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読書家の彼女は映像系


 校門を出て駅近くの繁華街まで歩いた時、町田は片手に持った本を閉じると、俺達の方を見て言った。


「じゃ、俺はここで。また明日」


 何か個人的に用事があって、こんな風に別れる事は、今までにもよくある事だった。


「ああ……あの、町田。今度さ、俺達にも来島さんを紹介してくれよ。勿論嫌じゃなければ、の話だけど」


 それは、ほんの好奇心から出た言葉だった。

 特に大きな意味はなかった。ただ、自分の友達が交際している女性が、どんな人なのかを知りたいと思っただけだった。

 町田がそれを嫌がるなら、それ以上踏み込む事はなかった。

 そして町田がそれを拒むなら、今後、この話は二人の間ではタブーに属する話題になるだろう。


「ああ……いいよ……じゃあ、来る?」


 素っ気なくそう返事してこちらを見た。その言葉の意味するところは、今から彼女と会うという事だった。


「お邪魔じゃなければ」


「いや、俺の方は全く問題無いよ。むしろそっちはいいの?」


 と問われて、町田は俺と頬白の事を気にして、ここで別れると切り出したのを理解した。


「あ……えっと……頬白は……どう?」


 俺は自分の事ばかり考えていて、頬白に気を遣っていなかった。


「え? あ、う、うん……いいよ」


 明らかに二つ返事で答えた頬白が、作り笑顔でそう答えた。


「この先で待ち合わせてしてるから」


 町田はそれだけ言うと、踵を返して歩き出した。


(頬白ごめん、勝手に話を進めちゃって)


(うん、いいよ。い、色々と興味深いし……)


(興味深いって……頬白もなかなかどうして……)


 俺の中では、頬白は人間の良心を詰め合わせた天使の様な存在だった。

 そんな彼女が、町田の彼女に興味があると言う。

 作り笑いなのか照れ笑いなのか、どちらともとれる頬白の表情を見て、少し身近な存在に近づいた様な気がした。

 彼女としては単に、自分の魔法が産み出した存在がどんな人間なのかを見てみたかっただけかもしれない。


 御鑑駅は一階にホームがあり、改札口は階段を上った二階にある小さな駅だった。

 駅の西側は開けていて繁華街が広がり、バスの停留所もある。

 東側はさほど開けてなく、民家が建ち並び、駅に面している道路沿いに飲み屋が数軒並んでいる程度だった。


 国道沿いに駅へと向かうと、この駅の西側につく事になる。

 バスの停留所を越え、改札口へ昇る階段も越えると、その向こうにドラッグストアがあり、その前に金髪の少女が立っていた。


(遠くからでも目立つなぁ……)


 10メートル離れた所からでも、ブロンドの地毛は十分に目立っていた。

 その隣を染色した金髪の若者が歩いていたが、それと比べても違う色味だった。

 日本人がどうかを問わず、黒髪、茶髪の人達が綺麗に金髪にするには、一度脱色してプラチナブロンドと呼ばれる白金にしないといけない。

 その為に髪はバザバサになり、艶やかな髪とは無縁の人形の髪みたいになってしまう。


「こんにちわ、町田君」


 笑顔でそう言った来島かしこが、滑らかに陽光に煌めく長髪を踊らせてこちらを見た。


「やぁ。今日は連れがいるんだけど、いいかな?」


「ええ、構わないわよ。初めまして、私、来島かしこって言います」


 口元に微笑を湛えながら、愛想良く挨拶する彼女に、僕達はおどおどしつつ返事をする。


「はじめまして……町田の幼なじみの、弓塚弘則です」


「初めまして……ま、町田君の、幼なじみの、頬白真結です」


 頬白が、俺の挨拶をなんとか真似しようと、辿々しく挨拶していたのが可愛かった。

 未だに、幼なじみという言葉がすぐには出てこないのだろう。


「もしかして三人とも幼なじみなの?」


「そうだね。小さな町ではよくある事だよ」


「そうなんだ。私、最近ここに越してきたばかりだから、友達もいなくて」


 町田と来島は打ち解けた友達同士の様に話をしながら、どこかへと歩いて行く。

 その後を俺と頬白が黙ってついていった。

 先導する二人は繁華街の中を抜け、家電の量販店へと入っていく。

 夏までまだ少しあるこの時期、量販店の売り場のメインは既にエアコンで溢れかえっていた。


 町田達二人は、俺達には聞こえない程度の声で、何かを話しながら先へと進んでいく。

 エアコン売り場の横には扇風機とサーキュレーターが展示されていて、そのうち幾つかが涼しげな風を送ってきていた。

 そしてその向こうには音楽と映像関係の売り場が見えた。

 二人が直行したのはDVDの売り場で、新作の棚の所につくと、色々と物色し始めていた。


「町田の家って、DVDは無いよな?」


「うん。家族は皆、ビデオもDVDも見ないし録画もしないから必要無い」


「あ、そうなんだ? 私の家は皆で見るんだよね。お母さんがレンタルとかよく借りてきてるし、お父さんは野球とかサッカーとか一生懸命録画してる」


 その風貌とは対照的に、とても庶民的な家族の有様を笑いながら話す来島。

 実の所、俺の家もその通りの普遍的な両親だった。

 母さんは流行のドラマをレンタルビデオで借りてくるし、父さんは映画を見たり、オリンピックなどは予約して録画していた。

 これは、町田の家とは少し対照的だった。


 町田が皆に嫌われにくい理由の一つに、実家がとても素朴で質素な所がある。

 周りが携帯用ゲーム機や或いはトレーディングカードゲームで遊んでいても、町田はいつも本を読んでいた。

 町田が高価な服や持ち物を身につけた事は無いし、自慢をした事もない。

 何一つ派手な遊びもせず、進学塾に行く事自体が流行みたいなご時世でも、塾通いしているのを見た事は無い。

 悪口を言おうにも、そのネタに困ってしまうぐらいだった。

 ただ一つ、町田の家が他の家に比べて抜きんでているのは、父親の持っている車ぐらいだった。


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