*010 報酬と相棒
*010 報酬と相棒
魔獣との戦闘を終えた俺とリーナは武器屋のラモスさんの所に向かった。
リーナだけの時はこのバックの半分ほどだったらしく、今回パンパンに詰め込んだバックを渡すととても驚いていた。おかげで報酬に色をつけてもらったらしい。この世界ではセル硬貨というコインで取引を行う。まだ使ったことがないので日本円で換算した時の価値は分からないが、金の硬貨4枚と銀の硬貨1をもらった。
俺はリーナに2枚金貨を渡し、残りの銀の硬貨は夕飯代にすることにした。
「はい、ラモスさん。 お返しします」
俺はラモスさんに剣を返した。リーナがこの店で借りてきたものだ。きちんと返さないとね。ちなみに魔獣の体液は村に帰ってから綺麗に拭き取りました。
それを見たラモスさんはう~んと悩んでいた。どうしたんだろうか?
やがて考えがまとまったのか、ラモスさんが俺を見て
「なあ巧、取引をしないか?」
と言ってきた。取引?
「なーに、簡単な話だ。この店にある剣を1本タダでお前にくれてやろう。ただ、しばらくはうちの依頼を優先して引き受けてくれないか? 見たところお前は武器を持ってないだろ、悪い話じゃないと思うんだが?」
なるほど、先行投資って奴か。この村でリーナや俺のような何でも屋は少ないと聞くしこうやって自分のところに来るようにするための提案は必要なのかもしれない。
幸い、まだ誰にも依頼を受けてないので、俺はこの取引を受けることにした。
「ありがとよ、じゃ、好きなの選びな」
ドランさんが剣や盾、斧や槍などみんなが知っているような武器はもとより、刀身が曲がっている剣や盾に刃が付いてたりとよく分からない武器など指しながら言った。ここまで多いと何が良くて何が悪いのかよく分からない。
「なあ、リーナ。この中で良さそうな武器ってどんなのだ?」
「え? そうねー。どうせタダなんだし魔装なんかいいと思うけど」
なるほど、確かに魔装は高いみたいだしそれでいっか。俺が魔装が置いてある棚を見ると、リーナの古代魔装《イマジネーション》と同じような石がはめ込んでいる武器が並んでいた。俺は手ごろな大きさの剣を取りドランさんに聞く。
「ドランさん、 この魔装ってどんな効果を持ってるんだ?」
「そうだな、 今お前が持っている片手剣は水の適正を持っていると水魔法の威力があがるな。 それの隣にあるナイフは魔力を込めれば切れ味が増すとかだな」
うわ、俺に使えねー。その後も色々な魔装の効果を聞いた。魔力を流すことで刀身が伸びるだの、光の魔力でひかりだの俺には使えなかったりふざけてるような効果の魔装しかない。うーん、魔法の才能か保有量が欲しい。
剣を仕舞っている棚などを開けて何本も手にとって確認する。どれも自分に使えるような能力じゃなかったり重すぎて振れないってのばっかでなかなか決まらない。
手に取った剣を戻そうとすると奥に閉まってある布で包んでいる物があった。グリップが見えるしこれも魔装なのだろうか?俺は引っ張り出し包んでいる布を取る。
中には片手剣ほどの白い綺麗な剣があった。黄色の少し小ぶりの魔石がグリップの少し上の方にはめ込まれている。
「ドランさん、これは?」
「うん? えーと......それは確かー?」
ドランさんが俺の持っている剣を見て困っている。そんなに長い間これしまっていたのか。
「ああ、思い出した。その剣は持ち主の魔素を取り込んで倍増して蓄えるって効果だったな。 魔石が小さいから効果が多少落ちてるってことで売れないからしまっていたな」
あれ?結構いい効果じゃないかれ?その効果なら俺の少ない魔素保有量をカバーできるんじゃないんだろうか。まあ、適性ないから使えないが。けど先ほどまでのと違って、全く使えないというわけではなのでこれでいいんじゃないかな。
俺はこれ以上探しても俺に合う武器は無いなと思ったのと、見た目でこの剣を気に入ったということでこれを貰うことにした。
ドランさんは売れなかった物が俺に貰われて嬉しいのかいい笑顔で、
「よし、取引成立だ。 これからも末永くよろしく頼むよ」
と言ってきてくれた。俺もいい剣を貰えたのでかなり満足だ。
リーナはそんな俺を見ながらニコニコしながら眺めていた。
店を出て夕飯を食べにルミエルさんの酒場に行こう、という事で歩いているとリーナが話しかけてきた。
「よかったじゃない。 気に入った武器が見つかって」
「ああ、ドランさんにとっちゃ売れ残りの武器で溜まった仕事を片付けてくれるんだから、取引としてはとても嬉しいんだろうな。 俺は充分満足だが」
「ふふ、そうね。 なかなか直感でいいと言える武器ってなかなか会えないから。 相棒として大切にしなさいよ?」
「分かってるよ」
俺がそう答えると、ならよし!と言ってリーナが先を歩いていく。あ、そういえば。
「なあリーナ、聞いていいか?」
「ん、なに?」
「お前って武器を持ってないのか?」
魔法が得意なんだから杖を装備してると思っていたのだが魔獣と戦った時何も持っていなかったように思える。
「ああ、私の武器?あるよ、一応。あんまり使わないけど」
リーナが腰に付いてるポーチから何かを取り出す。
「私はナイフね。 ちなみにこれも魔装だよ。 効果は持ち主の魔力を流すと熱を帯びるんだけど魔力を流すのを辞めるとすぐに冷めちゃうから魔力の消費がおおいんだよねー」
リーナのナイフは黒いサバイバルナイフのような見た目だった。赤い石がはめ込まれてるこれも見た目がすごくかっこいい。使わないのは少しもったいない気もするが。
確かに魔力を使いすぎて魔法が使えなくなったらどうしようもないんだが。リーナにナイフを貸してもらい眺める。俺も男の子なのでかっこいい武器には惹かれる。
そうやって眺めてると、俺はある重要な事を聞くのを忘れていた。
「あーーーーー!」
「わ、どうしたの?」
「この剣の名前聞くの忘れていた......」
剣の名前なんてめっちゃ重要な事を忘れるとは......俺ががっくりしているとリーナが笑いながら答えた。
「なんだ、そんな事。安心して、そもそも名前なんてないから」
「え?」
なんでも武器に名前がついているのはたいていが古代魔装、または一流鍛冶屋のつくる魔装だけという事らしい。名前付き=強力な武器ということなのだろうか。俺としてはかっこいい名前があればなーと思っていたのでそもそも名前がないという事を聞いてがっかりする。
俺が落ち込むとリーナがそれを呆れながら見て、
「なら愛称ってことで自分でなにかつければ?」
とナイスな提案を出した。
「それいいな! なんて名前がいいかなー」
俺はすぐさきほどもらった剣を見る。うーん、かっこいい名前をつけてやりたいよなー。白い刀身にきらきらとひかる黄色の魔石......あ。
「白金なんてかっこいいかな」
「へー、いい名前じゃない。 響きがいいから私は好きね」
リーナに名前の案を言ってみていい感じの評価をもらえたので採用することにする。白金、白金、白金......
俺は今後、一緒に苦楽を共にする相棒の名前を心の中で連呼しながら酒屋につくまでずっと眺めていた。