*017 心配と問い詰め
*017 心配と問い詰め
俺が腕を怪我したマリンをお姫様抱っこして村のちかくまで帰ってきたのは、日が暮れ当たりが真っ暗になってしばらくたった頃だ。あまり怪我に響かないようにしたのと、寝ているマリンを起こさないようにゆっくりと歩いてきたせいで凄い遅くなってしまったのだ。
それに俺自身も魔法の連続使用の疲れで何回も休憩したのもあるが。
俺はマリンを地面にそっと置き、休憩をする。もう少しで村だというのに足取りが重い、人生できつい場面堂々の1位だ、この疲れは。
「あら、こんな所にいたの。てっきり死んだかと思ったわ」
俺は声が聞こえ立ち上がり、周囲を確認する。けど人はいない。
「上よ、上を見なさい」
言われたとおりに上を見るとキラキラと綺麗にひかる幽霊のような存在がそこにあった。ダスティンの古代魔装『ゼフィール』の意思だ。
この魔装は特別で意思があり、こうして自由に移動できるらしい。
「なんでこんなところにいるんだ?」
「吞気ねえ、まあ見てもらった方が早いかしら」
そう言うとゼフィールが少し強くキラキラしだした。すると俺の頭の中に映像のようなものが流れ込んでくる。そこにはリーナやダスティン、ラモスさんなど見知った顔から知らない人までみんながランタンのように光るものを持って村の周辺を歩き回っていた。
まさかこれって......
「もしかしなくても俺たちの事探してるよな?」
「それ以外、こんな暗い時に何をするっていうのかしら」
やっぱりかー。みんなに迷惑をかけてしまったな。ゼフィールにどういった状況になっているのか聞く。まずリーナが夜になっても俺が帰ってこない事に気が付き、心配しているところに酒場に武器屋のラモスさんが来たのだ。
俺は森に行く前に買った服を預けて出たのに取りにこないから持ってきてくれたのだ。それで俺が帰ってきていないという事、マリンと一緒に森に行ったという事が分かりみんなが慌てて探しに出たらしい。
マリンの事を考えると一大事になったと本気で思ったのだろう。
ちなみに更に遅くなった場合、ダスティンやリーナなど村の主力を総動員して夜の森の探索に行くところだったらしい。ほんと、申し訳ないです......
「ならゼフィール、ダスティンらにここにいるって伝えてくれないか?」
「まあその体じゃ仕方ないわね」
ゼフィールが村のある方向に向かって飛んでいく。それを確認すると俺は急に強い眠気を感じた。おそらく、ゼフィールに会ったせいで緊張がほぐれたのだろう。
俺は地面に倒れ、眠気に抗えず目を閉じた。
俺が目覚めたのはそれから2日後の朝だった。急激な魔素の低下による疲労と1日の疲れが重なってずっと寝込んでいたそうだ。マリンは腕の骨折だけだったのでリーナの回復魔法で治ったらしい。
その後はみんな(主にリーナらしいが)に説教をずっとされていたらしい。まあルールを破ったのとみんなを心配させたのだ。当然だろう。
まあ俺も目が覚めた後、リーナに説教されたんだが。魔法が使えるようになったからって無茶しない!とかマリンが行ったからって自分も『中央部』に行くなんて!とごもっともという事ばかり言われてしまっては反論もできないのでリーナが気が済むまで説教された。
うう、リーナを怒らせると怖いという事がわかった。
俺はリーナの説教から解放されると村長の屋敷に行った。理由はどうあれルールを破ったのだ。生きて帰ってきたとはいえ、ちゃんと謝りに行かねば。屋敷につくと村長がすぐに出てきた。
「よく来たの。話はわかっておる。中で話そう」
そう言って村長が屋敷の中の応接間のような部屋に案内された。俺と村長がソファで向かい合って座ったのを確認すると俺は頭を下げた。
「すみません、『中央部』に入ってしまって。俺がマリンをちゃんと止められれば......」
「なに、あのバカ娘の方に問題ある。君を責める気はない」
村長がそういってくれてホッとした。もしかしたらルールを守れんようなものはいらん、出て行ってもらう。なんて言われたらどうしようかとヒヤヒヤしていたからだ。
「今回の事であのバカ娘も自分の足りない物を見てくれただろうが、もしまたバカをしそうになったら止めてくれ」
いや、それは無理だと思いますけどね。もし今回のように油断していなかったとしても魔法を連続で使われたりなどすれば俺はすぐに負けるだろう。ほんと、魔法ずるい。
俺は気になっていたマリンの事を聞いてみた。マリンには普通の人より魔法の才能があったが、リーナの方が上だったらしい。そのせいでマリンは対抗心を燃やし、魔法を究めようとして他の事は見る気もしなかったらしい。
それを見た村長が危険と判断して一人で森に入るのを禁止したらしい。マリンを連れていくのは危ないとリーナやラウルらは理解していたのでマリンを連れていくことはなかったらしい。そんな時にその事を何も知らない部外者の俺が来たという事だ。
ったく村長、ルミエルさんを怒らせた時は仕事を手伝えば機嫌が良くなるとかラモスさんの作った武器を褒めれば安くしてくれるとかじゃなくてマリンの事を教えろよ、そうしたら俺も断って......
俺はそこで謎に思った事があった。俺はまさかなと思いつつ村長に話しかけた。
「あの、村長。マリンは前から森に行きたがっていたのですか?」
「ああ、おそらくワシやリーナに実力を示したがったのだろうな」
「マリンと初めて俺と話した時、褒めてたらしいですけど具体的に何いいました?」
「そうじゃのう、動体視力や勘、反応速度がいいとか、もし適性があればかなり優秀な魔法使いになれたとか、あれならすぐ『外周部』だけでなく『中央部』もソロでいけるようにだろうとか言ったかのう」
そんなに褒めてたのか、言わせておいてなんだか照れ......じゃない!この会話で俺はまさかが確信に変わった。
「まさかこうなる事が分かっててマリンにそんな事を言ったんじゃ......?」
そう言うと村長がニヤッと笑う。
「ああ、すべてこうなるだろうと予測して計算していた」
「あんた何考えてるんだよ!?」
まじかよ、この人正気じゃねえ......自分の娘が下手したら死ぬかもしれなかったのになに考えてんだ。
「あのバカ娘は自分の未熟さ、経験の少なさを知らない。それではこの先、成長は見られない。だがリーナ達は心配して連れて行かないだろう。でも部外者だった君ならマリンは約束や勢いなんかで森に同行すると思っていた。『中央部』までいくとは流石に思っていなかったが君ならちゃんと連れ戻すと思っていたよ」
「俺が連れ戻さなかったり、失敗するとは思っていなかったんですか?」
「君がそんなことしない人間だというのは見ればわかる。それにもしもの時のためにちゃんと魔法や経験を積ませたじゃろう、君の方から来なければワシから鍛えに行くつもりじゃったぞ?」
このじいさん、本気でいってるのか......
俺が唖然とした顔を見て、村長が大声で笑い出す。すべてうまくいったと、自分の予想通りになった事を嬉しそうに。
俺はこの人はタチの悪い腹黒人間と確信した。