大噴水と龍脈
朝から遊園地に来て、ループコースターから休憩所を経た後、今に至る。
俺達は大噴水と、そこから伸びるメインストリートの傍らで、ちょっとした腹ごしらえをした後、惚けていた。
「ねぇダーリン。どうしてここに大きな噴水があって、メインストリートが真っ直ぐ向こうへ伸びているのか、その理由ってわかる?」
「パレードをする為? あとは人通りを整理する為かな?」
「こういう風に、建物と建物を直線上に並べて建築する事をなんて言ったか覚えてる?」
「あ……レイラインだっけ……でもあれは龍脈に沿って……」
とそこまで言って、リザリィが何を言いたいのか理解した。
「つまり、この通りは龍脈に沿って作られているのか……」
「そう。さっき人通りを整理するって言ったけど、人は龍脈に沿って歩きたがる物よ。だから国道だったり駅前通だったり銀座通りだったり、龍脈に沿って作られるの」
「都市開発だとか言って、龍脈が通ってない所に大規模な地区都市を作っても、ゴーストタウンになるのはその為」
「あれは、そういう事だったんだね」
「不動産屋と建設業者が金欲しさに都市計画を建て、その土地の代議士と仲良くして、大規模な予算をふんだくる。そのお金を払っているのは、そこに住んでいる人間達」
「そういう裏の話を聞くと、なんだかドライだね」
「逆に、そんな予算も計画も無いのに、なぜかポコポコと建物が建ってしまい、人々がそこに集まってくる場所が、ここなわけ」
リザリィが片手をあげ、遠くを指さす。
「この先に、動物王国があるわよ、その向こう、ちょっと左側には温泉がある」
そう言われて、貰ったパンフレットを見てみると確かにその通りだった。
「完全に直線って訳じゃないんだね」
「縫香お姉ちゃんが言ってた。龍脈は、必ず少し曲がるの。その曲がり具合は、日本の反り具合と同じなんだって」
「へぇ……」
「だからこの国は戦いに強いのよ。この国そのものが巨大な龍脈の流れに沿っているの。でも、その力を忘れた時、この国はどんな国にも負けてしまうわ」
「ゴーストタウンみたいに?」
先ほど話に出た例を言うと、リザリィは小さく頷いた。
そしてベンチから立ち上がると、俺達の方を見て言う。
「大噴水の方に行きましょ」
メインストリートの終点でありパレードの折り返し点である大噴水の前に来た。
噴水の周りには取り囲むようにベンチがおかれており、そこで人々はくつろぐことが出来る。
「人間達は、噴水や滝のように水が弾ける場所には、マイナスイオンというものが発生すると言うけど、このマイナスイオンが何なのか、本当は分かってない」
「そうなの?」
「人間が水場の側で気持ちが良くなるのは、そこに魔力の流れがあるからよ。マイナスイオンが関係しているかどうかは知らないけど、もしかしたら関係はあるのかもね」
「……ここ、気持ちいいね」
「この大噴水には、この遊園地で産まれた魔力が集まってくる。そしてここで集まった魔力は、龍脈に沿って流れていく。この遊園地を設計した者は、おそらくレイラインを作る事で、魔力の流れを導いてる」
「だから真結には、とても気持ちのいい場所よね」
「うん。ここにいるとほっとする。安心する」
人間は、噴水と、この綺麗な眺めによって、安心感を得ていると思うのだが、もしかしたら頬白と同じく、魔力を感じて安らぎを得ているのかもしれない。
そしてリザリィの話では、ここに集まった魔力は、このメインストリートを進み、その先のわんわん動物王国にいき、更にその先の天然温泉へと流れていっているらしい。
噴水に集まった魔力が、温泉に流れ着くというのは、魔力と水が何らかの関係を持っているからだろうか。
「さて、ループコースターは乗ったし、次はお化け屋敷の番ね」
大噴水の前で俺達の方を向いたリザリィがそう言った。
後ろで見ていた町田達に手を振ると、彼らもベンチから立ち上がり、自分達の食べたものをゴミ箱に捨てて、こちらへとやってくる。
「もしかして、何か考えがあっての順番なの? 龍脈と関係があるっていうなら、リザリィの言う通りにするよ」
「何言ってるのよー、わからないから調査しに来てるんでしょー? さ、行きましょ」
「一応、調査なんだね、これは……」
「一応ね」
俺達の所まで来た町田が小さく笑ってそう言った。
「スケジュール上では、次はお化け屋敷なの?」
「そうだね」
「その次は?」
「予定が入れ替わってるから急流滑りだろうけど、時間的にどうかな……動物ランドのウサギレースを見に行くのなら、そっちかもしれない」
「ありがとう」
たぶん、町田は全てを話していない。
だろうとか、どうかなとか、かもしれないとか、全て曖昧な言葉を使ったのは、別の予定もある事を伝える為だろう。
きっと話しちゃダメ、とリザリィと約束しているんだと思う。
「……あのね、弓塚君。一つ話しておきたい事が」
と来島さんが言い、町田が少し驚いた顔をした。
町田は約束を破らない男だ。多少理不尽でも、約束したなら守ろうとする。
でも来島さんはそうではないらしい。
「ループコースターでもそうだったけど、リザリィは恐がりよ」
「ああ、そうだね、それは言っておかないと。あの子は恐怖に弱い」
それは既に露見している事だから、話しても大丈夫だという事らしい。
町田は苦笑しながら、来島さんの言葉をフォローしていた。
「…………」
かのしまファミリーパークのお化け屋敷には、洋風と和風の二種類がある。
一つは和風の幽霊屋敷。もう一つは洋風の地獄の海賊船。
リザリィはこのうち、海賊船の方を選んでいた。
そして今、そのアトラクションの前に来て、看板を見てたじろいでいた。
「地獄の海賊船って……地獄にはこんな海賊達は居ないぞ」
という、リアルで地獄に住んでいる悪魔からの貴重なコメントが聞けた。
「なんだか、とても面白そうだね!」
「えっ?」
リザリィとは対照的に、頬白は眼をきらきらさせて看板を見ていた。
信じられないと言った顔で頬白を見た後、リザリィは俺の顔を見た。
「好きなんだよ。魔法とか、血が出るとか、首が飛ぶとか」
「ほんとに?」
「私の家で、スプラッター映画を見た時、脳味噌が空飛んだって笑ってたね」
「それって笑う所……?」
「本物だったら怖いけど、作り物だから平気だよ」
「あ、そう……作り物だものね……そうよね……」
顔面蒼白になったリザリィを見て、また空回りしちゃったのか、と思った。




