最終回
その村では、毎年儀式が行われる。
厄災を祓うための清めのまじないだ。
村で一年かけて用意された
美しい伝統模様の大きな布を、
風の精霊に捧げるのだ。
風の精霊を呼び出すことができるという魔法使いが、この時期になると村に訪れる。
背の高い黒髪の男が、大きな犬を連れてやってくる。
代替わりしているのか、同じ男なのかは誰も知らない。
証は星の出る水晶の剣、スターライトベル。
かつて、この地を治めたパンジェンシー公爵家の宝刀だという伝説がある。
男は、布を受け取ると、犬をともない、一人禁呪の森へと入っていく。
男の帰還を喜んで、木々がさわさわと風にゆれる。
森の奥にある、時が止まったかのような、白亜の建物に入り、地下に足を進める。
地下の広間に広がる、何年分もの布の上に、新しい布を広げ、
男は…アスランは、スターライトベルをそっとかざした。
「ただいま。」
答えるものは誰もいないけれど
アスランは暁色の瞳を優しく細めた。
「大好きだよ。」
特に、壁に穴が空いているわけでもなかったが
どこから入ってきたのは
アスランの髪を風がなでた。
スターライトベルがシャラシャラと美しい音を奏でながら、星をふりまいた。
かつて、白亜の建物が塞いでいた、世界の穴は、
何百枚もの呪布で蓋をされつつある。
かつて、この地を守った白の魔術師と赤の騎士の、奇跡の名残の宝刀の力で補強されながら。
「ラッシー、おやつにしようか」
「わふ!」
アスランはスターライトベルを包み直すと、上層階に足を向けた。
状態保存の魔法のおかげで、昨年訪れた時と何も変わっていない。
食堂の窓を開けると、気持ちの良い風が吹き込み、光が溢れた。
世界は、やっぱり美しかった。
もう少し、アスランとラッシーのお話を読んでも良いと思われた方は
「お嬢様はたりーのですわ」
もどうぞ。