赤い部屋
「ありがとう、これが宝箱のカギだよ、頑張ってね!」
その音声と共に、この第4チェックポイントはクリアーになったようだった。
「あと二つか……また、道が分かれているな」
リザリィの言う通り、この部屋からは三本の通路が延びていた。
一つは戻る道、もう二つが先へ進む道。左の道は赤く、右の道は真っ暗だった。
「あ、赤は怖いから、あっちにしよう闇の方がまだマシだ」
リザリィがそう言うので、俺達三人は暗い方の通路に足を踏み入れた。
「リザリィって闇の令嬢なんだよね? 暗闇でも見えるの?」
「まぁ、見ようと思えば見えるが……今は普通の通路しか見えてない」
「通路は見えるのか……俺には見えないな」
手探りで先に進む俺と頬白とは違い、リザリィは確かに自分一人で歩いていた。
通路は直角に曲がっていて、通路の天井に非常口の見慣れた緑の標識があり、その下にはベンチが置いてあった。ここが休憩する所なのだろう。
よく見ると壁にインターホンがあり、すぐ横には舞台裏に行けるらしい扉があった。
休憩所のある角を曲がり、先に進むと、その先にほの暗い場所が見えた。
「何か、大きな扉がある……」
おそるおそるそこに行くと、壁に大きな扉があり、そして宝の間と書かれていた。
「これは……ここがゴール?」
「まだ、三つしかチェックポイントを通ってないよね?」
「このまま入ると参加賞になるんだっけ……戻って別の方に行こうか」
扉の肘にはICカードを入れる所があったが、まだ先に進むつもりはないので、触らない事にした。
そして、来た道を戻ると、休憩所の所で、ばったりと別のお客さんに出会った。
「あ、びっくりした」
「ど、どうも……」
お互いにちょっと気まずい雰囲気になりながらも、少しの情報交換をする。
「この先はどうなってるんですか?」
「宝の間の扉がありましたよ。僕達はまだ全ての所を回ってないので、戻ってきたんです」
「そうですか。私達は回ってきたので、次はその扉かな? それじゃ頑張って」
「あ、あの……赤い部屋は、結構くるんで、気をつけて」
「ああ、あれは、わりとびっくりしたね……」
女性のアドバイスに対し、男性も苦笑いをしつつそう言った。
「は、はい。わかりました」
俺達に比べると一回りの年上のカップルだった。
二人は手をつなぎながら、通路を歩いて行き、なんだか良い雰囲気だった。
「やっぱり赤はマズイらしい。もうこれでクリアした事にしない?」
「どんなのか見てみたい!」
やる気満々の頬白の言葉に、真結ちゃんが言うなら仕方無い、とリザリィが折れる。
再び明るい砂浜の部屋を通りすぎ、そして今度は赤い部屋へと向かった。
暗い通路を通り、赤い部屋の中を見た時、もうあきらかにヤバイのは分かった。
この部屋は監獄の部屋で、部屋には檻があり、天井や壁には骸骨が吊されている。
おそるおそる部屋の中に入るも、既にリザリィは俺と頬白の間に入って、両手で俺達の背中をがっしりと掴んでいた。
「ここは5番目か……じゃ、じゃあ、カードを入れようか……」
最初に俺がカードを入れると、すぐに照明が消えて真っ暗になってしまった。
「うわ、何も見えない」
どこからともなく、笑い声が聞こえてくる。
「ここは……地獄の監獄……囚われた死者達の牢屋だ……」
続いて目映いフラッシュが光り、天井に十字に吊された骸骨のロボットが、カタカタと揺れた。
「助けてくれ、俺は幽霊達に囚われてしまった。三つの檻のどこかに俺のペンダントがある。それは宝の間に通じる扉を開ける魔法のペンダントなんだ」
「どれかの監獄の中俺が囚われている。レバーをひいて、俺を自由にしてくれ」
続いて再びフラッシュが光り、部屋は暗く赤い照明に戻る。
「この、どれかの檻の中に囚われてるんだね」
頬白は全く動じず、明るい声でそう言った。
「…………」
リザリィはもう恐怖のどん底に突き落とされていて、声も出ない。
「真ん中から行ってみようか」
「うん」
檻は三つ、壁沿いに並んでいた。それぞれの檻は小さく、人一人がくぐれる程度の大きさになっていた。
その真ん中の檻を開けると、中には錆びた装飾のレバーが見えた。
頬白が一歩踏みだして、監獄の中に入る。入り口から一歩踏み出し、手を伸ばしてギリギリ届くどころにレバーがあった。
閉じ込められたくない、という気持ちがあるなら、このギリギリの所からレバーをひく必要があった。
「よいしょ……」
さすがに頬白も、狭い不気味な監獄の中に入ろうとはせず、レバーに手を伸ばす。
「ひくね」
「うん」
頬白がレバーをかちり、と引き下ろすと、また照明が消えた。
そして、それとほぼ同時に絶叫が部屋の中にこだました。
「いやあああああ!!! ひぃぃぃぃぃ!!!」
叫び声を上げたのはリザリィだった。
少し間をおいて、先ほどと同じくフラッシュが何度も光ると、天井から骸骨の人形がつり下がったり、壁や天井から骸骨の手が伸びて動いたりしているのが見えた。
俺達はパッ、パッと瞬間的に光るフラッシュのせいで、それらの骸骨を直視する事は出来なかったが、リザリィは暗視の能力を使った事で、まともに見えてしまっているらしい。
「むりむりむりむり、むりむりむりむり」
そう言いながら、リザリィが俺の背中に顔を押しつけ、がっしりと身体を抱きしめてきた。
これが恋人同士なら、さぞかしいい感じだっただろう。
しかし、俺の恋人である頬白は、この状態でさえ楽しんでいて、あはは、と笑いながら周りを見ている始末。
そして恋人ではないリザリィが、叫びながらしがみついている始末だった。
案外、空回りしているのは、リザリィだけでなく俺も同じなのかもしれない。
(そうかぁ……場合によっては、ここで俺に抱きついているのは、頬白かもしれないのか……)
もし二人きりでここに来て、そして頬白が恐がりだったら……。
俺も抱きついてきた頬白をしっかりと抱き寄せたことだろう!
という妄想をする事しか出来なかった。
「残念、それはハズレだー」
というお決まりの文句と共に、骸骨達の動きは止まり、部屋は元通りの赤い照明に戻った。




