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お前、見ているな!


「えっ? よく見えなかった。他の人達かな?」


「ほ、他の人達もいるなら、きっとそうよ」


「そ、そうかな」


 少し気になったのは、暗がりの中で姿をはっきり見る事こそ出来なかったが、服を着ていた様には見えなかった事だった。

 まるで、着ぐるみか何かのような……。


「わぁ……ここ、何だろう……?」


 緑の照明に照らされた小さな部屋には、第三チェックポイントと書かれていた。

 部屋の中央には台座があり、ICカードを挿入できる穴があった。

 三人でその台座に近づき、カードを差し込むと、照明が薄暗くなり、白、ピンク、青などの小さなスポットライトが部屋の中を駆け回る状態になった。

 そして天井から声が響く。


「ここは巨大貝の部屋。部屋の中にある三つの貝のどれかに、正解のボタンが隠されている。その正解のボタンを押すのだ」


 このチラチラとして見にくい照明自体が既に仕掛けになっていて、俺達はほぼ手探り状態で部屋の中を歩いて行く。

 つまづいて転んでしまうほどの暗さではないが、どこに貝があるのかはとても見づらい。


「あっ、ここに一つあったよ」


 部屋の隅で頬白がそう言い、俺達の方を見た。


「貝殻の形の蓋があって、中にボタンがあるの」


「押してみて」


「うん」


 頬白がそのボタンを押すと、ゴゴコゴという地震の様な音が鳴り、部屋の照明がチラチラとした見にくい物から、光の渦のような、更に見にくい状態になってしまった。


「残念、それはハズレだー、ハッハッハッ」


 という男性の声がするが、それ以上の演出はなかった。

 しかし、俺の腰にまとわりついているリザリィには十分らしかった。


「もうおしまいよー、この世界は大洪水になって終わってしまうのよー」


(そこまで感情移入ができるのもすごいなぁ……)


 などと感心しつつも、俺も別の貝の所に辿り着いた。


「こっちにも貝があった。押してみる」


「うん」


 頬白の返事を聞いてから、ボタンを押してみたが、結果は再びのハズレだった。

 部屋の様子が変わる事はなく、光の渦がグルグルと部屋の中を回っていた。


「はやく、はやく、正解を押して」


「きっとリザリィちゃんが押したら正解になるよ」


 と頬白が楽しそうに言った。彼女はあらゆる意味で、このアトラクションを楽しんでいるみたいだった。


「無理、こんな状況では何も見えないわよ」


「目を開けたら、少しは見える様になるよ」


 腰にしがみついて目を閉じているリザリィにそう言うと、彼女は自分で目を開けて、歩き始め、そしてほどなくもう一つの貝の所に辿り着いた。


「これ、これか……このボタンを押せば……」


 早速リザリィがボタンを押すと、正解らしき効果音と共に、お金が舞い散るようなキラキラとした音が響いた。

 部屋の中は普通の照明で照らされ、自分達が思ったよりも小さな部屋にいた事が分かった。


「おめでとう正解だ。お前達は海賊達の大真珠を手に入れた。さぁ、ゴールを目指すのだ」


「やった! さすがリザリィちゃん!」


「許された……ははは……良かった……」


 誰から何を許されたのか、リザリィは既にクタクタになっている様に見えた。


「良かったね、さぁ、あと3箇所だ」


「まだ、そんなに……」


「次は向こうみたいだな」


 この部屋から次の部屋へは行くか戻るかの二つしか道がなかった。

 戻って紫の方に行く人も居るだろうし、進む人も居るだろう。

 その時の俺は、前に進む事しか考えて無く、次の部屋に繋がる通路に足を踏み入れたのだが……。


「う、うわっ!?」


 部屋を出ようとした時、通路の入り口に、そいつが突然現れた。

 今は部屋の照明が明るいから分かる。目の前には全身毛だらけの獣人の様な化け物が立っていた。


「あっ、使い魔ちゃんだ」


「あらー、使い魔がどうしてこんな所にいるのよー」


「本物かよ!!!」


 それはアトラクションの仕掛けなどではなく、本物の化け物――魔法使い達に使役している使い魔――だった。

 普通の人間の俺にとっては、今までの仕掛けなんかよりも、遙かにこいつの方が怖かった。


「え? 心配で偵察に来た? 縫香お姉ちゃんに見てこいって言われたの?」


 なにか、もごもごと言っている使い魔の言葉を、頬白は理解出来ていた。


「縫香だと……何の偵察だ?」


「リザリィちゃんが怖がってないかどうか、だって」


「あの女ー! 私が怖がっている様子を見に来させただけじゃないのよ!」


 リザリィがそう言うと、使い魔はもふもふと笑いながら両手を叩き、リザリィの方を指さした。明らかに馬鹿にしていた。


「お前、見ているな!!!」


「もー、お姉ちゃん。リザリィちゃんは大丈夫だから、帰って」


 頬白の言葉に、使い魔は頷くと、通路を入り口の方へと戻っていった。


「びっくりしたなぁ……さっき見かけたのも、使い魔だったんだろうな」


「ははは、ダーリンは驚いてマヌケな顔をしていたぞ、はははは」


(リザリィに言われるとは……)


 心の中ではそう思ったが、恐がりの女の子に言い返しても仕方がなかった。

 今しがたまで、半分死人の様な顔をしていた事に比べれば、元気が出ただけ良かったかもしれない。そう思う事にした。


「次の所は、明るい部屋だね」


 通路の奥には明るい照明がもれていて、さざ波の音が聞こえていた。

 中を見ると、壁に砂浜の絵が描かれた小部屋になっていて、昔懐かしいモグラ叩きの装置が置かれていた。

 モグラ叩きの装置の上には、小さな檻があり、その中にサルのぬいぐるみが居た。

 部屋の中に入り、ICカードを差し込むと、檻の中のサルが動き、部屋の中に音声が流れた。


「助けてくれ、ヤシガニ達に捕まってしまったんだ。ヤシガニ達を退治してくれたら、君達に宝箱のカギをあげるよ!」


 そう言うと、モグラ叩きの装置が動き出し、表示板にあと50匹という数字が出た。

 普通のモグラ叩きは一人でやるものだが、これはアトラクション様に作られた大きめの物で、二人以上で叩く様になっていた。

 最大三人までらしく、穴から出てくるヤシガニを叩く柔らかいハンマーは三つあった。


「よし、これなら怖くない、なんとかなる」


 とリザリィも元気を出し、三人でモグラ叩きをする事となった。

 この部屋に関しては問題無く、三人とも楽しむ事が出来たのだが、その先に待つ部屋では、とんでもない事になってしまった。



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