名前を呼んで
オリバーにとって、アスランは初めてともに暮らす子供だった。
連れてきたはいいけれど、どういう風に接したらいいのかわからず、とりあえず一緒に行動していた。
そんなある日のことである。
『アスランは、毎日、元気にしている?』
オリバーは、アスランの頭にブラシをかけながら問いかけた。
『………………る。』
アスランは、ラッシーにブラシをかけながら答えた。
ちなみに転がったラッシーの腹を背もたれにして、ウィンディーは足を高々と上げての毛繕いに余念がない。
オリバーはブラシをやめて、アスランの頭を手のひらで撫でた。
その小さな頭蓋骨と思いの外高い体温には、いつも触れるたびにちょっと感動する。
『いたいところ、ない?』
『………………ぁい。』
オリバーはシッキムと違い、記憶を読み取ることはできない。
そして、アスランはあまり言葉を話さなかった。
目は見えるようになったようで、
動くものを目で追いかけたり、目が合うようになったりはしたが、
その表情は薄く、感情の起伏は感じられなかった。
会話に行き詰まったオリバーは、
スキンシップに出ることにした。
『アスランはいいこだねぇ。』
なでなでなで。
『…………………ぇぇ』
『………………。』
そこでオリバーは、はた、と気づいた。
『ねぇ、アスラン。』
『………………ラぅ。』
『アスラン。』
『………………スラぅ。』
オリバーはアスランを抱き上げると、自分に向かい合うように膝に乗せた。
そして、自分のことを指差して、
『お・り・ばー』
とゆっくりいう。
『……ぃばぁ。』
アスランはオリバーの指先を目で追った。
『あ、そうか。ふふっ。』
オリバーは、ちょっとだけ、笑うと、
もう一度、アスランのほっぺたに指をあてた。
『アスラ。』
『ァ…スラ』
そして、自分のほっべたに指をあてた。
『パーパ』
『ぁぱ』
そして、らっしーに指をあてた。
『らっしー』
『……しー』
さらにウィンディーに指をあてる。
『ウィンディー』
『……いー』
その日、オリバーは、それをずっと繰り返した。