第77話 図書館検索
職場の同僚の梅木さんは結構な読書家で、朝の始業前の時間や休憩時間などに、図書館で借りた推理小説などを読みふけっている。その彼が幸盛に声をかけてきた。
「この本は春日井図書館で借りた本だけど、東海市立中央図書館から回ってきた本だがね」
「どういうこと?」
「その図書館に蔵書がなくても、日本全国のどこかの図書館にあれば借りられるみたいなんだわ」
彼は高田郁の文庫本『出世花』に挟んであったラミネートしてある用紙を取り出して見せてくれた。
【この本は市外の図書館から借用した本です。必ず返却期限をお守りください。連続貸出、延長不可です。破損の恐れがありますので、必ず窓口に返却してください。水漏れや汚・破損のないよう大切にお取り扱いください。春日井市図書館 ※この用紙は挟んだまま返却してください。】
この一件で現今の図書館事情が知りたくなり、その日の夜に家のパソコンで調べてみた。するとすぐに『日本最大の図書館検索 カーリル』というサイトに出遭ったので、試しに拙著『妻は宇宙人』を検索し、現在地を『愛知県』と入力してみると、なんと、名古屋市の鶴舞、中川、中村、北図書館が「貸出可」で、愛知県図書館は「本館 館内のみ」と案内されている。
『妻は宇宙人』を出版してから八年が経過しているので記憶も薄れているが、確かにこれらの図書館と国立国会図書館には勝手に送りつけたような気がする。しかし豊田市の「中央館 貸出可」というのがよく分からない。豊田中央図書館に寄贈した記憶がまったくないからだ。
それに対し、地元ということで送ったはずの中川図書館の分館である富田図書館が出てこないのはなぜだろう? 小さな図書館だからシステム化されていないのか、それとも、地元であればこそ図書館員の誰かが通読してくれて、その露骨なベッドシーンにビックリ仰天して廃棄処分にしたのだろうか、臭い物には蓋をしろ、君子危うきに近寄らず、という無難な選択をしたのだろうか、等々と勘ぐってしまう。
次に、『さがす』の所に北斗の主宰である竹中忍氏の名前を入力してみると、『春愁(上)』『春愁(下)』『青銅鏡』の三冊が出てきたので『春愁(上)』を選んで『愛知県』と入力した。すると、名古屋市の鶴舞図書館と北図書館が「貸出可」で、西図書館は「貸出中」。愛知県図書館と一宮市中央図書館が「貸出可」になっている。
と、ここで、なぜ『妻は宇宙人』の場合は愛知県図書館で「本館 館内のみ」になっているのだろう、という疑問が生じる。露骨な性描写のある小説だから廃棄したいところだがアスペルガー症候群の理解に役立ちそうだ、といったR指定の観点からポルノ関係のコーナーにでも隔離していて、それゆえに「貸出不可」なのだろうか。是が非でも老いて歩行困難な体になる前に行って確かめてみなくては。
そして、北斗の同人である尾関忠雄氏が過去に全集を出しているので調べてみた。『尾関忠雄文学全集』の第一巻から第七巻までが鶴舞図書館、愛知県図書館、豊田市中央図書館で「貸出可」、『太陽の王子さま』は豊田中央図書館が「貸出中」で、美里図書館が「貸出可」である。
さらに、北斗の同人である駒瀬銑吾氏を調べてみると、近著『スプーンの上にぼくが乗っていた─今日を生きる中学生の詩』の場合は、鶴舞図書館、愛知県図書館、豊田市中央図書館、豊川市中央図書館が、いずれも「貸出可」だった。
と……、さて困った。今回の『第77話』は図書館案内の羅列でお茶を濁し煙に巻く算段だったのが、「北斗」の主な同人諸先生方は棚橋鏡代氏を筆頭に出版なされていない御様子で、清水信先生ですら、『作家と女性たち(1967年)』という清水先生が好みそうなタイトルの本があるだけなのだが、これも「検索できません」とあって確認ができない。
そこで、『国立国会図書館サーチ』で検索してみると、生誕年が1920─とあるから、やはり清水先生が現文社から出されたものに相違なかろう。
さらに『国立国会図書館デジタルコレクション』というリンクがあるので見てみると、
【この資料は、著作権の保護期間中であるか、著作権の確認が済んでいない資料のためインターネット公開をしていません。 閲覧を希望される場合は、国立国会図書館または図書館送信参加館へご来館ください。図書館送信参加館にご来館になる場合は、来館予定の図書館へ利用方法の確認をお願いいたします。】
とある。それにしても、『国立国会図書館サーチ』で山中幸盛の『妻は宇宙人』を検索してみると、『国立国会図書館デジタルコレクション』のリンクは設けられていないし、『館内限定閲覧』との注意書きはないし、著者名の横に1952─という生誕年も付けられていない。
まあ、しかし、この『差異』はもっともな話だけどね。