表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/63

ポンコツだけど、いい子


 頬白の身体自体が淡く光り、そして小さな光の粒が溢れ出していく。

 今、町田が母の回復を願い、その願いを聞いた頬白が、魔法を使ったのだろう。


 町田にはこの光の粒は見えていない様だったが、その光の粒によって作られた来島さんと、空くまであるリザリィには、確かに見えているようだった。

 俺が見えてしまうのは、頬白がオプション買いのノリで、魔法が見える魔法を付与したからだと言っていた。


「これが……フェイトスピナー……運命を司り、全てを幸運へと導く力……」


「こいつはすごいな……こりゃ皆が欲しがるわけだ」


 リザリィとコイルさんが、目を丸くして頬白から溢れ出る魔力の粒を見送っていた。

 来島さんは何が起こっているのかよく分からず、宙に漂う光を見ていた。


 魔法の粒子はふわふわと手術室の方へと漂っていき、その中へと消えていく。

 そして、何事もなかったかの様に、下の陰鬱で無機質な病院の通路の風景に戻った。


「ふぅ……」


 頬白が、少し疲れた顔でソファに座り込んだ。


「大丈夫?」


「うん、大丈夫」


 来島さんを産み出した時ほどは疲れていないみたいだが、それでも何か一仕事を終えて疲れた素振りを見せていた。


「あらあら、激しいHを終えたあとみたいな疲れっぷりね」


(どんな表現だよ……)


「男はさー、出しちゃうと途端に冷たくなるし、女は女で、はぁやれやれ、こっちはいつだって全力なんだからって思って、一仕事終えたみたいになるのよねー」


「そうなんだ? 経験が無いんで分からないけど」


「そう言えばそうよね、キスもしてないみたいだし」


「あの……今のは……?」


 来島さんが呆気にとられた顔で、俺達を見る。

 その隣で町田は何事にも気づかずに、俯いていた。


「町田君、元気を出しなさいよ、手術は成功間違いなし、上手くいくわ」


 リザリィが町田の肩をぽん、と叩いてそう言った。

 町田は顔を上げて、必死で作り笑顔をしていた。


「うん、そう言ってくれると、気が楽になるよ。ありがとう悪魔さん」


「あなたに惚れられても、私に得は無いんだけどね!」


「お嬢様、私はちょっとお兄様の所に行ってきます」


「はいはい、運命の魔女についての連絡ね。お兄様には手出ししないでって言っといて」


 コイルさんは一礼すると、コツコツと靴の音を響かせて廊下の奥へと曲がっていったが、その姿が見えなくなったと同時に靴の音は消えていた。


 それから約30分の後、手術は終わり、扉が開いて先生が姿を現した。

 すぐに町田が立ち上がり、手袋を脱いで何かの書類にサインをしている先生の所に向かう。

 先生がマスクをとり、笑顔を見せた時、皆がホッと息をついた。


「手術は成功しました。腐敗している所は大きかったし、一部は重要な血管に食い込んでいました。一時は残念なおしらせをする事になるかもしれないと覚悟したのですが、とても幸運なことに絡みついている部分がほどけましてね、本当に幸運だった」


 その幸運、という言葉を受けて、俺達が頬白の顔を見る。

 これこそがフェイトスピナーの魔法。99%無理だとしても、1%でも成功する確率があるなら、その奇跡を導く力だった。


「ええ、その一番厄介な部分が腐りすぎて取れちゃったんですね。だからあとはもう綺麗に掃除して、お薬も塗って再び腐る事がないようにして、傷口を閉じました。勿論沢山の肉を切除しましたので、半年ほどは安静ですけど、再発の可能性は少ないでしょう」


「そうですか……先生、ありがとうございます」


「いやいや、お礼は、幸運の女神に言って下さい。あの患部を見た時、私達はちょっと絶望に似た気持ちになってしまいました。成功した今だから言えますけどね」


「ありがとう、みんなが来てくれたおかげかもしれない」


 町田がそう言って俺達に笑顔を見せてくれた時、彼の身体から魔法の光とはまた違う、淡い雪の様な、半透明のきらきら光るものが宙へと待っていた。

 たぶん、これが魔力を産み出すという事なのだろう。

 頬白の力によって人が幸せになり、幸せになった人は魔力を産み出す。

 頬白四姉妹から聞いた説明を、目の当たりにした。


「かしこのおかげー、ちゃんとお礼をするのよー」


「えっ? 私? 何もしてないけど? 今のは頬白さんなんじゃ……」


「あなたが困ってなきゃ、私達はここに来てないの。きっかけってそういうものなの。さ、かしこと町田はラブラブにさせて、私達は帰りましょ」


 などと一人で仕切って、リザリィは俺と頬白と共に病院から去るように促した。

 俺達は町田に良かったね、という言葉をかけた後、病院を後にした。


「リザリィってさ、ポンコツだけど、いいやつなんだね」


「ぽっ、ポンコツって何よ!?」


「あは、そうだね。憎めないよねリザリィちゃん、可愛らしい」


「この二人に好かれるのは、願ってもない事だけど……なにそのポンコツって表現? 闇の令嬢として産まれてきて、そんな言い方されたのははじめてなんだけど?」


 頬白の魔法を見たのはこれで2回目。どちらも町田に対してのものだった。

 最初は俺が町田の幸せを願ったから、そして今回は町田が母親の幸せを願ったから。


 縫香さんは言った。頬白真結は最強の魔女。とても前向きに、とても受動的な力。その力そのものを悪用する事はできないと。


 でもその魔法の二次的な利用の仕方として、魔力を産み出すという副次的な効果を欲する者は居る。

 コイルさんが目を丸くし、リザリィのお兄さんの所に報告しに行ったのも、奇跡が産み出すもう一つの奇跡を目にしたからだろう。


 リザリィが頬白を手に入れたがるのも、その無限の魔力を手に入れたいからだろう。

 ただ、こんな性格の彼女が、無限の魔力を手に入れて、それをどう使うつもりなのかは全く想像がつかない。


「さぁーて、それじゃあ日取りを決めて、みんなでデートしましょうかー」


 果たしてリザリィが求めているものは何なのか? 俺達の未来はどうなってしまうのか? リザリィに囚われてしまうのか、それとも、そうならないのか。

 この可愛らしい性格の悪魔を見て、また少し、人生が面白くなったかもれしない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ