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黒い森

カイラスは改めてぐるりと周りを見回した。


『随分立派な建物ですね。』


呪われし森にそびえ立つ、白亜のリゾートホテルは、お洒落を通り越して異様だった。


『壊す予定のホテルをもらってきたんですよ。

穴を塞ぐのにちょうどいい大きさだったから。』


『…穴。』


『ええ、ほら、私たちがここにいる元凶の。』


『……これで塞いでるんですか?』


『ええ、まあ、なんか、ずれてきたりすると、たまーに漏れてきますけどね。くろっぽいすすけた感じのが。』


『………。』


黒い森がいつから存在するのかは分からなかった。

古くから、悪しきものがその地より出ると言われていて

実際、不気味な大型の生き物や有毒なガスが漏れ

だし、結構な災害を起こしていた。

昔ばなしか伝承か

はるかな昔に、色を失いし魔法使いが

世界に穴をあけたのだと言われていた。

その穴を通って魑魅魍魎が魔界からやってくるのだと。


『あ、ちゃんと、魔法的にも塞いでますよ。

物理だけじゃなくて☆』


その黒の森に、近年領主として封じられたのが、オリバーこと

オルハン・ウィルラルド・パンジェンシーだった。

長いこと死亡したと思われていた人物だ。

幼少期に失踪し、二十年以上経っているのにも関わらず、本人だと認められたのは

同じ顔の双子の兄弟がいたからである。

まあ、偽物でも何でもよかったのだ。

厄災の森への生け贄なのだから。


『多分ねぇ、ここ、昔は都市だったと思うんですよ。』


『都市ですか。この森が?』


『この場所もそうですが、ときどきぽっかり広場のようなものがあったり、道の痕跡があったり、場所によっては石畳なんかも残ってて。

掘れば化石とかミイラも出てきそうですよね。

調査隊とか入れたら、考古学的におもしろいと思いますけどね。』


カイラスは、思いの外饒舌な白い男をみた。

受ける印象はかなり異なるが、

顔立ちや背丈、ふとしたときの動き方が、双子の兄弟とされる公爵によくにていた。

ただ、公爵がよく鍛えられた厚い体躯をしているのに較べるとオリバーは薄っぺらかったし、公爵の憂いに満ちたダンディーな雰囲気に較べるとドライで軽かった。


『カイラスさんは、掃除とか洗濯とか裁縫とか大工仕事とか料理とか農業とか畜産とか育児とか得意ですか?』


『…得意ではありませんが、やったことはあります。実家が大工で弟妹がたくさんいるので。』


『それは何よりです!

先程おっしゃっていた人選ですが

そういうことが嫌でない方が望ましいです。』


『オル…リバー様もそういうことがお得意ですか?』


『いえ、からきし。

あんまり定住したことがなくて、内向きのことをする機会がなかったんですよね。

あ、でもこれから頑張りますよ。』


カイラスはもう一度、建物をぐるりと見回した。


『じゃあまず、そうじからですね。』















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