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短編 三題噺

三題噺 [影][女の子][網]

作者: Win-CL

 いつも、学校の帰り道にある公園に、

少し不思議な――いや、だいぶ変わっている女の子がいた。


 最近、別の場所に大きな新しい公園ができたため、近所の子供たちはみんなそっちで遊んでいる。彼女だけはそこで一人、黙々と遊んでいるのだ。


 ……遊んでいる、という表現もおかしいだろう。


 その女の子は、網を――虫取り網ではない、漁に使われるような、太めでがっしりとした網を地面いっぱいに広げ、それをただただ眺め続けていた。


 日が暮れ始めてから、完全に沈むまでの約一時間。


 毎日、同じ場所で、同じことを繰り返す少女。


 近所に住んでいる他の子のお母さんが話しかけても、なにも反応を見せない。彼女自身の親も誰も見たことがない。


 次第に、みんな気持ち悪がって近寄らなくなった。


 ……なんで自分が、その公園で遊んでいる(?)女の子に詳しいのか。


 それは――――


「……またやってる」


 自分がちょうど、学校から帰るときがその時間なのだ。

……勘違いをされても困るから補足するが、毎日最初から最後まで眺めているわけではない。たまに、ほんとたまにだけ。一週間に二回ぐらいの割合でだけだ。


 今日も他に公園で遊んでいる子は誰もいなかった。更に、公園の周りを歩いている人もいない。これなら自分が話しかけに行っても、犯罪者予備軍と間違われることもないだろう。

――いや、こんな考え方をしている時点で犯罪者予備軍か? 大丈夫なのか?


 十分ほど、その場で悶絶した。


 世知辛い世の中になったものだ。

ただ女の子に話しかけるだけで、ここまで葛藤させられるなんて。


 ――気を取り直して。


 こんな状況、今まで数える程度しかない。近所のマダム(死語)が話しかけてもダメだったのだ。自分が話しかけて反応が返ってくるとは限らないけど、むしろ限りなく低いとは思うけど、試しにやってみても面白いだろう。


 ゆっくりとした足取りで近づく。きわめて自然な感じでやさしく話しかける。


「いつもそうやって眺めているけど――、なにか面白いことでもあるのかい?」


「…………」


 返事は返ってこなかった。ちくしょう。

一昔前だったら、もっと大人も子供もフレンドリーだったはずだ。たぶん。

自分だって、お菓子をくれるおじさんと仲良くしてたし。

やっぱり時代か、時代が悪いのか。


 それでもめげずに話しかける。


「それって、ウミノ製の高密度ポリエチレンを使った網だよね。

 いやぁ、通だね。やっぱり上級者はそれ使うよね」


「…………?」


 おっ、こっちを見たぞ。


「…………」


 ……すっごい怪訝な顔をされた。少し凹む。

網の事なんてなんにも知らないのに、適当なことを言ったからか?


 というか、え、なに?

いまどきの小学生ってあんなに嫌悪感をむき出しにしてくるの?

それとも自分にだけ?


 ショックを受けていると、また網へと視線を戻してしまう。


 くそう……。何が悪いんだ……。アプローチの仕方か?

それとも顔か。男はみんな顔なのか。

自分を平均レベルの顔に産んだ親を恨んだ。


 もう話しかける作戦はやめだ。もっと別の方法を考えよう。

たとえば――、同じ目線に立ってみるのはどうだろう。

彼女が見ている景色を、自分も感じてみるのだ。


 というわけで、自分も網を眺める。

言葉も発さず、彼女の隣で。


 …………


 …………


 今の状況を説明すると、少女が張っている網を二人して眺めている。夕暮れがかった、公園の中で。


 …………


 …………


 いったい何が面白いんだ……これ……。

正直な話――、五分もしたら飽きた。

むしろ五分間眺め続けた自分を褒めてほしい。褒め称えてほしい。


 だってこれ、網の上を人の影がいったりきたりするだけなんだぜ。


 公園のすぐそばに歩道橋があるのだ。ちょうど日が落ち始めると、だんだん公園まで影が伸びてくる。ただそれだけのこと。それなのに、彼女はいったいどこが面白くて、こんなことをしているのだろうか。


 日の傾きももう限界まで来ていた。反対側の空はすでに藍色に染まっている。

諦めてもう帰ろうかと立ち上がったその時――――


 ――網が、動いた。


 いや、引っかかった(・・・・・・)……?


 何も引っかかっている様子はないのだが、そう表現するしかない動きだった。風が吹いているわけでもないのに、向こうに引っ張られるように網が動いているのだ。


「――――!」


 すると、少女が立ち上がり、網を引っ張りはじめる。

何かに引きずられていたのが嘘かのように、スルスルと彼女のもとへ手繰り寄せられる網。


 その中には――影。人の形をした影があった。


「――――!?」


 おかしい。この世の物理法則を超えた何かを見てないか。自分。

影が質量を持っているのか? いや、落ち着け、あれはただの犬だ。きっとそうだ。黒い犬が網の上に入り込んだのを見逃しただけだ。人の形なんて気のせいだったんだ。


 混乱している自分をよそに、少女は網を手繰り寄せきる。


 それと同時に、歩道橋で悲鳴が上がった。


 その悲鳴がまるでサイレンのように自分の頭に響く。


「なんだ……? なにが起きている?」


 今の悲鳴はただ事ではないレベルのものだった。痴漢だ窃盗だなんてそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。人が死んだとか、そういう類のものだ。ドラマで見てるんだから間違いない。


 歩道橋ということは飛び降りか?


 それとも殺人事件か?


 ……このタイミングで?

彼女が影を捕まえた瞬間とあまりにもピッタリすぎる。


 いやまて、仮に彼女が影を捕まえていたとしよう。仮に、だぞ?

さらに百歩譲って、それが人の影だったとしよう。ということはなんだ? 捕まえられた影は、あの歩道橋の上を歩いている人たちのものなんだよな?


 つまり――、影を捕まえられた(・・・・・・・・)から、あそこで何か起きているのか?


 まったく状況がつかめない。関連性があるのかもしれないが、それを認めることができない。唖然としている自分の後ろから声が聞こえた。


「……やっとこれで一匹」


「――――」


 ――違う。女子小学生じゃない。女子小学生はこんな冷たい声を出さない。女子小学生のスペシャリストである自分が言うのだから間違いない。


 一言耳にしただけで、背筋に寒気が走った。


「……お前――、今……何をしたんだ」


 彼女がこれまで自分の言葉に返事をしていないことも忘れて尋ねる。

言ってから気づいた。これはあれか、また無視されるのか。


「――何って……、カゲモンゲットよ」


「――は」


 聞きなれない単語が出てきた。

カゲモンってなんだ。ポ〇モンのパクリ?


「捕まえた影同士を戦わせるのよ。少し前から、仲間内で流行ってるの」


 ポ○モンのパクリだった。いったいなんの冗談かと思った。

――が、そう言った少女の目は、とても冗談を言っているようには見えない。


「本当は、象だとか虎だとかの方がいいんだけどね。数が少ないから難しいの。周りに人もたくさんいるし。その分、人間は楽ね。弱いけど数が多いし、どこにでもいるもの」


「……言っている意味がわからない」


 こうやってさっきから言葉を発してはいるが、それもギリギリだ。

とてもじゃないが、手も足も動かせない。それほど混乱していた。


「カゲモン、ゲットだぜ」


 おいやめろ。


 カゲモンだなんてふざけた単語を口にはしているが、

おそらく、人一人が死んでいる。明らかに人間の所業ではなかった。


「――もう、日が落ちきるわね……」


「明日は別のポイントで捕まえないといけないから。

 じゃあね、変質者さん」


「待っ――――」


 日は完全に落ちたのに、街灯はまだ灯らない。

季節の変わり目特有の、そんな狭間の時間にだけ作られる深い闇の中に、少女はヌルリと溶けていった――。



続きません(大声)。

もしこの設定で書くとしたら、一からだろうなぁ。


リハビリ三題噺第十二弾

[影] [女の子] [網]


これでホラーも難しい気がして。

なんというか、先駆者が多すぎて。


そして、書き方が少し変わってます。

とあるシナリオライターに引っ張られてます。

自分としては、だけど。


……なんで主人公、変質者になってしまったん?


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