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初めまして、リザリィです。これから一生よろしくね!


「ひがんでいるのか? 襟亜だって、かなりモテる方じゃないか」


「男運が無くて。縫香姉さんは趣味が特殊すぎるのが、ねぇ」


「色男ってさ、自分がカッコイイってわかった上で話しかけてくるだろ? しかも自分が本気で口説けば、必ず相手は落ちるとか思ってんの」


 過去に何かがあったのだろう。縫香さんは頬杖をつきながら、うんざりとした顔で話していた。


「そんでさ、興味ないって言ったらさ、今度はこっちの性格が異常だとか言い出したり、他の女を連れてきて私よりマシだとか当てつけてきたり」


「それでヲタク系男子が好みに?」


「だって可愛いじゃん。女慣れしてなくて」


(この姉妹は、どちらも美人だけど、どちらも問題がある)


「私は、ごく普通な感じでごく普通な男性がいいなぁ。弓塚くんとか悪くなくってよ……従順そうで」


「今、最後に何か言いましたよね? 一番大切な条件ですよね?」


「そりゃあ、言う事を聞かない男なんて、存在が面倒よ……男は大人しくひれ伏せ」


 この人は魔女とか言っているが、本当は悪魔なんじゃないだろうか。

 あの顔を見る事もできなかった悪魔の手下も、襟亜さんの事を知っているような口ぶりだった。


(クロなんとかって……聞き慣れない言葉で呼んでたけど……)


「そ、そういうのが好きな人も居ると思いますけど……普通じゃない、ですよね」


「これ以上、私に何を譲歩しろと?」


「すいません、怖いんで睨まないで下さい」


(良かった……頬白で本当に良かった……)


「さ、真結ちゃん、買い物に行きましょうか」


「ひろちゃんも一緒に買い物に来る?」


 こっちは頬白の名前を言うのに、かなり気恥ずかしく感じるのだが、向こうはまるで呼び慣れているかの様に自然に俺の名前を呼んできた。


「いや、お暇するよ。悪魔についても、皆さんのお仕事についても、色々とお話を聞けたし」


 帰るとなれば、先に家を出た方が良いだろう。

 俺はすぐに荷物を持つと、皆に挨拶をして、頬白家を後にした。


 今回のこのライザリの一件は、俺の一言がきっかけになっていた。

 話題に困った俺が、頬白の弁当は襟亜さんが作ってくれてるのか? と質問したのが始まりだった。

 そこから本屋へと行く事になり、そしていつもより遠回りして帰った時に、あの男性に出会ってしまった。

 いつもと同じく、町田と共に帰っていれば、あの男性と出会う事は無かっただろう。

 そう思い返してみた所で、今が変わるわけでもないのだが……。


 とにかく、あの男性だけは二度と会いたくない。

 あの凍てついた空間が、どんな超常現象によるものかは分からないが、人間の領分を越えていた。

 魔女や悪魔、それに天使といった人智を越えた存在に対し、人はただ保護される立場にある様な気がした。


 玄関にあがり、帰宅の挨拶をすると、母さんが台所の方からいつもの様に挨拶が帰ってきた。

 今や、この家の中だけが、変わらぬ俺の世界の様な気がした。

 階段を上がり、肺の底から息を吐きながら、自分の部屋の扉を開けて中に入る。

 吐いた息はいつもよりも重く、空気に質量がある様な気がした。


「おっかえりなさぁい! ダーリン♪」


「…………君は、だれ?」


 部屋の中には客人が来ていて、ちょこんとベッドの上に座っていた。

 俺より歳は二つほど下だろうか? 見慣れない赤い色の髪が大きなリボンで結ばれていて、あどけない顔立ちによく似合っていた。

 着ている服は所謂ゴスロリというやつで、縞々柄のニーソックスを履いている。

 その女の子が俺に向かって、甘えた声で馴れ馴れしく呼びかけてきた。


「初めまして、リザリィです。これから一生よろしくね」


「リザリィさん……あの……俺はあなたの事を全く知らないんですが」


「あなたは何も知らなくて良いのよ、私の物になって欲望のままに生きればいいの。さぁ早速、肉欲の快楽に墜ちちゃいましょう!」


 そう言うなり彼女は俺の腕を引っ掴んで、ベッドに引き倒した。


「なななな、何をするんですか! 離して下さい! 俺には交際してる相手が居るんです!」


「そぉんなの知ってるわよ。まずわぁ、あなたをぅ、性奴隷にしてぇ。失望した彼女をぅ、私の妾にしちゃうわけぇ」」


「……もしかして、あなた、悪魔?」


「はぁい! だからリザリィって言ってるじゃない、のっ!」


 と言いながら、彼女は軽く俺の頬を平手打ちしてきた。

 全く痛くはないのだが、なんとなく嫌だった。


「リザリィ……???」


「あのね、、私ね、ライザリって呼ばれるの、嫌なの。あれはどっかの偉そうな魔法使いのオッサンがつけた、魔物としての名称だから」


「うわあ! ライザリだあ!!!」


「だから、ライザリって呼ぶなって、言ってるじゃない、のっ!」


 再び痛くない平手打ち。俺の顔はなんとなくだが、ぶたれた方向に向いてしまっていた。


「リザリィって可愛らしい名前があるの! さぁ、私の熱い抱擁とディープなキスから始めましょうか」


「うわわわ、だから、無理です。キスとかできません。まだした事も無いですし」


「ていうか大人しくしなさい、よっ! キスより先に下の方から調教して欲しいの!?」


「下って何!? うわあ、おーかーさーれーるー!」


 自称リザリィのライザリは、キスを通り越えて俺のズボンに手をかけていきなり脱がそうとしてきた。

 キスもまだなのに、いきなり大人の階段を昇らされそうだった。


「なんでこの子、落ち着かないのよ、チャームされないのよ、魔法が効いてないわけ?」


 苛ついた表情でそう言いながら、必死でズボンを脱がそうとする女。そしてそれに必死で抗う男。


「魔法には耐性があるんです!」


「あらっ、そうなの?」


 おや、という顔になったリザリィが俺の顔を見上げた。


「魔法が効かないのに、なんで頬白姉妹と仲良くしてるの? あなた、ただの人間でしょ?」


「まぁ……色々ありまして……」


「とりあえず、まずはえっちな事をして既成事実を作ってから詳しく話をききましょうか」


「だからダメですって!」


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