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FATE・SPINNER(運命の魔女)


「弓塚君、この5つのサイコロを振ってみてごらん」


 縫香さんが煙草をもっていない方の手を宙に掲げると、いくつかのサイコロが現れて彼女の手の中に落ちた。

 どうやら縫香さんは、望む物を手のうちに呼び出す事ができるらしい。

 そしてその片手を軽く振ると、サイコロ達は散らばることなく真っ直ぐ俺の方に飛んできて、両手で受け取ろうとした時に、宙に浮かんで止まった。

 まるで超能力だった。

 俺がサイコロ達を手に取ると、縫香さんがニヤニヤと笑いながら言う。


「今日のラッキーナンバーは5だ」


 クッキーが入っているバスケットの横にサイコロを振り落とすと、全ての目が5になった。


「これって、魔法でサイコロの目を操作したんですか?」


「魔法の力だが、少し違う。ちなみに私は何もしていない。もう一度ふってみろ」


 テーブルの上のサイコロを手に取り、再び振る。やはり全ての目は5で止まった。

 魔法を使わなくてもイカサマをすれば誰にでも出来る。

 でも、そういう事を言いたくて、俺にサイコロを振らせたわけではないだろう。


「私が振ると、違う目が出るわよ」


 襟亜さんがそう言って、三個のサイコロをとって転がすと、ごく普通にバラバラの目が出た。


「分かりやすく言えば奇跡。もしも今、核戦争が起こってここにミサイルが落ちてきたとしても、弓塚君、君だけは生き残る」


「それが、頬白……真結さんの力? 他人を幸せにするという……」


「真結は最強の魔法使いだ。真結の力は運命を変える。運命を司る。魔法の力によって君の運気を良い方向に向け続けているんだ。その力を持つ者を、我々はフェイトスピナーと呼んでいる」


「フェイト、スピナー……」


「この魔法は悪用は出来ない。願えばなんでも叶うという物じゃない。ただひたすらに幸運を呼び込むだけの物。他人を傷つける力、何かを壊す力はもっていない」


「とても前向きに、とても受動的な力なんだ」


 そこまで言うと、テーブルの上のサイコロは消え去った。


「まるで神様みたいな力を持ってるのか」


「神様なんて、そんなすごい力じゃないです」


 頬白は謙遜してそう言ったが、縫香さんは彼女を最強の魔法使いだと言った。

 俺には物を自在に呼び出したりできる縫香さんや、人を殺したり蘇生したりできるという襟亜さんの方が強そうに思えるが……。

 そして、さきほどから僕を正面から見ず、横目で睨む様に見ている硯ちゃんの視線も気になる。


「真結姉ちゃんは悪い事はできなくても、その力を使ってお兄ちゃんは悪い事をする事が出来る。だからこそ、きちんと記憶を塗り替えたかった」


 他人を幸せにする力を使って、俺が悪い事をする。

 一体どんな事出来るだろうか? 頭の中で想像してみた。


 例えば、宝くじを買ったら一等が当たるとすれば、大金持ちだ。

 金があればなんでも出来る。悪い事も出来るだろう。

 ゆくゆくは世界を支配したりできるだろうか。

 あらゆる事が全て幸運にのみ働くのだとすれば、俺はもう死ぬ事もない。


 でも、世界とか支配とかお金とか、わりとどうでも良かった。

 むしろ俺にとって最大の望みは、可愛い彼女が出来て、学生生活を幸せに暮らしていければそれで大満足だった。

 しかもそれはどうやら、ほぼ叶いそうだった。


「やっぱり、悪い人じゃないんだね」


 横目で見ていた硯ちゃんは、小さく笑って再びテレビの方を向いた。


「弓塚君。今、真結とイチャイチャしたり、えっちな事を考えたりしてたでしょう。やだもう、男の子って、えーろーいー」


「かっ、考えてませんよ! えっちな事は!」


「うふふ、でもいいの。誰かを不幸にしようとしたり、殺そうとしたり、権力を握ろうとしたり、全てを支配しようとしたり、そんな事を考えるよりもずっといいわ」


「もし、そんな事を考えた時には、全力であなたをブチ殺してあげるから」


 その冷酷な笑みは、破壊神そのものだった。


「気をつけます……」


「まぁ大体想像は出来ると思うが、襟亜は破壊と再生の魔法を使う。物質を分解し、再構築し、別の物質に置き換えたりできる。我々は変成術と呼んでいる」


「あなたの心臓を直接魔法で止める事はできなくても、槍と刃物と鈍器で肉体そのものを物理的にすり潰す事はできるから、なめたりしないでね?」


「いや、もう全然、鼻から逆らうつもりなんてありませんから……」


 そこまで脅さなくてもいいじゃないか、と心の中でうんざりしたが、ふと、頬白が苦笑いをしているのを見て、思う事があった。


 襟亜さんがこうまでして俺に恐怖を押しつけようとするのは、頬白を守るためじゃないだろうか。

 硯ちゃんも、俺が頬白の力を悪用する事を恐れていた。

 他人を幸せにしたいと思う事。そして他人を幸せにする力。

 それは、この三人の姉妹に対しても影響を及ぼしている筈だった。


「頬白さんの力を使えば、株取引で儲ける事も簡単にできるんじゃ?」


「うん。だから私達姉妹は絶対に真結姉ちゃんの力を自分の為に使わない。そしてその力を人間に悟らせたりしない」


「私の幻術と付与術は、その為にある。お姉ちゃんを人間の悪意から守る為に」


 やはりそうだ。この姉妹は頬白真結を守る為に共に居るのだろう。

 姉妹とは言え、別々に暮らす事はあるだろう。そうしていても良いはずだった。

 それが妹も姉も長女も、共に一つ屋根の下に暮らすのは、この三女を守る為に……。


 改めて、俺はリビングのそれぞれの場所に座る、四姉妹の顔を見回した。

 金髪の長女、黒髪の次女、茶髪の三女、紺色の髪の末っ子。


 それはある日曜日の事。

 俺の家の隣に、頬白四姉妹という魔女達が引っ越してきたのだった。


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