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濡れたパンツとウサギのパンツ


「ももも、もう嫌だ。次はリザリィがやる。どうせハズレをひいても、同じ事になるだけだしな!」


 さすがに二回目は怖くないらしく、リザリィは右側の檻を開けると、その中に身体を入れた。

 しかし、リザリィは頬白よりも小柄で背も低いので、手が届かない。


「わ、わりと……奥にあるのね……」


「うん、結構ギリギリだよ」


 リザリィは片手で俺の服を掴みながら、レバーに届くまで監獄の中に入っていく。


「うわぁ、監獄の中に骸骨がいる……怖い……怖いよう……」


 残念ながら、夜目の利かない俺達にはよく見えない。

 見えているという事自体が、余計に怖い状態になっていた。


「とどいた……いくわよ……」


「うん」


 リザリィの身体は、殆ど監獄の中に入ってしまっていて、俺の服を引っ張る事かできず、代わりに手を繋いでいた。

 その状態でレバーを引き下ろした時、カチリ、という音がする。


 そして、暗闇。そしてフラッシュ。そして、大絶叫。


「あああああああーーーーーっっ!!!!」


「うわっ、骸骨が倒れてきた!」


 監獄の中の骸骨も動くのだった。頬白は手が届いたのと、中の様子が見えなかったので、気がつかなかっただけだった。

 子供がこの中に入り、レバーを引くと、横に居る骸骨が倒れてくるという意地悪な仕組みになっていたのだった。


 先ほどのカップルの女性が言っていた、結構くる、とはこのことだったのだろう。

 俺はリザリィと手を繋いでいたのだが、その繋いでいる手の上に、骸骨がだらり、と倒れかかってきたので、俺の方も心臓がとまりそうになった。


 つづいてフラッシュと骸骨達のダンスが始まり、それはハズレだという声がした。


「リザリィ? 大丈夫? 生きてる?」


 手は離していない。しかし、監獄の中にいるリザリィは微動だにしていなかった。

 軽く手を引っ張ると、リザリィの身体がへなっ、と崩れ落ちてしまったのがわかった。


「リ、リザリィ!」


 慌てて、俺は監獄の中に半身を入れて、リザリィの身体を抱きかかえる。


「ぐすっ、うぇぇん……」


 どうやら気絶はしてない様だが、あまりの恐怖に泣いてしまった様だった。


「リザリィちゃん大丈夫?」


「ううっ、ぐすっ、見ないで……ううっ……」


 何の事かと思ってリザリィの様子を見てみる。ふと、手に生暖かい感触がするのを感じた。


(あーっ!? 漏らしてるぅーっ!!)


 気絶と失禁と、どちらが良かっただろうか? いや、どちらも良くないのだが。

 リザリィが失禁してしまった事を言葉にしてしまうのは可哀想だったので、身振りで頬白に伝えると、さすがの頬白も慌ててリザリィを介抱した。


「大丈夫、大丈夫だよ、リザリィちゃん」


 とりあえず、残っている正解のレバーを引くと、囚われの骸骨はお礼を言ってくれたが、もうこっちはそれどころじゃなかった。


「外に出ようか、続けてる場合じゃ無いし」


「うん、さっきの休憩所にいこ」


 子供状態でめそめそと泣いてしまっているリザリィを連れて、非常口とかかれたあのベンチの所に行く。そしてインターホンを押すと、すぐに係員の声が聞こえた。


「大丈夫ですか? どうされました?」


「すいません、連れの体調が悪くなりまして」


 というと、ものの十秒もせずに、横の扉が開き、係員が来てくれた。


「体調の悪い方はどちらですか?」


「あ、あの……」


 ひとまず俺達三人は暗い通路を出て、アトラクションの裏側へと入った。

 その後に、駆けつけてくれた係員に、頬白が事情を耳打ちで話す。


「ああ……そうですか。では、休憩所までお連れしますので……」


 俺達は地獄船長の姿もその財宝も見る事なく、アトラクションの裏側の、灰色の通路を通って、外に出る事になってしまった。


「……どうしたの……」


 外で待っていた町田と来島さんが、裏口から出てきてしまった俺達に気づいて、駆けつけてくれた。


「あのね、リザリィちゃんが……」


 頬白は泣いているリザリィの片手をとりながら、来島さんに事情を話した。端から見れば頬白とリザリィはまるで姉妹だった。


「ああ……私、ちょっと売店に行ってくる」


 来島さんはそう言うと、すぐにその場を離れて駆けていく。


「売店?」


「キャラクターグッズに下着があるかもしれない」


 町田が俺の側にきて、リザリィには聞こえない様に小声で教えてくれた。


「ひとまず、休憩所に行こう」


 こうして、本日二度目の休憩所に俺達は行く事になってしまった。


 大恥をかいてしまったリザリィは、休憩所についても、しくしくと泣いていて、頬白がその背中をぽんぽんと軽く叩いて、赤ちゃんをあやすようにしていた。

 こうしてみると、本当に頬白はよく気の付く、優しい女の子だった。


 五分ほどして来島さんがスポーツタオルと下着を買ってくると、リザリィはそれを持ってトイレの中に入り、着替えをしてきた。

 そしてトイレから出てきたリザリィは、涙目になりながら俺の所に来て言う。


「ダーリンごめんね、あなたが好きだと思って、しましまのぱんつを履いてきたけど、黄金水まみれになっちゃった」


 そう言って、濡れた下着を俺に差し出した。


「そんなもの渡さなくて良いよ! 渡してどうするつもりなんだ!」


「おかげでこの有様よ。よりによって神の使い魔のうさぎ柄のパンツを履くことになるなんて……屈辱だわ……」


 リザリィは自分のスカートをめくりあげて、うさぎ柄のパンツを俺達に見せる。


「パンツ見せなくていいから! 変な報告はしないでくれ」


「まぁ、このぱんつは、ここにリザリィと来たという記念に……」


「だから、濡れたパンツを渡されても……」


 リザリィはどうしても俺に下着を渡したいらしく、俺は仕方無く受け取った。


(女の子がお漏らしした下着を貰っても……そういうのが好きな人もいるかもしれないけど……それに俺、縞々の下着とか特別にどうとも思ってないし……)


 そう落胆しながら、お土産袋の中に入れて持ち帰る事になってしまった。


「私には、悪魔のする事は一生理解出来ないと思う」


 来島さんが呆れながらそう言っていた。


「大丈夫? 今日はもう帰る?」


 頬白がリザリィの気持ちを心配してそう尋ねたが、リザリィは首を振った。


「駄目だ。ここまで来たのに、後戻りは出来ない」


「どうしてそういうプライドは折れないんだろう」


 来島さんが都度ある事に理解不能の素振りを見せたが、俺も同じ気持ちだった。


「リザリィちゃんは強い子だから」


 頬白が理解出来ている事の方がびっくりだった。



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