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ヒナゲシ  作者: やまぐち光緒
2/22

難しいことはわからない

二人は付き合っているの?

 

この質問にはもう何年もNOと言い続けた私だ。だって、私とあっくんはただの友達なんだから。






 机に肘をついてボーっと前の黒板を見る。現在、授業は二時間目、古典の時間。あったかい春の日差しが入ってくるこの窓際じゃあ、先生の声が頭に入ってくるはずもなく。ていうか内容がわけわかんない。何、恋の歌? ストレートに好きって言えし。周りくどすぎ。でも昔の人はこんな短い文から人の気持ちをいっぱい読み取ることができるんだから凄い。私の代わりにテスト問題を解いてほしい。


 消しかすを丸めて時間を潰すこと三十分。そろそろこの作業にも飽きてきた。まだまだ授業が続くと考えるだけで気分が落ち込む。


 こんな後ろの窓際の席なら誰も見ていないだろう、と思ってふわあと大きな欠伸をした。四月に高校生になったばかりの女の子の仕草じゃない、と言われそうだけどそんなの私の知ったことか。

 黒板を見ていても内容はさっぱり理解できないので、視線を校庭へと向ける。すると、窓ガラスの向こうに彼を見つけた。


「ねえねえ、カズくん。今、あっくんのクラス体育みたいだよ」


 私が前の席に座ってる男子の背中を人差し指でちょんちょんと突いて小声で言うと、その男子はゆるりと顔を外へ向けた。


「サッカーやってるっぽいよ。……うわ、あっくんやる気無しー」

「……眠いんじゃ?」


 そう言って目を擦っているカズくんの方が私には眠そうに見えた。カズくんは私の中学からの友達だ。彼は極度の面倒くさがりでマイペースな性格だけど、人の話はちゃんと聞いてくれている……多分。


 グラウンドには今にも死にそうな顔でボールを追いかけているあっくんがいる。周りと比べて明らかに走るスピードが遅い。あっくんは運動神経が悪いわけじゃないからカズくんの言う通り眠いだけなんだろう。だって一時間目から四時間目までノンストップで平気で寝ている男だ。よくそんなに寝てられるよね。そのうち脳みそが溶けるんじゃないかな。


 前を見れば、いつの間にかカズくんは寝ていた。さっきまで起きていたのに、相変わらず寝るのが早すぎる。傍から見れば真面目に授業を聞いているような姿勢での居眠りは職人芸と言わざるを得ない。普段、無気力なくせにこういうことへの努力は惜しまないのがカズくんだ。


 話し相手が居なくなってしまったので、私は再びグラウンドを眺める。






 カズくんもあっくんも確かに友達なのだけれど、少し違う。私にとってあっくんはそう、『親友』というのがしっくりくる。私の中であっくんは他の人とは違う場所に居る。それは昔からそうだった。


 私は小学校四年生の時に今の町に引っ越してきた。そこで初めて出来た友達があっくんだった。小学生の時はあっくんと遊んでばかりだった。女の子と遊ぶよりもあっくんと遊ぶほうが楽しかった。周りからはよく冷やかされたし、良くは思われていなかったと思う。転校生ってこともあって目立ってたし。中には酷いことを言う子も居て、何でなんだろうと私はいつも疑問に思っていた。



 何で友達と遊んでいるだけでそんなことを言われなきゃいけないの? 男子と女子だから? 友だちと遊ぶことの何がおかしいの。



 それでも、私はあっくんと一緒に居ることをやめなかった。それはあっくんも同じで、いくら周りに冷やかされても私から距離を置くことはしなかった。


 あっくんは優しい。私の話を聞いてくれるし理解してくれる。私と同じで甘いものが大好きだから一緒にスイーツ巡りもしてくれる。でも、それだけじゃない。あっくんの存在はパズルのピースみたいにピッタリと私に合うのだ。どっちかが欠けてしまってはダメで、一緒に居るとカチッと歯車が噛み合うみたいで。あっくんだけは何があっても私を裏切らないって自信を持って言える。私も絶対にあっくんを裏切らない。神様に誓ったっていい。

 男女の友情は成立しないってよく言われてるけど、そんなことはないと思う。私とあっくんなら成り立つに決まってる。


 あっくんと私は何をするのも一緒だった。私の隣にはあっくんが居るのが普通だったし、これからもそれが変わることはないと思う。どちらかに好きな人でもできない限りは。

 あっくんに恋人が出来たら勿論私は応援する。あっくんが嬉しいことは私だって嬉しい。隣には立てなくなってしまうけれど、私があっくんの親友であることに変わりはない。


 だけど、時々考えてしまう。



 ――もし、あっくんに好きな人ができたら。もし、そんな人がいたら――。



「……じ、野路のじ!」

「え、あ、はぁい!」

「聞いてなかったな。立ってろ」



 ――ちょっとだけ嫉妬するかもなあ。



 クラスのみんなにクスクスと笑われながら立ち上がった私は、苦い顔でそんなことを思っていた。




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