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ヒナゲシ  作者: やまぐち光緒
17/22

テスト返し

 とある喫茶店のテーブルにて。久しぶりにいつものメンバーが揃っていた。俺の隣にあっちゃん、その隣に南雲。そして、対面には双子と古倉が座っている。


 この六人が集まったのには一応の理由がある。開口一番、話を切り出したのはあっちゃんだった。


「ロンちゃん! テストどうだった?」


 何で龍だけを指名したのかは謎だが、龍は少し目を細めると自分のカバンの中から数枚の紙を取り出した。


「ほれ」

「くっ……! この理系が……!」


 あっちゃんが悔しそうに歯ぎしりしながら紙を見つめる。

 今、龍が取り出したのはテストの答案だった。この前、定期考査があって今日全部の科目が返って来たのだ。


 そう、今日はこのテストの点数を言い合うためだけに集まったというわけだ。全員暇人。


「そういうお前はどうなんだよ」

「えー……」


 龍に尋ねられて、あっちゃんは顔を険しくさせた。そして、渋々自分のエナメルバッグから解答用紙を取り出す。

 テーブルに中央に置かれたそれらを全員で覗き込んだ。


「うっわあ……」

「あームカツク! 数学ムズすぎじゃない!? 何で!?」

「いや、今回そうでもなかったけどな」


 あっちゃんの数学は最早瀕死の状態だった。昔から数学を大の苦手としていた彼女だったけれど、今回も例に漏れず酷い。

 あっちゃんは悲しそうに目を伏せて、大きなため息をつく。


「もうやだぁ……」

「でも、お前英語は得意だよなぁ」

「あっ、でしょ!? 英語すごいでしょ! へっへーん」

「この分を数学に分けてやりたいよな」


 数学はダメダメなあっちゃんだが、英語はかなり得意だ。俺達の中ではいつも一、二を争う。数学を生贄にして得た力である。


 英語を褒められて喜んでいたあっちゃんは急に俺の方に顔を向けた。


「そうだ、あっくんは!? 負けたほうがパフェ奢りだったよね! 絶対勝つから早く見せてよ!」

「あっちゃん俺に勝ったことあったっけ?」

「うるっさい!」


 俺の挑発に簡単にムキになるのはちょっと面白い。どうどう、とあっちゃんを宥めていると、彼女の隣にいる南雲が店員を呼んで「抹茶パフェ一つ」と注文していた。「あ、俺バニラアイス」と古倉も注文する。


「あっ! 私も私も! チョコパフェ一つ!」

「というか現社難しくなかったか?」

「涼、得意だよな。何点だった?」

「こんなもんだよ」


 俺が尋ねると涼は紙を取り出してひらひらさせる。ガチ理系な龍とは反対に涼は文系である。こうもお互いに正反対だと逆に双子らしいというか。


「お前でこんなもんか。じゃあいいや。古倉はどうだよ」

「え、俺?」


 古倉はダルそうにこちらへ目を向けた。


「今? アイス来てからでいい?」

「何でだよ。別に今出したって問題ないだろ」

「カバンから出すのメンドい」

「じゃあ勝手に出すわ」


 そう言って涼が勝手に古倉のカバンを漁りだした。が、中身がプリントやら何やらでごちゃごちゃしすぎて見つけ出すのに時間を食っている。


「お前本当にこの中に入ってんの?」

「樹海かよ」

「多分入ってるはず」

「涼のカバンでもここまで酷くはないぞ……」

「は?」


 龍の余計な一言で危うく兄弟喧嘩が勃発しそうになったが、その時ちょうどテストが見つかったようで俺達の意識はそっちに向いた。


「さあ拝見……相変わらず国語が高いな」

「だって答えは問題文に書いてあるし」


 そんな風にしれっと答えられると少し腹が立つ。これだからフィーリングで解いてる奴は。


「国語って曖昧すぎてヤなんだよ。その点、数学は求め方はたくさんあっても答えは一つしかないからな」

「ロンちゃんそれ言い訳~」

「ああん!?」


 龍はあっちゃんのからかいに簡単に乗せられる。龍は煽り耐性が低いので弄るとすごく楽しい。あっちゃんもだけど。


「南雲は? まあ何となく察しはつくが」

「ふぅ? ああ、ほら」


 抵抗なく南雲はテストを出した。その点数を見た全員が溜息をつく。


「お前さあ……何でそんなに勉強できるんだよ! 電波のくせに!」

「いつ勉強してんの!? 私、ふぅちゃんが勉強してるの見てないよ!?」

「わかったぞこいつカンニングだ! 宇宙人と交信して答え教えてもらってるんだ!」

「失礼ね。今回は自力でやったよ」

「今回は!?」


 表情を変えずにしれっとカンニングを告白された。南雲は普段あんなにおかしな言動をしているくせに何故か勉強はできる。中学の時は常にトップを走っていた。無断欠席したとき以外は。


「ふぅちゃんはカンニングの使い手だったか……」

「でも宇宙人って結構ちゃっかりしてるから見返りないとなかなか教えてくれないよ。ギブアンドテイクが基本なの」

「いや、意味がわからん……何で宇宙人がテストの答え知ってるんだよ」

「え、それは彼らが」

「いい、いい。悪かった。もう何も聞かないから。変なワールドに連れ込まないでくれ」


 龍が片手で顔を覆い、涼が苦笑する。どこかで流れを切っとかないと本当に南雲ワールドが展開されて収集がつかなくなってしまう。

 

「これは南雲学年一番だろうなあ」

「余裕で狙えるでしょ」

「俺らの中で順位つけると……一位南雲、二位龍、三位は……俺か涼か古倉が似たり寄ったりで、ダントツ最下位があっちゃんだ」

「超テンション下がるんですけどー」

「罰ゲームどうする?」

「は!? 聞いてないんだけど!?」


 机の上で突っ伏していたあっちゃんがガバリと顔を上げる。驚愕の表情で俺らを見回している様子が面白い。


「じゃあここ全部野路持ちということで」

「待って厳しい厳しい! 嘘でしょ?」

「ゴチになりまーす。じゃあ俺はチーズケーキ」

「俺は期間限定柚子アイス」

「俺はあっちゃんに勝ったからそもそも奢ってもらえるんだよな~。んーどうしよ」

「ええええええええ!!」


 あっちゃんの叫び声に全員一斉にうるさい、とツッコんだ。

 結局あっちゃんが全員分を支払ったかご想像にお任せする。


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