*015 暴走と焦り
今回は途中で視点が変わります。---で区切ってるのでそこから視点かわるのでそれを注意して読んでください。
*015 暴走と焦り
ラモスさんに投擲用のナイフを5本、サバイバルナイフを購入すると銀貨が3枚と心ともない金額になってしまったので依頼を受ける。2つあって1つ目がこの前戦ったアリ型の魔獣の駆除という内容だった。森の西側の変異種がリーナによって倒された事でアリ型の統率が崩れ暴れまくっているらしい。そいつらの数を減らし、黙らせるのが目的だ。
2つ目がイノシシ型の魔獣から取れるツノの回収だった。魔獣は魔素が暴走してできた獣だがその体は魔素によって強化されている。当然体の部位も強化される。そのツノは軽い割に固くいい素材になるらしい。しかも防具屋でも魔獣の毛皮を年中欲しがっているので、そちらも持ってくればかなりの高値で交換してくれるらしい。
ということでその2つの依頼を受けて、さっそく買ったコートを着てポーチにナイフなどをしまい森の方に来たのだが、
《敵を斬り裂け エアカッター》
ギシャアーーーーー
バタ。
《サイクロン》
ブフォーーーーー
《風に転換 吹っ飛べ エアブラスト》
ブフォーー
ドーーーン。
マリンがカマイタチのような鋭利な刃を出しアリを真っ二つにしたり、《サイクロン》という風魔法で複数現れたイノシシ型を竜巻のようなもので一か所にまとめて中級魔法でふっ飛ばし、木に勢いよく激突して動かなくなっていた。
そう、マリンは魔獣に遭遇するやいなや、この風属性の魔法のオンパレードでどんどん倒していくのだ。
中には依頼にはない種類の魔獣まで倒している。村長に「基本、魔獣との戦闘は避けていくものじゃ。依頼が駆除とかなら仕方ないがその場合、関係ない魔獣まで相手にはしないこと」と言われたが、この娘普通に破るなあ。
先ほどからマリンに休んでいこうとか魔法使いすぎじゃないかとなにかと声をかけるが大丈夫よ!の繰り返しだ。そのため、俺は次々に倒される魔獣の回収などしかしていない。
11時ほどにここに来たが3時間もすると周囲が静かになった。おそらく魔獣を狩り過ぎて、周囲の魔獣がいなくなったのだろう。大量に倒すもんだからすでにバックいっぱいの素材が集まっていた。
確か5本くらいツノとってくればいいのに絶対それ以上あるよ、これ。
「ふー、ったくもういないのかよ。つまんねーなー」
「もうって......いったいどんだけやったと思ってるんだよ」
数えていただけでも100は確実にやっていたぞ、この娘。けど本人はさして疲れ切った様子はない。これが魔素の保有量の差か。初級魔法ばかりだったからそんなに減ってないのかもしれないが。
......決してうらやましいとかそんなことは思っていない。思っていない、はずだ。
「よし、じゃあもう少し奥までいくぞー」
「え? それ以上先いけば『中央部』だからダメだろ」
この森は奥に行けば行くほど魔獣の強さが上がっていく。魔素が濃く、さらに成長して凶悪になっていくからだ。そのため村長がこの森に制限を設けた。
この森はだいたい直径15kmほどの広さらしい。比較的に弱く、群れでこないかぎり素人でもなんとかなるというここ、『外周部』は森に入ってから5kmほどまでの場所の事を言うらしい。
そこから先から2kmまでの場所が『中央部』、真中の直径1kmの場所が『最深部』となっている。
そこで森に入る人は村長がここまでと認めている場所までしかいってはいけない事になっている。ちなみにリーナはソロ、ラウルら3人は全員でなら『中央部』に入れるらしい。俺はもちろん入れないし、入る気もない。
俺はこの『外周部』までしか許されてはいない。その俺でもダメなのにそもそも1人で森に入ってはいけないマリンが『中央部』に行くなど絶対にダメだろう。
「なんだよ、私より弱いくせに。偉そうにいうんじゃねえよ!」
「ここはその弱い奴が入れるのに、お前はここすら入れないんだよ。それなのにさらに危険な所に行こうとしてるんだぞ!弱くても止めるだろ」
多少言葉が悪くなってしまったが俺の正直な気持ちだ。目的も済んだしはやくこの娘を連れて村に帰らねば。俺の言葉にさらに赤くなったマリンが何か言おうとしていたがはっと顔色を変える。
「まずい、巧。魔獣だ!」
マリンが俺の後ろを指差し叫んだ。俺はすぐ腰から白金を抜きいつでも斬りかかれるように構えた。まさかまだいるとは。だが俺が後ろを見ても魔獣など気配すら感じれなかった。どこだ。
「おいマリン、いな......」
≪エアブレット≫
いぞ。と言いかけた時、突然マリンが詠唱をした。それは風を集め弾丸のように打ち出す魔法だった。俺は完璧に反応に遅れたのと背中を向けていたという事でかわせず吹っ飛ぶ。
バタっと地面に倒れる。いてえ......油断した。
やった本人はというとすぐに陸上選手のように走る構えをし、
≪エアブースト≫
と詠唱したかと思うとすごい速度で中央部に向かって走り出した。
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ったくどいつもこいつも私の実力を低く見やがって。
普通、魔法は魔力の扱いの慣れなどの関係で大人になってから中級魔法が使えるようになるのがほとんどだ。
だけどそんな人達と違って私は魔法の才能があったらしく、14歳の時に中級魔法が使えるようになった。これはかなり早い習得速度だ。早くても18、普通なら20を過ぎたあたりで使えるようになるからだ。
けど他にも私のように才能を持っている子供がいた。そう、セリーナだ。セリーナは今から5年ほど前にこの村に来てルミエルさんのところに引き取られた子だったのだが、私とあまり変わらない時期に、中級魔法を扱えるようになった。いや、セリーナの方が少し私より早かったはずだ。
それからセリーナは15になり、何でも屋として活動するようになった時、お父さんから魔装、それも古代魔装という希少なものまで与えた。私にはくれないのに。
だから私は焦った。このままだとどんどん差を広げられてしまう。そんなの耐えられない。なんとか差を埋めようと森で魔獣を討伐して実力を示したかったがお父さんが許可してくれなかったのだ。
そんな時に巧とか言う男が現れた。しかもそいつは戦闘技能がまあまああったらしくすぐお父さんが『外周部』までのソロの許可を出した。これを利用する手はなかった。
私はその男に接触して森に入り、『中央部』に行くための口実に利用した。
魔法の効果が切れ、風の加護が消える。あたりを見渡すが雰囲気が先ほどまでと違う。まちがいなく『外周部』だ。
「やっとここまで来た......」
私は嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。あとは簡単だ。ここで魔獣を倒しまくれば私の実力が証明できる。後で外周部で取り逃した魔獣を追っていたら外周部に迷い込んでいたとか言い訳をすれば問題ないだろう。ここで実力を証明さえできれば。
私はふと後ろを振り向く。確かに彼を利用したのは私なのだがさすがにやりすぎただろうか。
「いや、あれはあいつが悪い。私の実力を見た後であんな風に言うんだもの」
そう言っていると近くから殺気を感じられる。見ると大きめの魔獣がこちらを見ていた。あれは確か......クマ型。腕のパワーが驚異的で木程度なら一発で折れるほどの強さだ。
「まずはあなたから仕留めてあげるわ!」
私は腕を上げ魔獣に向け詠唱する。
≪風に転換 吹っ飛べ エアブラスト≫
中級魔法の中でも威力の高い魔法を唱える。風が集まり当たればただじゃすまない凶悪な球ができる。魔獣に向けて撃つときれいにあたった。だが中央部の魔獣はまだ動けるようだった。
どうやら今のでも倒しきれないらしい。そうでなくっちゃ。
私が追撃で魔法を詠唱しようとすると、ブンと音が聞こえた。え?
私の視界は急に動き、ドンと木にぶつかる。
「うっ......」
幸い、森に入る前に防御用の風の魔法をかけておいたおかげで即死は免れたがそれでも腕が動かない。骨を折ったかもしれない。さきほどまでいた方をゆっくりと見る。
「嘘......」
そこには先ほどまでと戦っていたクマ型と同じ奴が一匹いた。私は生れて初めて恐怖心というものを体で体感した。