*030 牢獄と面会
*030 牢獄と面会
ピトン、ピトン、ピトン......
「うぅ......」
なんだろう、すごい体が痛い。それになんか体がだるい感じがするし......
顔に当たる水で目が覚めた俺は体を起こすとそんな感覚を覚えた。
「ここ、何処だ?」
辺りを見回すと目の前には格子、暗い感じの狭い3畳くらいの部屋だった。ってこれ完璧マンガやアニメ、映画なんかでよく見る牢獄じゃないか!?
「え? 待って待って、俺なんでこんな所で寝かされてるんだ?」
確か、アイリと一緒に《クリエイト》の練習をして、バイクを作った後......
「よくわからないけど騎士団って名乗る女に拘束されて......ってなんで俺拘束されてるんだ?」
この世界の法律がどんな物か知らないけど窃盗や殺人など明らかに罪になりそうな事はもちろんした覚えがない。
いや、俺ってこの国の人じゃないから不法入国になるのか?けどそれなら村長やリーナが許すはずないし......どうなってるんだ?
「すいませーん、誰かいませんかー。なんで捕まったのか教えてほしいんですけどー」
とりあえず考えても仕方ないので大声で叫ぶ。だが運悪く、誰もいないのか誰も返してくれない。
「とりあえず現状を確認するか......」
いつも何が起きても対処できるように装備していた白金はもちろん、ナイフなんかが入っているポーチ、ポケットの中に入れてた懐中時計までなくなっていた。
おそらくここに入れる時にすべて没収したのだろう。どのくらい寝ていたのか分からないが、この体の痛さといいだるさからして、結構長い間寝ていたに違いない。
そしてここは多分騎士団の所有する収容施設なのだろう。てことは都市にいるのか?
「とりあえずここを出ない事には明らかにまずいよな」
この世界の建物とかが中世な感じからしてもし文化的にも同じなら死刑とか普通にあるはずだ。それだけは勘弁願う。
とりあえず魔法なんて便利チートがあるし、なんとかここを出る事くらいはできるだろう。
「ほんっとにどうなってるんだよ! この部屋あああぁぁぁぁぁ」
魔法なんてチートがあるのだから楽だと思っていたが、考える限りの方法を試しても全然出れない。
≪クリエイト≫で飾り気のない鉄のナイフを生成して、格子を破ろうとしても傷一つつかない。そのナイフを格子の間から外に出して位置を交換する魔法≪チェンジ≫を使ってもなぜかいつものように発動しない。≪ワンアップ≫で腕力で強化してこじ開けようとしてもしたがびくともしなかった。
「まあ、考えたらそうだよな。魔法なんてあるんだし対策もするか......」
どうやらこの中で発動する分には問題ないみたいだが≪チェンジ≫みたいに外に干渉する魔法は使えないみたいだ。
やばい、どうしよう。もう出る方法なんて他に思いつかないぞ。
「あら、なにか騒がしいと思ったら可愛らしい子がいるな」
俺が絶望という言葉を身をもって味わってると女の人の声がした。声のした方を見ると白いローブを着た若い女の人がしゃがみながら俺の方を見ていた。
「あ、あの! 俺なんでここに捕まってるかわかりませんか?」
「え? 自分で何で捕まったか分からないの?」
「いや、気がついたらここにいたんで......」
「ふーん」
そう言って女の人が立ち上がり俺をまっすぐに見つめる。暗くてよく分からなかったが、よく見るとすごい美人さんだった。こんな場所だが少し緊張してしまう。
「確かに悪い人には見えないわね、けど騎士団専用の牢獄に捕まってるからなにかしら理由があるみたいだし......どんな人に連れてこられたかとか覚えてる?」
「えーと、鎧姿の女の人に騎士団長の命令で~って言って眠らされて、気がついたらここにいました」
「あーその子は多分セシルちゃんね。なら納得だわ」
俺を連れてきたのはセシルという名前の人らしい。けどなにが納得なんだ?
「あのう......」
「あ、安心してもいいよ君。あの人が命令してセシルちゃんが担当であなたが何もしてない、っていうのなら多分大丈夫だから」
「それってどういう......」
ことですか?と女の人に聞こうとしたらバンと扉が開く音がした。
「巧、起きてるか。団長の命でお前を連れてい......って副魔導師長! なぜこのような場所に」
「あらあらセシルちゃん。いつも仕事ご苦労様」
俺を連れてきた本人であるセシルが入ってくると俺の目の前にいた人を見て驚いている。副魔導師長っていってたしもしかして偉い人なのだろうか?
「じゃ、巧君。また会う機会があったらその時はゆっくり話ましょ」
俺に向けてそんなことを言うとセシルのところに歩いていき部屋の外に出て行った。
「貴様、副魔導師長と何を話していた」
「いや、特になんも話してないが......」
そもそも話の途中だったし。ていうかあの人の名前すら聞いてなかったな。副魔導師長っていうんだから偉い人と言う事しか分からなかった。
「まあいい。そこを出ろ、騎士団長がお呼びだ。抵抗せずに私と一緒に来い」
「まて、そもそも俺がここに連れてこられた理由すら分からないんだが。そこをまず教えてくれよ」
「理由? 我らの偉大な団長の強い命令だ。それ以外に理由はあるか」
おいおい、罪状もなにもないのかよ......それにしても騎士団長の事凄い崇拝してるな、この人。そんなに凄い人なのだろうか?
そんな事を思っているとセシルが俺のいる部屋のか鍵を開け、俺を無理やり引っ張りだす。一瞬、隙を見て逃げ出そうかとも考えたが、彼女の腰にある剣を見てやめた。生身でやるには分が悪すぎる。
俺を先頭に立たせセシルが後ろからそこを右に行けなど指示して歩かせる。少し歩くと先ほどまでの雰囲気と違って明るい石作りの廊下に出た。
「ここは......」
「我らヨルム王国の首都ザナリアにある王宮だ」
俺の予想通り、ここはどうやら都市のようだ。それにしても王宮か、こういう感じなんだなー。
天井を見ると高そうなシャンデリア、壁を見ると高そうな絵や壺などいかにも城!と言う感じの雰囲気だ。
「きょろきょろせずにさっさと歩け!」
「分かった、分かったからその抜いた剣を納めてくれ!」
まじで怒らせたら斬られそうなのでピキピキと歩きだす。セシルの指示通りに城の中を歩かされるとやがて白い大きな扉の前にたどり着いた。
「ここが騎士団長の部屋だ。覚悟はできたか?」
なんのだよ、と言おうとしたが言っても無駄だなと思い止めた。こうなったら命令した本人に直接言うしかあるまい。
セシルが扉をコンコンコンと叩きだす。
「騎士団長。命令に従い、カーム村の巧という少年を連れてきました」
「分かった。入ってくれ」
セシルの言葉に中から返事が返ってきた。どうやらこの声の持ち主が騎士団長らしい。
「早く入れ!」
セシルに怒られ、しぶしぶと扉を開ける。中は20畳以上はありそうな広い綺麗な部屋だった。部屋の真ん中あたりにソファとテーブルがあり、その奥には色んな本や紙などが散らばってる大きな机とその紙などを見ているガタイのいい男の人がこれまたでかい椅子に座っていた。
この人が騎士団長なのだろうか?けど見た目20代前半くらいに若い人だが。
「どうしたセシル、そんな大きな声を出して。巧君にしつれ......」
その団長さんらしき男の人が話しながら顔を上げると口を開けたまま固まった。あれ?どうしたんだろう。
「おいセシル、なぜ巧君はそんなに汚れているのだい?顔色も悪いようだが......」
そう言われて俺は自分の格好を確認する。確かにあんな部屋にいたせいか全身汚れてる。いつも着ているコートに関しては白がメインの服だったせいでかなり汚く見える。
「は、王都に着き次第、牢獄に入れていたので......」
「このばかああああああああああ!!!」
セシルが慌てて話すと、団長がピリピリと空気が震えるくらいの大音量で叫んだ。え?え?え?どういう事?