*013 経験と同業
*013 経験と同業
「これでラストオォォォ!」
俺は白金を頭上に振り上げた状態から最後の魔獣に斬りかかる。剣は魔獣の頭を真っ二つにし地面に倒れた。
無属性魔法《チャーム》は数分程度の効果なのか途中から魔獣が来なくなったが、それでも20近くの魔獣がいっぺんに来るもんだから冗談抜きで死ぬかもしれないと思った。
実際、危ない攻撃などもあったがそれは村長が魔法で防いでくれたりとしてくれたから助かったが。
それでも着ていたパーカーなどは切れたり、顔や腕に擦り傷ができ、血が少し流れてしまった。これ早急に服を買う必要があるな。明日にでも買いに行くか。
「どうかの?実際に大多数の敵と戦ってみて」
スタっと木の上から跳び下りてきた村長が聞いてきた。確かにひどい目にあったが得たものが確実にあった。
「はい、うまく言えないんですけど戦闘での動き?みたいなものがわかったような気がします」
まず周囲に気を配ること、これは最初の方で強く実感した。敵が多数いる状況で目の前の敵に闇雲に剣を振ってもその隙に攻撃されてしまうのだ。村長のフォローがなければ数匹は倒せても、おそらく他の魔獣たちにやられていたかもしれない。
次に攻撃手段の大切さだ。戦っている中でアリのように突進して木などにつっこんで怯んでいた奴がいた。アリ型の時のように剣を投げて遠くから仕留められればよかったのだが武器は白金一本しかないので、流石に多数の魔獣との戦闘中に丸腰になれずやれなかった。投擲用のナイフの1本や2本持つべきだろう。
そんな俺の顔を見てうんうんとうなずいていた。
「戦闘は何事も経験じゃ。いくら剣の振り方を覚えても実際にやるとタイミングが掴めなければ意味がない。だからまずは戦闘に必要な最低限の経験を積むべきじゃと思っての」
「それで魔獣との実戦という事ですか?」
「そうじゃ、それで必要最低限の経験は掴めたじゃろう、それに今の君の実力も把握できたしのう」
そこまで考えてやっていたのか。凄い人だな、この人。
俺は改めてこの村長の凄さを実感した。
《テレポート》でさっきの空き地に戻ってきた後、さすがに疲れて体を動かしたくなかった。それを見込んでいたのか村長は体を動かす特訓はせず、知識を培う方の特訓をしてもらった。
まるで授業のような感じだったがどれも聞いてて損はない。
魔法を教える時に村長のした拳に魔素を集中して魔力を作ったのは実戦でも使えること。
魔法の加護は重ねがけできるが効果が薄れて意味がない。
人の他にも魔人と呼ばれる種族がいてその種族は基本、身体能力や魔法適性が高い。
魔素は身体能力に影響を与え、保有量が多ければ多いほど高くなりやすい......etc
一部よくわからない事もあったし、後半になっていくにつれ、ルミエルさんとこの宿代の値引く方法とか道具屋はまとめ買いするとこっそりおまけしてくれる、とか村の生活のコツなども教えてもらた......いる、のか?この知識
といろいろ聞いているとあたりが暗くなってきた。空を見上げると空が夕暮れ色に染まっていた。聞き込んでいたら結構時間たったな。
「今日はここまでにしとくかの」
「そうですね、今日はありがとうございました!」
「ほっほ、気にせんでよい。いい暇つぶしになったしのう。また来るといい」
といって村長が屋敷の方に歩いて行く。今日はいろんな収穫があったな、魔法に戦闘、この世界の雑学。これから役に立ちそうだ。
俺もルミエルさんの酒場兼宿屋(名前をまだ知らない)に帰ることにした。途中店の並ぶ道を通ったがどこの家や店からも賑やかな笑い声が聞こえてくる。それを聞いて歩くとなんだかほっこりとした気分になるから不思議だ。
そんな事を考えているといつの間にか酒屋についていた。中からはいつものように笑い声が聞こえ賑やかだった。俺が入ろうと戸に手をかけた時、リーナと会話していた内容を思い出した。
「あ、そういえばリーナが紹介したい人がいるって言ってたな。誰だろう?」
俺が気になりながら入る。入らない事にはわからないしね。
中に入るといろんな人が酒を飲んで騒いでいたりしていた。この光景には最初は驚いたが2回目となるとあまり驚かないな。
「あ、巧ー。こっちーーー」
だいたい真中あたりのテーブルからリーナが手を振って呼んでいた。
俺がそのテーブルのとこまで歩くとリーナの他にも座っている人が3人いた。この人達が紹介したい人なのかな。
「俺がラウルってんだ。武器は斧を使っている。主に村の周辺の魔獣狩りの依頼をこなしている。よろしくな」
最初に大男が立ち上がって自己紹介をする。身長は180はあるのだろうか。とても高い。しかも腕が服の上からでもわかるくらいムキムキで太い木の枝ほどありそうだ。あんなので何か振り回されたらたまったもんじゃないな。
「僕はシャン。普段はダスティンさんのところで働いてるけどたまに採取系の依頼をする。よろしく」
座ってきれいに45度頭を下げて自己紹介をした男はメガネをかけて頭がよさそうだった。採取系の依頼をするって事はそういうのに詳しいのかな?
「ぼ、僕の名前はカールってい、いいます。よ、よろしく」
最後に自己紹介してきたのは俺より年下っぽい男だった。かなり噛みまくってるけど人見知りなのだろうか?大丈夫かなー。
3人が自己紹介を終えたところで俺も自己紹介をする事にした。まあやり返さないと失礼だしね。
「俺は巧っていいます。ええと、まだ始めたばかりだけどこの村の役に立てるようにできる範囲でがんばっていくつもりです。よろしく」
うーん、自己紹介なんてやった事ほとんど無いからなんて言えばいいかわからない。これが友達ができないゆえだよなー。
「この3人と私が一応、依頼を受ける何でも屋って事になってるわ。それで巧を含めた5人がこの村の何でも屋って事になるわね」
少な!そんなに人がいないのかよ、この村は人が多いって言うしそりゃあ貯まるわー。
しかも自己紹介を聞く限りラウルとシャンに関してはそれぞれ戦闘、採取って分かれているし。カールに関してはその二つすらできるか今の会話だとあやしく感じてしまう。
と思ったがさすがに失礼なので言わないでおく。別に言う事でもないし、怒られるのは明白だし。
「5人だけか、一人増えただけで終わるのかな。全部の依頼......」
「まあやる人数が増えたんだから効率はあがるし......できると思いたいわね」
俺のつぶやきにリーナが苦笑いをしながら答えた。
するとラウルがバンと机を叩いて
「そんな事で悩むなよ、それより今は飲もうぜ! 巧という仲間が出来たことを祝ってな!」
と言った。まあそれはそうか、見ると机の上の料理はまだ手をつけていない。たぶん、俺を待っていてくれたのだろう。これ以上待たせるのも申し訳ない。俺はコップを持って腕を上げた。
「だな! じゃあ飲もうぜ!」
「「「「いえーい!」」」」
こうやって他の何でも屋、ラウル、シャン、カールと初めて会い仲良くなった。