*020 心境と悲鳴
*020 心境と悲鳴
村長の屋敷で集まった人はペアを組んだ後、それぞれ森の東、西、南のエリアに分かれて調査をするらしい。西で問題があるんだから西だけでいいじゃん、と思ったが一応他の所でも異変がないか調査をする必要があるらしい。
そしてなぜ北は調査しないのかというとそのあたりになると隣国のレイン王国の領土となっている場所があるらしく領土侵犯になるのでそこは行かないのだそうだ。
俺とマリンが組む組まないの話をしているうちにみんな調査に行ってしまったので遅れて出発する。俺とマリンも西の森しか行ったことがないので西の森を調査することにする。
「なあ聞いていいか?」
この世界には音楽を聴きながら歩くなんてできず、暇なのでマリンに気になった事を聞くことにした。
「何をだ?」
「お前の態度が変わった事だよ。リーナもお前が素直に謝ってきてびっくりしてたぞ」
「あーその事......リーナどんな感じだった?」
「すごい嬉しそうに話していたぞ?前から仲良くしたかったみたいだし」
初めてマリンに会って魔法を使っていた時だったか、リーナが残念そうな顔をしていた。それにリーナはマリーってマリンの事を呼んでいた。リーナとしては同じ年代の女の子友達が欲しくてそう呼んでいたように思える。愛称ってなんか友達って感じがするよね。
マリンもセリーナの事、リーナって呼ぶようになってるしこの調子なら問題ないだろう。
「そうか......」
マリンが安心したように呟く。しばらくの間、俺とマリンの間に静寂が訪れる。マリンはチラっと俺の方を見て、
「まあ巧ならもういいか」
と言った。なんの事だ?
「私ね、リーナの事嫉妬していた。私より魔法の才能があってみんなに信頼されて、お父さんから古代魔装も渡されて......それが悔しくて追いつこうと色んな物を見ないで、魔法だけで追いつこうとしてた......そのせいで躓いたけど」
だいたいは村長に聞いた内容だったが実際に本人が話すのを聞いてこの娘なりに苦労していたんだな、と思えた。
もしマリンに魔法の才能がなければあきらめれただろう。けどマリンには少なからず他人より優れた才能があった。負けず嫌いなマリンならきっと追いつくために努力を欠かさなかっただろう。俺が休息日に見かけた魔法の無詠唱の練習を見れば分かる。ただそれを急ぎすぎて躓いただけで。
「マリンはこれからも強くなれるよ。それだけ努力するんだ、しないはずがない。それだけは言えるよ」
「はは、ありがとう!」
マリンが乾いた笑いをしながら言った。うーん、もっといい感じの褒め言葉ないのか、俺。こういう時、もっといい感じに褒めれればなー。ナンパ男がどうやって口説いてるのか聞いてみたい......
そんな話をしながら歩いていると西の森の入口に着いた。やはり前に通ってきた時と同じようにざわめきがまったくない。2日経ってこれなのだ、それを考えると確かに異常なのかもしれない。
「じゃあこれから入るけど絶対に一人で行こうとするなよ?多分大丈夫だと思うけど、もし魔獣が出たらできれば逃げる。もし無理なら応戦。『中央部』の魔獣がいたら何か大きな音を出す魔法を使ってほしい」
俺はマリンに指示を出す。今回は調査なのだ、無駄な戦闘は避けたい。もし『中央部』の魔獣がいればマリンはともかく俺は戦力にならない可能性があるので周囲に気がついてもらってきてもらうようにする。俺の指示を聞くとわかったと短く返事をした。
「よし、いくぞ」
俺はそう言ってマリンと一緒に森に入って行った。
森は最初は一本道だが中に入っていくに連れてさまざまなところに枝別れしている。初めて来たときの廃鉱に続く道、『中央部』に続く道、占いに使う木が多くある場所に続く道、北の森に続く道と何種類かある。
俺とマリンはその道を行っては元に戻って、また進みの繰り返しで森のさまざまな場所に行く。しかしどこも静かなもので『中央部』の魔獣どころかこの辺の魔獣も見当たらない。
「本当にいないなー、魔獣」
「確かにざわめきが全然ないわね、静かな森そのものだわ」
どこにいっても初めに廃鉱に来た時みたいなざわめきが聞こえない。ここまで静かだと不気味に思えてくるレベルだ。
「ねえ巧、あなたがリーナと一緒に来た時はこんな感じじゃなかったのよね?」
「え?急にどうした」
「これ本当に魔獣の仕業なのかしら?」
マリンを見ると腑に落ちないような顔になってた。どういう事だろう?俺はとりあえず素直に答える事にする。
「ああ、俺がここの廃鉱に来た時は森はざわついた感じだったぞ」
「それがよく分からないのよ」
「何がだ?」
「だって考えてみてよ、それは私と一緒に森に来る3日前なのよ。そんな短期間でどこに何があるか分からない魔獣がここにいる魔獣全部狩りつくせると思う?」
マリンの言った事にたしかにと俺も謎に思った。仮に俺がここの魔獣を簡単に捻りつぶせるほどの力を持っていたとして初見で俺はすべて狩りつくせれるのだろうか?
魔獣の中には自分のテリトリーから出てこない奴もいる。この西の森を隅々までとなればかなりの広さだ。それを一人でなんてとてもじゃないが無理がある。それにずっと狩るわけにはいかない。ずっとなんて疲れるし、睡眠をとらねばならないからだ。それは魔獣も同じはずだ。
それを考えると不可能に思えてくる。
「どういう事だ?」
「可能性としては『中央部』の魔獣が複数ここに来てるとかだけど、それならこれだけ探しても見つからないのがおかしいし......そもそも『中央部』からここに来て、自分より弱い魔獣を狩りつくすか?」
「確かになぜ?と考えると納得がいかないな......というか今までにこんな事って過去にあったのか?」
「私の知る限りじゃないな、お父さんもそんな事言ってなかったし......」
んーやばい。考えればどんどん分からなくなっていく。魔獣にもそれなりに知能があるはずだ。こんな事を暇潰しや考えなしでやるはずがない。と言う事はこの現象はマリンが言ったとおり魔獣のせいじゃない、とか?
ドォォォォォン!
俺とマリンで考えている時、まるで近くで爆発が起きたような音が聞こえた。
「今の......《エクスプロージョン》!?」
「なんだ、その魔法は!」
驚いているマリンに俺はとまどいながらも聞く。
「《エクスプロージョン》は火属性の中級魔法だ!けど森では緊急時以外は火属性の魔法を禁止している。だからそれが使われたって事は.....」
確かにここは森だ。そんなところで火を使えば火事に......ってそれが使用されたって事は緊急になっているという事じゃないか!?
「さっきの爆発したところに行くぞ!」
「分かった!」
俺とマリンは爆発した方向に走っていく。中級魔法、しかも禁止されている魔法を使う事態だ、嫌な予感しかない。
「うわあああああーーーーー」
俺とマリンが爆発の起きた場所を目の前にした時、そんな悲鳴が聞こえた。
俺とマリンは急いで木々を抜け、開けた場所に出る。すると目の前にはひどい惨状が見えた。
先ほどの爆発で周囲の木は燃え、地面にはクレータが出来ていた。周りには村の田んぼで働いていた見覚えのある男の人達がぐったりとして倒れている。何人倒れ......7人もいるのか。
それを確認した時、1人だけ立っている人間がいた。そいつは黒いローブを着込んでおり顔が見えない。いかにも怪しい男って感じだ。
「おや、まだいましたか。ったく面倒だなー」
「お前がここにいるみんなをやったのか!」
面倒そうに呟く男に俺は叫ぶ。後ろではマリンが倒れている人に話しかけていたが、息はあるようだった。
「実験の邪魔をされたんですよ、だから撃退したまでの事」
「実験だと?」
「はい、あなた達も私の邪魔をするというのであれば付き合ってもらいますよ」
その男がローブの中から俺の世界にあるクレジットカードのようなものを取り出した。
《ストレージアウト》
男が無属性魔法のようにその言葉を言い放った。その時、カードが光りだした。
「うわ」
俺は急に眩しくなったカードに目が当てれず腕で顔を覆い光を遮る。するとどしーんとなにかとても重い物が落ちたような音が聞こえた。
俺は覆っていた腕を下ろし、驚愕して固まってしまった。そこには5mほどだろうか。人型の、岩でできた巨大な物が地面に立っていた。