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人身御供


「何が起こってるんですか? どうして真結ちゃんが空を?」


 俺が聞くと、リザリィと縫香さんが歯がみをしながら答えた。


「あのアリーナの形。そして祈祷の内容。そして真結はその魔力の強さから、クルーシブルに見初められた」


「真結はあの人々の願いを聞いてしまったんだ。祝詞の一つに、神を降臨させ、祝福をして貰うという物がある。今、真結は人々の願いを聞いて、神を降臨させようとしている」


「真結ちゃん自体にそんな魔力は存在しない。だからあのクルーシブルは、自分の魔力を真結ちゃんに使わせて、奇跡を起こそうとしている」


「私のミスだ。君達が見つけた魔力の坩堝とシャンダウという神は、こうなる様に誘導していたんだ」


「この日、この降臨祭で、運命の魔女の力を利用して、神の奇跡を起こす」


「十年以上かけられて溜められたクルーシブルの魔力は、その主を求めていて、そしてその主に相応しい者を見つけ、嬉々として呼び寄せている」


「真結はどうなるんです?」


「分からない。想像も付かない。何が起こるのかさえも」


 話をしている間にも、真結の身体はふわふわと宙を飛んでいき、ピラミッド状の体育館の上にさしかかっていた。


「弓塚君、真結の所へ行ってくれ。私達は近づけないだろうが、もし君が真結の側に辿り着けたなら、私は君の位置を元にテレポートして真結を助ける。たとえ命をかける事になっても」


「わ、わかりました」


「俺も行く」


 と町田が言い、来島さんが私も、と言ったのだが、縫香さんはそれを止めた。

 不思議そうに見る来島さんに、縫香さんは、君も巻き込まれかねないんだ。と忠告した。

 それを聞いた町田は、かしこの事を頼みますと縫香さんに言い、俺と共に旅館を飛び出した。


「町田、いいのか、お前まで?」


「何を言ってるんだ。俺達三人は幼なじみじゃないか」


 そう言われるまで、すっかり忘れていた。

 設定では、真結と町田も幼なじみだった。実は違うという事を彼は知らない。


「そうか、あれはピラミッドか。だとすると、頂点にはキャップストーンという魔力を集中させる石が必要なんだ。そこに頬白はいるだろう」


 夜道を、俺達二人は必死でアリーナへと走っていく。

 動物王国の側を横切り、宿泊施設の方へと曲がり、歩いて20分かかった所を約5分で走破していた。


 さすがに宿泊施設の側についた時は、息も切れ切れだったが、渇いた咽につばを飲み込んで、施設の中へと入った。

 敷地内では、祭の和やかな雰囲気が残っており、さすがに夜中の三時では、人影は殆ど無かった。起きている人達は皆、アリーナの中だろう。


 ひとまず、水飲み場で咽を潤した後、アリーナと向かい、中の様子を見ると、人々が椅子に座りながら、神主の祝詞を復唱していた。

 神主達は数人居て、アリーナの中央にある神棚を囲うように座っていた。

 そして信者達も、その中央の神棚を取り巻くように座っている。


 中に入り、この建物がどうなっているのかを見ると、町田の言ったとおり、中二階は壁に沿って窓を開閉する為の足場が通っているだけの、学校の体育館と似た構造だった。


 そしてアリーナの中央、一番上には、本来は月明かりを取り入れるためだろう、四角柱の帽子のような形の窓がついていた。

 しかしそれだけで、キャップストーンと呼ばれる様な何かは無かった。

 今、その明かり取りの窓からは、月明かりが差し込んでいて、中央の神棚を照らしていた。そのように光が屈折する様、作られていた。


(真結は……)


 ふわふわと空を飛び、この建物に近づいていた彼女の姿は、ほどなくその窓の側に見えた。

 現実ではありえない光景だった。

 彼女は明かりとりの窓をすり抜け、そして、月の光をうけながら、ゆっくりとアリーナの中央を降りてくる。

 人々はその姿を見て、当然驚き、指さした。

 神主達も驚いて祝詞をあげるのを辞めて、真結の姿を見上げた。


「急ごう、とにかくあそこへ」


 町田と俺はアリーナの中に入り、中央の神棚の所に駆けつけた。

 神主達は呆然と、目の前の奇跡に見とれていた。


「これって何? こんな演出誰か頼んだの? 女優さん?」


「いや、分かりません。でも、誰かが演出を入れたんでしょう。とにかくご祈祷を続けましょう」


 数人の神主達は、それがテレビのマジックのような演出なのだろうと割り切り、祈祷を続けた。

 神棚には数え切れない数の花で飾られていて、正面には祭壇があった。

 祭壇の両脇には兎の彫像があり、真ん中にはよく見かける御霊の鏡が祀られていた。

 その鏡の前まで、頬白が降りてきた時、その身体が目映く光った。


 それは閃光弾が爆発したような光で、アリーナの人達は悲鳴を上げて目を覆った。

 神主達は、祈祷の為に直視していなかったが、そのまばゆさ故に悲鳴を上げた。


 俺と町田は当然直視してしまった為、しばらくの間、全く目が見えなくなってしまった。

 それでも失明するほどの光の強さでは無かったらしく、何度も何度も瞬きをしているうちに、眼光に焼き付いた光の向こうに風景が見えてきた。


「真結……ちゃん……?」


 祭壇の前には、一人の女性が立っていた。

 それは頬白真結の姿ではなく、白いファーのついた服を着て、頭にウサギの耳をつけた女の人だった。


「あなたは……誰……?」


「私はラビエルじゃ。シャンダウ・ローの遣いである天使。そなた達の願いを聞いて、降りてきたのじゃ」


「誰?」


「さ、さぁ……」


 俺と町田は顔を見合わせ、そして神主達も頭を傾げていた。


「ほれ、神の祝福を行うと言っておるのだ。はやく祝詞をあげぬか」


 そう言われて慌てて、神主達が祝詞をあげると、目の前のウサ耳を付けた女性は両手を広げて、淡い光を発し始めた。


「シャンダウ・ローの御名において、この者達に末永い祝福がある様に」


 その光が降りかかると何故かとても気持ちがよく、心が洗われる様な気持ちになった。

 光は人々に注ぎ、そしてアリーナの中に満ちていき、人々は自分達が神の奇跡の中に居る事を実感して喜んだ。


 多くの人は、これをドライアイスのスモークに光を当てた演出のようなもの、という人間の理解の範疇の中で、演出として喜んでいた。


 でも、俺には分かっていた。これは神の祝福なんかじゃなかった。


「これは……真結の……奇跡の魔法の光だ……」


 その優しい光に触れた時、どうしようもなく胸が痛くなって、涙がこぼれた。


「真結は……真結はどこに居るんですか?」


 一通り、光と祝福を与えたウサギ耳の女性にそう尋ねた。


「……あの少女は自らの身体を贄にして、奇跡を起こした。今はクルーシブルの中に囚われておる」


「に、贄って……そんな……そんな事、誰も望んでないのに」


「いやいや、明らかに生贄としてここに立っていたではないか、皆の願いを聞き入れ、私をここに降臨させる為に」


「違うんです、彼女は生贄なんかじゃないんです……彼女は奇跡を起こす魔法使いなんです」


「……何を言っている? ラビエルにはさっぱりわからんぞ」


「真結はクルーシブルに居るんですね? あの魔力の坩堝にいるんですね?」


「おい、人間が行った所で救える物ではないぞ。おい、ちょっと待て」


 そのウサギの耳を付けた女性が、当人の言う様に天使だとして、真結はここにいる人達の願いを聞き入れてしまったとして……。


 真結があの地底湖にいるのならば、俺はそこへ行くしかなかった。

 俺は一人で泣きながら、あのフェンスの所へと向かって走っていた。



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