*024 妖精と好奇心
*024 妖精と好奇心
「うわぁぁぁ! すごい可愛い!」
現れた女の子を見てリーナがはしゃぐ。確かに可愛い。可愛いけど......
「妖精族って言うから羽とか生えてるものだと思ってたけど見た目は人間と変わらないんだな」
「え? 確かに魔人は体に特徴のある種族はあるけど妖精族は普通の人間と変わらないわよ?」
リーナがなに言ってんのこいつ、みたいな感じで言ってきた。なるほど、俺の元いた世界じゃゲームやアニメで小人だったり羽が生えてたけどこっちの世界じゃ違うのか。
やっぱり似てる要素はあるけどまったく同じってわけじゃないんだな。
まあ元いた世界の方は妖精は設定や想像の話だったが。
「あの、助けていただきありがとうございます。巧さん」
妖精族の女の子がぺこりと頭を下げてお礼を言ってきた。
「いやいや、別にいいよってあれ?なんで俺の名前を?」
「あの石の中で何もできませんでしたけど外を見たり聞いたりはできたので」
なるほど、それで俺の事を。て事は、大体の状況は知っているのか。
「どうしてこんな事になったか教えてくれる?」
リーナが背を屈め、目線を同じ高さにして聞く。確かになんで捕まったのだろう?今回の事は国同士の大問題だ。そこらへんをはっきりさせたほうがいいだろう。
「は、はい。それはいいんですけど......」
どんどん音量が小さくなっていく。あれ?どうしたのだ......
グゥーーーーー
ろうと思っていたら大きめのお腹の音が鳴った。あーそうか、ずっとあの『魔封じの石』の中にいたんだからお腹すいてるよな......俺は黙って立ってルミエルさんにご飯を頼みに行った。
パクパクパクパクパク
すごい勢いで食べるなー、どれだけあの中に閉じ込められたんだろうか。ルミエルさんが2分で作ったサンドイッチがどんどんなくなっていく。
「名前は?」
「アイリ」
「やっぱりイガリア出身?」
「そう、私はイガリアの妖精族のフィールってところの出身」
「なんでレイン王国に捕まっていたの?」
「イガリアの森を散策してたら魔獣に襲われてる人がいて。それを見て魔法で助けたんだけど、その人達が私を見て、あの石を取り出して......気がついたらせまい部屋みたいな場所にいました」
リーナの質問に簡潔に答えては食べるアイリ。あ、最後の一切れも食べきった。
アイリが口元を拭いて手を合わせて元気な声でごちそうさま!と凄い笑顔で言った。この笑顔を見ると前の世界の男の人が付き合ってるベタな理由の一つの「食べる姿が可愛くて」とか言う男子の気持ちがよく分かる。ってそんな事じゃなくて。俺は先ほどの会話で出てきたイガリアについてリーナに聞いた。
「イガリアってのはアイリみたいな魔人が住んでいる場所でね。そこは魔素がここより濃くて魔人が多く生まれる土地なの。けど魔素が濃いせいで魔獣もここでいう『中央部』並みかそれ以上の強さのがごろごろいるって聞くわね。そのせいで人はイガリアで住まないし、行くこともほとんどないわ」
「なるほど、て事はレイン王国は妖精族をなんとしても手に入れようとしたんだな」
そんな所に『魔封じの石』なんて道具を持って行くのだ。間違いないだろうな。
「ま、こうして無事に助けれたしその努力は無駄になったんだけどな」
「そうね、あの魔兵も妖精族がいなければもう使えないようだし安心かしらね。妖精族にレイン王国に注意しておくように伝えれば問題ないだろうし」
あの魔兵は妖精族の莫大な魔素保有量とドレインによる供給でようやく動くのだ。妖精族の人が捕まらないように警戒してもらえれば大丈夫だろう。
リーナに頼んで村長が村に戻ったら王都にそう進言してもらう事にした。
相談し終え、アイリの方に視線を動かすとアイリはじーーーと外の景色を見つめていた。
「どうかしたのか?」
「あ、いえ。その、人の住んでる村ってどんな風になっているんだろうって気になっちゃって」
まあ確かに初めてきた町とかってすごい気になるよね。俺もこの村来たときすごいキョロキョロしながら見たし、なんとなく分かる。
「よかったら村を探索する?」
「いいですか! ありがとうございます!」
リーナが提案するや勢いよくアイリが立ちあがり、吹雪の外に出る。すごい早さだな、って
「一人でいくなあああ!」
俺も立ちあがってすぐにアイリの後を追う。
アイリは武器屋、防具屋、道具屋と表通りにある店を見つけては中に入って色んな物を観察していた。確かに俺も武器とか見たことなかったから最初はすごい見てたけどあんなに興奮してたっけ?
隣にいるリーナの方を見るとリーナもこの光景を見て驚いていた。
「妖精族は好奇心旺盛な種族って聞いたけどあれほどだったとはね」
「そうなのか?」
リーナいわく、妖精族は昔、自分達の魔素保有量を活かすため魔法の研究を熱心にやっていた。研究の成果としては現在ある初級、中級の魔法はその研究のおかげで発見、または作られた物らしい。しかし時が経つにつれ、妖精族は何かを知る喜びに気が付き、そのうち魔法以外の事も研究などをしていったらしい。
それで今では色んな物に興味を持ち、知りたがるようになったらしい。
「って村長が教えてくれたわ」
「へー。何かを知る喜びかあー、俺にはよく分からんが」
成績優秀な人とかで「勉強が楽しい」とか言う人の気持ちってそんな感じなのかな。うーん、やっぱり何が楽しいか分かんないや。
アイリが色んな所に行っては見て回ったりしたので村を一周する頃には日が傾き、暗くなっていた。
まさか田んぼも店と同じかそれ以上の時間を使って解説する事になるとは......
「すごい! イガリアの外は面白いものがいっぱいあるんですね!」
アイリはただ村を一周しただけだと言うのに凄い喜んでいる。もし俺のいた世界なんかに連れて行けば喜び過ぎて死んじゃうんじゃないかな。
そう思ってるとアイリがタタタと少し走って俺の前に来る。
「巧さん! しばらくここに住まわせてください」
「「ええ!?」」
アイリのお願いを聞き、俺とリーナの声が被った。ちょ、そこまで楽しかったの?イガリアってそんなにつまらない所なのだろうか。
「流石にそれは......ほら、アイリの両親が心配してるよ!早くイガリアに帰らないとダメじゃない?」
「私の両親、基本研究室から帰ってこないし、もう外に出てもいい年だから大丈夫です!」
「その見た目で!? じゃあ......住む場所! ここに住む場所がないじゃないか。俺もリーナも一人用の部屋だから無理だぞ」
「それなら大丈夫です、えい」
アイリそう言いながら両腕を広げると体が眩しく輝きだした。俺はたまらず目を腕で隠す。光が無くなったのを確認し、おそるおそる腕を下ろすと先ほどまで目の前にいたアイリの姿が消えた。
「あれ? アイリはどこいった」
俺とリーナがキョロキョロと周りを確認するがどこにも姿が見えない。あれ?と思っていると腰の白金の黄色の魔石がピカピカと光りだした。
「ここです、ここです。驚きました?」
「ここってまさか魔石の中にか?」
「はい、私たちは魔力でできてるので魔石の中に入って過ごすことができるんですよ」
「まじかよ......」
「私も初めて知ったわ......」
確かに考えてみると魔石は魔素や魔力を蓄えたりする効果もあるからそんな事もできる、のか?
「ダメ、ですか? それとも私はここにいては邪魔でしょうか......」
だんだんと音量が小さくなりながらアイリが話しかけてくる。ぐ、なんだろうこの気持ち。そんな感じで言われては強く言えない。こういう時、女子の強みを凄い感じる......
「なあリーナ、アイリをここにいさせてもいい?」
俺は確認の意味を込めてリーナに尋ねる。リーナはパアと明るくなり、
「ええいいわよ。もし村長とかになんか言われたら私からもお願いするわ」
と力強く答えた。よし。
「えっと、これからよろしくなアイリ」
「はい!」
こうして妖精族アイリが一緒にここに住む事になった。