎士団長に招待状を受け取ってパ―ティーに参加するからその付き添いで来たんだよ」
ああ、なるほど。そういえば知り合いを呼べときつく言われてたな、坂本さん。会ったばかりの俺をここに招待するくらいだから知ってる限りの人を呼んだに違いない。日本人の事を話すくらいだし、村長さんも知り合いだから招待したのだろう。
「それより、お前が騎士団長やお父さんが探してた日本人なのか?」
「え? なんでそんなこ......」
ってマリンって村長の娘なんだから知っててもおかしくないのか。じゃあ、別に隠さなくてもいいのかな?
「ああ、俺は坂本さんと同じ日本人だ」
「ふーん、じゃあ巧もすげー才能持ってるのか?」
「すげー才能?」
「騎士団長は貴族の家の力とかなしで一般人から騎士のトップになるほどの実力だし、魔導師長は魔法の研究で今までに分からなかった魔法を解明したりって成果を上げまくってる天才だからさ。同じ日本人ならなにかしら持ってるんじゃないのか?」
あ、そういう事か。
おそらくマリンは、日本人=凄い能力持ちって感じで考えてるのだろうか。
けど、俺の適性は闇しかないし保有量だって平均より少ないらしい。他にめぼしい特別な何かを持ってるわけでもないから多分関係ないだろう。
「いいや、あの2人が特別なだけだ。俺はただの一般人だ」
「なーんだ、みんな強いってわけじゃないんだ」
「できればそうあって欲しかったけどな」
日本人の血は特別で適性が多く現れやすい、とか魔素保有量が圧倒的に多い、とか練習しなくても中級、上級魔法が使える、とかとか。
まあそんな都合のいい事などないのが悲しい現実だ。はあ......
うおおおおお
悲しい現実を受け入れて落ち込んでると会場がどよめいた。
「お、今回の主役が来たか」
「主役?」
「うちの国のお姫様だよ。あ、いた。ほら、あそこのきれいな青髪の女の子」
マリンが指を指さした方向を見る。
そこには淡い水色のドレスを着て、頭に綺麗なティアラをつけた女の子が会場をゆっくりと、綺麗に歩いていた。とても染めた感じではない綺麗な青髪と、その優雅な振舞いからなんだか気品を感じる。
「すごいきれいな子だな。多分同じくらいの歳なのに、よくあんな風に振舞えるなー」
「そりゃあ、子供の時からこういう場にいるんだし、自然と身につくんじゃないのか?」
「そういうものなのかねー」
独り言のつもりで言ったので、俺はこの国のお姫様を見ながらマリンに適当にあいずちを打つ。
地球じゃ髪染めしても見れない綺麗な青髪と、整った可愛らしい顔立ちをした彼女の姿に俺はマリンに叩かれるまで見惚れてしまっていた。