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*026 勉強と驚き

*026 勉強と驚き


 子供達の監視の依頼をやった次の日からは村の裏道の掃除なんかの雑事をやって小銭を稼いでた。やってて思ったのが、やはり文字が読めないというのはかなりきついという事だ。

 文字を覚えれれば、わざわざ人に聞く必要もないし、依頼書のような物も読めるからね。


 というわけでこの世界に来て2回目の休息日、俺は自室でアイリに文字を教えてくれるように頼んだ。


「記憶喪失ってそういう基本的な物もなくなっちゃうんですね、不思議です」

「まあ実際、そうなっちゃってるからね」


 この年で読み書きできないのは不自然極まりないので記憶喪失のせいにしといた。確か記憶って言語を覚える用、思い出を覚える用、運動用の記憶といくつかに分かれてて記憶喪失ってその一部が障害で思い出せなくなるとかそんな感じの症状じゃないっけ?


 まあ、この世界じゃそんな医学なんてほとんど発達してないだろうから怪しまれないだろうけど。


「とりあえず発音は分かってるので文字と発音を絡ませて覚えていきましょう!」

「はい先生! よろしくお願いします!」


 アイリが羽ペン?のような物を持って白紙によく分からない文字をスラスラと書いていく。


「とりあえずあいうえお順に書いていくのでこれでひとつずつ覚えていきましょう。あがこの初めの文字でいが......」


 ふむふむ、英語みたく母音と子音みたいなのではなく日本語のひらがなみたいにひとつひとつ違うのか。うーん、これはか、か、か、か、か......


 まさかこんな小学生みたいな事をこの年でやる事になるとは思ってなかった。




「はあ、とりあえず覚えれたー」

「ふふ、お疲れ様です。巧さん」


 とりあえずこの文字は?それはぬ、それはい、と答えれるくらいには覚えた。朝から始めたのに終わったのは昼すぎだった。

 発音が同じだったのとあいうえおみたいな感じだったからよかったけどこれが日本語でも兵語でもないような形式だったらさらに時間がかかったかもしれない。


 よくよく考えたら、そもそも日本語が通じる時点で運がよかったのだろうか。異世界転生とかって言語が違って意思疎通できないなんてのもあるし、そう考えるとありがたい。


「遅いお昼を食べたら次は本を読みましょう」


アイリが使った紙や羽ペンをしまいながらそんな事を提案した。うん、お昼は賛成なんだけど......


「本を読むのか?」

「本は文字の集合体です。覚えてるかどうか確認するにはちょうどいいですよ」

「うーん、また文字を眺めないといけないのか......」


 まあ多分、今うる覚えの状態だろうからそうした方がいいんだろうけど......さっきまでずっと文字を見てたからあんま気が進まないんだよなー。


「なるべく簡単な物語とかにしますから」

「まあそれなら......」


 そういえばこちらの世界にはどんな話の本があるのだろうか。元いた世界みたいに昔の偉人の英雄談とか昔話とかだろうか?すごい気になるなー。




 遅いお昼を食べ、村の本屋さんに向かった。図書館とかは都市に行かないとないらしいので本屋で買う事にした。

 休息日だから休みなんじゃ......と思っていたのだが、ルミエルさんに聞くと毎日開いてると聞いて驚いた。

 なんでもこの村の本屋はおばあちゃんが趣味でやってるから毎日お店の奥に座って本を読んでるらしい。


「へー、ここがその本屋か」


 表通りの裏のあまり人気のない場所にその本屋があった。本屋というより昔ながらの古本屋という感じだろうか。

 中に入ると本の詰まった本棚が列になって並んでいた。思ってたよりあるな、1万か2万とかだろうか。


「意外とたくさんありますね」


 俺の思っていた事をアイリも思っていたようだ。て事はここは平均より多く取り扱ってるのだろうか、ってそういえば趣味って言ってたっけ。すごいなー。


「とりあえず、あまり難しくない本を探してみます」


 アイリが本棚を眺めながらいくつか手にとって俺の方に渡す。俺はそれを受け取り落とさないように持つ。ついでにタイトルなんかも見る。

 えーとなになに『魔導師サラの残したもの』『天才イシュトの不思議な発明』『妖精の方舟』お、これ面白そうだな。これから先に読もうかな。


「あれ?」


 俺が受け取った本を眺めていると突然アイリが立ち止まった。見るとさきほどまでの本より少し新しい感じの本が並べられていた。


「どうかしたのか?」

「あ、はい。私の知らない物語の本がいっぱい並べられてたのでつい。私これでも200年も生きてるのでほとんどの本は読みつくしたと思ってたんですけど......」

「え? ちょっとまって、アイリってそんなに長生きしているの?」

「はい、魔人の人たちは1000年くらい寿命があるので私はまだまだですよ」


 えーまじか。見た目10歳くらいの女の子だから信じられない。いや、ここは異世界なのだし元いた世界の常識と比較するのは間違いなのかもしれない。魔法なんて物もあるし。


 俺が驚いてるとアイリがその本からいくつか手に取りペラペラとページをめくる。


「あの、巧さん。この本を読んでみたいので買って欲しいのですが......」


 なんでこういう上目遣いの女の子の目ってこう威力があるんだろう。そんな風にされては断るわけにはいかない。


「まあ数冊だしいいよ。文字を教えてくれたお礼って事で。あ、けどおもしろかったら俺にも貸して欲しいな」

「はい!」


 アイリの選んだ本8冊(俺に選んだ本5冊とアイリが読みたがった3冊)を購入した。金貨2枚と高いのには驚いたがこの世界に印刷機なんてものはないんだからそれなりに高いのだろう。お金は森の依頼でまあまあ持ってたので余裕で買えた。


 アイリは買った本を大事そうに抱きしめながらルンルンと歩いて行く。自分の知らない物語を読むのがそんなに楽しみなんだろうか?吹雪に帰るまで暇なのでアイリに話しかける。


「そんなにおもしろそうな本だったのか?」

「はい、これ以外にもいろいろあったのですけどこの『ガリヴァー旅行記』は色んな人種が登場してておもしろそうですし『ニルスのふしぎな旅』や『ピーターパン』は妖精が出てくる話みたいなのでとても楽しみです」


 ウキウキと話すアイリの言葉に俺は耳を疑った。その本のタイトルをよく知っているからだ。え?まじで?いやいやそんな......


「な、なあアイリ。その本、俺に少し見せてくれないか?」

「? 別にいいですけど少しだけですからね。私が先に読みたいですから」

「ああ、初めの文と絵が見たいんだ」


 アイリの持ってた三冊の本を受け取り、中の挿絵や初めの文を読む。それは日本で有名だからと読んだ事のある本の出だしの内容や見たことのある絵の構図がそこに書かれていた......

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