*034 魔導師と意見交換
*034 魔導師と意見交換
よく見ると髪がボサボサで凄く長い髪をゴムで後ろでまとめている。目の下のクマがひどく、いったい何日徹夜したんだよ、と突っ込みたくレベルだ。
「ったく、人がやっと寝れると思ったのに......あなた達の責任者は誰!今からこっぴどく叱ってあげるわ!」
見た目の通り、まじで寝ずに作業をしていたらしい。どうやらさっきの騒ぎの音で起こしてしまったようだ。
なんて謝ろう、と悩んでいるとアイリがタタタっと女の人の前に走っていき、ペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい!騎士団長さんがここなら人が来ないから使っていいと聞いたのですが......」
「え? 亮君が? 本当にそんな事を?」
亮君って坂本さんの事だよな?そんな下の名前で気安く呼んでいいのだろうか。
アイリの言葉を信じられないらしく頭をひねっているこの女の人の前に俺も駆け寄る。俺より小さい(見た目は)女の子が謝っているのに俺が謝らないのはおかしいからね。
「すいません、実は誰にも見られたくない実験をしていて......さかも、騎士団長さんがここを使っていいと言ってて。まさか人が寝てるなんて思ってなくて」
「見られたくない実験って......ちょっと待って!あれバイク!」
俺の言葉を聞いた女の人が先ほどまで俺達がいた場所に目を向けたと思ったらそこに倒れているバイクを見て一気にテンションが変わった。って今この人、あれを見てバイクって......
「すごい、これは......なるほどタイヤの回転は魔法で補助してるのね。ここのパーツは......」
凄い勢いで走っていき、バイクを見たり触ったりしながらバイクの仕組みをどんどんしゃべっている。
さっきまでの暗いゾンビ状態からまるで人が変わったかのような。
「あのー、あなたはいったい......」
「ああ、私?私は坂本 恭子。この国の魔導師長なんて役職をやってるわ。よろしく」
バイクの色んな所を弄りながら適当そうに答えた。って!?
「「ええーーーーーー」」
俺とアイリは同時に驚きの声をあげていた。
それから30分くらいかけてバイクの構造を理解したのが満足したのかこちらを振り向いた。あれからずっと自己紹介したり、話しかけてもまったく反応しなかった。集中力おそるべし。
「君らがこれを作ったのか?」
「ええ、まあそうですけど......」
「すごいじゃないか! これね、私のいた国によくあった乗り物に似ていてね、久しぶりに見たからついつい熱中してしまったよ」
まあそうでしょうね。俺もその乗り物を再現しただけだから。にしても名前を聞いてまさかと思っていたが......
「あの、騎士団長、坂本さんとはどういった関係で?」
「私と亮君は結婚してる関係だけどそれが?」
やっぱりかー。苗字が同じだからまさかとは思ったけどそのまさかとはねー。
俺は改めて恭子さんの姿を見直す。おそらく着通したであろう服、手入れのなっていない髪、そして目元がひどいクマ......
いったいどんな経緯で二人が付き合って、結婚までいったのか気になるな。
「あのあの、あなたが魔導師長というのは本当なのでしょうか!」
アイリが興奮気味に恭子さんに話しかける。
「ああ、本当だよ。本当は嫌なんだけど、この部屋を作るために仕方なくね」
「わああぁ! 稀代の魔法研究学者にまさか出会う事ができるなんて......」
「おいアイリ。テンション高過ぎて倒れかけてるって。ちゃんと気を持って!」
アイリが後ろに倒れかけるのを俺は慌てて後ろから抑える。こんな反応は今までにない。いったいどんだけ興奮してるんだよ。
「なんでそんなに興奮してるんだよ」
「だって、だって巧さん! この方は歴代の魔法研究者、私達妖精族でも解読できなかった魔法。特にいままで伝承された物しかなかった無属性魔法を数多く解明した天才ですよ!」
アイリが興奮で早口になりながらもなんでそんなに興奮しているのか説明した。
そ、そんなに凄い人だったのか......ってそう言えば前に村長に無属性魔法を教えてもらった時にもそんな話を聞いたな。確か「数年前にふらっと現れた天才が魔法名を見ただけで効果を理解した」って。
まさかこの人の事だったのか。
「天才って。そんな大したことはしてないよ。私はただ、見たことある単語ばっかりだから喋ってみたら騒ぎになったってだけで」
恭子さんの言った事にあ!となぜ今まで気がつかなかったのだろうと思いながら気がついた。無属性魔法|≪チェンジ≫位置を交換する魔法。≪キャンセル≫触った者(物)の魔法を無効化する魔法......どれもこれも英単語で意味と効果がほぼ同じじゃないか......
うん、それなら分かるよな。細部は違ってもある程度は同じだろうし。なんで気がつかなかったんだよ、こんな事、俺.....
「それよりこれのアイディアはどっちのなんだい?」
「あ、それはこちらの巧さんですよ。私はそこの魔法関連の所を手伝っただけです」
「へー、凄いじゃないか君、ってなんでそんな落ち込んでるんだい?」
落ち込んでいる俺の姿を見て恭子さんが不思議そうに聞いてくる。
「いや、自分のバカさ加減に嫌気がさしましてね......」
「いやいや、こんなアイディアを思いつくなんて私のいた国にもっと前に生まれてれば歴史に名を刻めたよ。あ、そうだ。よければ私の試作品も見てくれないかい?」
いや、だからあなたと俺の国一緒ですって、と言おうとしたが凄い勢いで最初にいた場所から近い開いてるドア(おそらくそこがあの人の研究室なのだろう)の中に消えていった。
「凄いですね、巧さん。あの天才に天才って呼ばれましたよ!」
「いや、あれ既にある物を再現したものだから全然大したことないよ」
「え? それってどういう事です?」
うーん、どうしようかね。別に言ってもいい気がするけど信じてもらえるかどうか。
いきなり、「実は俺、地球っていう惑星の日本っていう国からよくわからん地震のせいでこっちにきちゃった日本人なんだ!」なんて言っても俺なら信じない。露骨に怪しすぎるもんな。
次会った時に坂本さんに相談するか......
そう思っていると恭子さんがでかい白い箱のようなものを引きずって持ってきた。
「これはね、私の国でいう冷蔵庫という中の物を冷たくするものでね......」
「おーい、恭子、巧君、アイリちゃん。そろそろパ―ティーの支度を......って何をしてるんだい?」
坂本さんが俺達の方を見ながら聞いてくる。
あの後、3人で恭子さんが次から次に持ってくる家電製品(電気は使ってないが)を持ってきてはどうやって作るか、改良するかなど話し合っていた。
おかげで周りにはでかい家電製品がごろごろと転がっている。
「あ、亮君! この子、巧という名前なのかい! 私達の国の家電製品の事を説明すると色々改良点なんかを考えてくれるよ、この世界にも天才っているんだね! いやーよくこんな人を見つけたもんだ!」
「え? いやだって恭子、巧君は日本人なんだから当たり前だろう?」
「ええ!? 君、日本人だったの?」
俺、最初っから言ってたし途中で切りだそうとしてたよね?俺はそう思いながらずっと話してた疲れで床に倒れてた。あー、水が欲しい。