*033 招待と試走
*034 招待と試走
アイリに話を聞くと、村でセシルさんとリーナが揉めてる時、セシルさんの鎧がこの国の騎士団の正装だというのを認識した時に魔石の中に避難したらしい。
村に登録されてない自分がいたら連れていかれるかもしれないと思ったらしい。まあ、あの人ルールとか厳しそうだしそうなる可能性も十分にあるか。
実際は俺の捕獲からの連行だったけど。
それで今までずっと隠れてて、俺が一人になった時にでも出てくる予定だったのだが、
「知ってる人の名前が出て思わずしゃべっちゃったと」
「はい、パトリックおじさんはイガリアにいた時によく遊び相手をしてくださったいい人なんですよ」
まあ、知りあいがこんなところに偶然いたらびっくりするよな。俺もつい数時間前に日本人に会えて叫んでたし。
「巧君、その子が?」
「ああ、すいません。はい、この子が妖精族のアイリです」
「そうか、それならちょうどいい。直接会ってきた方がいいだろう。パトリックも喜ぶだろうし」
「いいんですか!」
坂本さんにパトリックという獣人の人がいる部屋を教えてもらうと、アイリがバァーと凄い速度で部屋を出て行ってしまった。ほんとすぐ行動に移すなー。
「なんか、すいません」
「いや、いいよ。妖精族はたいていがあんな感じだからもう慣れたよ」
まじか、って事はここにあるバイクとか持ってた日には絶対お祭り騒ぎになるのだろうか。それは恐ろしい......ってかなんで坂本さんそんなに魔人の事を知ってるのだろう。
仲がいいって事は何人か知り合いいるんだろうし。どういう異世界生活を過ごしたのか凄い気になる。
「あ、そうだ......巧君!」
坂本さんが何か思い出したような顔をしながら俺の名前を呼んだ。
「なんですか?」
「ひとつ頼まれ事を引き受けてくれないか?」
「頼み事?」
「実は明日、騎士団主催のパ―ティーがあるのだが「今回こそはちゃんと知り合いを招待してください」と言われてしまってて......できれば参加してほしいんだけど」
お城のパ―ティーっていったらあれだよな。貴族とか偉い人が出席するやつ。今回のは騎士団主催なんだし、騎士団長は参加しないとまずいよな、って!
「俺がパ―ティーにですか!? 無理です無理です、絶対無礼を働きますよ俺。マナーとかそういうの全然分からないし」
「大丈夫! 王様のと違ってあんまり固いパ―ティーじゃないから。私を助けると思って引き受けてくれ」
話を聞くとこういうパ―ティーの場合、家族や友達なんかを呼び交流を深めるのが目的らしいのだが坂本さんの場合、全然人を呼ばないらしい。
まあ家族なんていないし、友達だってこの世界来てまだ1年ちょっとらしいから少なくて仕方ないんだろうけどさ。
うーん、多分だけどこの人とは長い付き合いになるだろうし色々と厄介をかけそうだし......ここで借りのひとつでも作った方がいいのか?
まあ固い感じのパ―ティーじゃないらしいしおとなしくしてれば問題ないのだろう。
結局、俺はパ―ティーに招待されることになった。パ―ティーは明日なので今日はお城の部屋を一部屋借りる事になり、部屋に案内された。
「ここを好きに使ってくれ」
「やっぱり広いな......」
案内された部屋は客用なのか質のいい調度品が備えられていた。なんだろう、この場違い感。すごく快適そうだけどやっぱり俺的には吹雪の借り部屋の方が落ち着くなー。
ちなみにアイリにもこことは別の部屋を貸したらしい。今日は一人でゆっくりしたかったからありがたい。
俺はふかふかのベットに横たわり今日の出来事を思い出す。
えーと、まず誤解で牢獄に入れられて、その後騎士団長の部屋に行ったらその団長さんは俺と同じ日本人で、この世界の事を色々しれ...て......あとは......
だんだんと眠くなってきた俺はいつの間にか目を閉じて眠りについた。
「......みさん、巧さん、起きてくださいよー」
ゆさゆさと体を揺らされて俺は起きた。この起こされ方って全然ストレスなく起きれるから凄いよね。それが可愛い女の子ってのもあるだろうが。
「どうした、こんな朝っぱらから......」
「もうお昼ですけどね、それより巧さん!あのバイクって乗り物乗ってみてください!」
「バイク?ってああそういえば」
アイリに明日って言って何日も引き延ばしちゃってたもんな。この好奇心旺盛な妖精がこうなるのも無理はないけど。
「けど走らせる場所がないからなー、それに誰かに見られるのも避けたいし」
「その事を相談したら騎士団長さんがちょうど現れて地下の実験室を使っていいって許可をいただきました!」
へーこの城地下に実験室なんてあるのか。すごいな、この城。けどある程度の広さがないと走らせれないしなー。
「じゃあ俺が何か食べてから見にいって、ある程度の広さがあったらでいいか?」
「はい!」
「おい、これが実験室なのか?」
メイドさんにパンを頂いて軽くすませた後、バイクを押して地下に行くとそこには大型体育館2つ、いや3つ分ほどの広さの部屋だった。ここでいったいどんな実験をしてるんだ?
「確かにこれなら十分な広さがあるな」
「じゃあは走らせてみてください!」
アイリに急げ急げ、とせかされるのでバイクにまたがる。あれ?これってどうやって動かすんだ?
「アイリ、この魔法で動く所ってどうやって動くんだ?」
「ハンドルに魔力を少し流せば起動します。逆に流すのをやめれば止まります、あ、魔力タンクには私がつぎ込んだので大丈夫ですよ」
「なるほどねー」
俺がほんのすこーしだけ魔力を手にまとわせてみる。するとチョロチョロとタイヤが回りだした。おおー。
「動いた動いた!」
「加減は魔力を流す量を変えれば変更できますよー」
俺が感動しているとアイリがそんなアドバイスを言ってきた。よし試してみるか。
俺はいつも無属性魔法を使う感じで魔力を一気に流してみた。すると......
キュイーーーン
タイヤから変な音がしたと聞こえた時には俺の乗ってるバイクは一気に加速した。ちょ、はやいはやい。俺はすぐにハンドルから手を離し魔力を流すのをやめるがまったくとまらない。どんどん壁が近くになっていく。
「あーーー!すぐ止まらないんだったーーー」
俺がこれの欠陥を思い出して叫ぶ。そうしている間にも壁が目の前に迫る。俺はぶつかるのを覚悟で目をつぶる。
≪シールド≫
アイリが魔法名を叫ぶとピタっとバイクが止まった。あれ?
「巧さん、すごいですねこの乗り物。あんな早く移動する乗り物初めて見ましたよ!」
アイリがバイクをペシペシ叩きながらバイクに感動している。俺の心配なしっすか。まああの魔法があったのだからしなかったのだろうか。
「今の魔法≪シールド≫ってどんな魔法なんだ?」
「≪シールド≫は痛みや衝撃などをなくす無属性魔法です。結構便利な魔法なので覚えた方がいいですよ」
なるほど、それは確かに便利そうな魔法だな。てか、そんな魔法あるなら教えて欲しかったなー。
「ちょっとーーーーーここは私以外使用禁止のはずでしょーーーーー」
そんな事を思ってると部屋中に響き渡る大声で誰かが叫んだ。びっくりして俺とアイリが声のする方を恐る恐る見る。
そこにはしわしわの白いローブを着たメガネをかけた女の人が今にも死にそうな感じの顔でこちらを睨んでいた。
えーと、誰?