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すれ違う記憶


「頬白、放課後、ちょっといいか?」


「え? あ……う、うん……」


 町田が頬白に声をかけた事は、クラスの女子達には衝撃的な事だった。

 今まで、公用以外で自分から女子に声をかけた事なんてなかった。

 しかも町田は自分の机に腰をかけつつ、片足を椅子にあげて、わざとらしく格好を付けながら誘っていた。


「町田。お前はハンサムだと思う。格好いいと思う。でもそのポーズは変だ」


「変? 何が変って言うんだ? 俺は普通に頬白を誘ってるだけだぜ」


 町田はそう言いながら腰に手をやり、後ろ体重でモデル風の立ち方をしていた。


(誰だ? 一体どの小説の登場人物になりきっているんだ? もうやめてくれ、友達として何だか痛い、そして恥ずかしい)


「じゃあ、放課後、待ってるぜ」


「う、うん……」


 最後に町田は人差し指でばっきゅーんな感じのポーズを取ると、自分の席に着いた。

 頬白は頬を赤くして、困った顔で俺の方を見ていた。


 俺の記憶では、彼女とはほぼ初対面であり、口も聞いた事の無い他人だった。

 昨日の朝、初めて彼女を見た時にも思ったが、やはり彼女は可愛いと思った。


 始業のベルがなり、生徒達はそれぞれ自分の席につく。

 町田も奇妙ななりきりをやめ、いつもの、無表情で頭の良い生徒に戻った。


 休み時間の間、頬白はクラスの女の子から町田との関係について聞かれていたが、自分もよくわからないという風な返事をしていた。

 その姿はとても風景に溶け込んでいて、頬白とクラスの女子達は親しい友達の様に見えたが、その割には彼女達は頬白の事を何も知らない様に見えた。


 授業が終わって下校時刻になると、町田は席を立ち、鞄を背にかけて教室を出て行こうとした。

 そして教室を出ようとした時に、立ち止まり、頬白の方を振り返って言う。


「おっと大事な用を忘れる所だったぜ、今日はレディを送っていく約束だったな」


「町田、お願いだから帰ってきてくれ」


 鞄を肩にかけ、さりげなく肩で風を切って歩くという演出まみれの不自然な歩き方をしている町田の後ろを、俺と頬白が仕方無く付いて歩く。


 今日一日、頬白の言動を見ていたが、優しくてよく気がつき、親切で朗らかという非の打ち所のない子だった。

 まさしく、彼女のするならこんな女の子、と男子が口を揃えていう存在だった。

 だというのにクラスの男子達は、さして気にも留めない風に振る舞っていた。

 どこにでも居る、ごく普通の可愛い女の子、という程度だった。


「あの……頬白さん……」


「はい……何ですか?」


「俺の家の隣に……住んでいるんですよね?」


「ええ、はい」


「い、今まであんまり、話をした事って無かったですよね?」


「そ、そうですね」


「あの……俺と町田の事って、どれぐらい知ってます?」


「えっと……あ、あんまり……いいお友達だってのは知ってますけど」


 そこまで話をして、俺は自分が一体何をどうしたいのかが分からなくなってしまった。

 この頬白真結という女の子に、何をどう聞けばいいのだろうか。

 町田に話したように、突然自分の家の隣が別人の家になったと言えばいいのだろうか。

 そして、君は誰なんだと聞いて……そんな質問をして、その後どうするつもりなのか。


(町田、お前はどこに向かってるんだ? 一体この状況をどうするつもりなんだ?)


 そもそも、異変の発端は俺自身であって町田ではない。

 記憶に矛盾がある事から、町田も異変に気づいたのであって、もし俺が言い出さなければ何も変わらなかっただろう。


 学校を出た俺達は繁華街の方へと向かっていた。

 この町、御鑑市は大都市の近郊にある小さなベッドタウンだった。

 駅を中心に市街地が広がっているが、大きな建物は駅前のスーパーぐらいで、その他には大して何も無い。

 駅前銀座と呼ばれるとおりの半分はシャッターが降りていて、開いているのは飲食店ぐらいだった。


 その繁華街の脇を通りすぎて少し歩くと、公園に着く。

 ブランコ、ジャングルジム、滑り台、砂場と一通り揃った大きめの公園だった。


 町田はその公園のジャングルジムの近くまで行くとようやく足を止め、鞄を地面に降ろした。


「ここは、この町の中心近くにある公園だ」


 町田はジャングルジムに片足をかけ、またわざとらしいポーズをしながらそう言った。


「なぜ、ここに連れてきたか、分かるよね?」


 頬白の方を見ようともせず、町田はそう言う。

 俺はもったいぶった言い方だな、と心の中でうんざりしながら頬白の顔を見た。

 彼女も困った顔になっていることだろうと思ったが、そうではなかった。


「……」


 頬白は目を見開き、凍り付いた表情で地面を見下ろしていた。


「頬白……さん?」


 俺が呼びかけても、彼女は何も答えなかった。


「町田……これは、どういう……」


「ここはオカルトマニアには有名なパワースポットだ。ここは元々戦場跡で、多くの侍達が死に、そして地縛霊になって取り憑いているという」


「そ、そうなの?」


「建築工事をする度に事故が起きた為、やむなくここは公園になった。そして、そこにあるのが霊力を抑える鎮守様だ」


 町田は左手で自分の頭を覆うように乗せ、そして右腕をピンと伸ばし、手首から先だけを下へと曲げて指さした。

 その先には、公園の端の茂みに置かれたお地蔵様があった。


「魔法を使う者なら、ここが何の場所か知ってるよね?」


「頬白さん……?」


「わ、私……」


 前進を小刻みに震わせていた彼女は、緊張の限界を突破し、その場から逃げ出すように走り出した。


「トイレ行ってきます!!」


(そっちか!!!)



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