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何も知らない神の子  作者: 三村春明
引きこもり
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8

 美しい野原を俺とアリスはひたすらと歩き続けていた。

 その間に俺とアリスは互いのことを確認しあうかのようにそれぞれのことを話した。しかし、実際のところ俺もアリスも嘘は言っていないが確信までは互いに胸の内に秘めていると俺は思う。その確信とはいわゆる、俺のことである。

 そして、大きくまとめれば今までのことだ。

 今更、過去に未練などはない。

 どうして、俺はあんな無関心に一日を過ごしていたとかも、もうどうでもいい。こんな異世界に来てしまった以上、あんな風に初音のことや幸恵のことを忘れてしまう『魔法』のようなものがあっても不思議ではない。

 ここにきた方法だってそのような類に違いはないだろう。


 ―――完全なるファンタジー世界。


 本やゲームでしかありえないとこに俺は今いるのだから。

 そんなことを思っていると、ふとアリスが視線を変えることなく話しかけてきた。


「そういえば、言っておかないといけないことがあります」


 俺はパッとアリスの美しい横顔に目をやる。


「あなたのことについて、です」


 と、アリスはいう。

 まるで今まで俺が考えていたことがわかっていたかのようだ。

 しかし、そんなことはどうでもいい。アリスが俺のことについて話してくれるというならぜひとも聞きたい。


「まず、あなたは神です」

「……」

「ちょっとだけ、間違えました。神の子です」

「……神の?」


 アリスは俺が答えると首を縦に振る。どうやら、そういうことらしい。俺は神様の子供。ゴットチャイルド……。

 ということは俺は幸恵の子ではない――?


「昔話をします」

「頼む」


 俺はぐっと息を呑みこむ。そして、アリスはそんな俺の表情を確認するかのごとく振り向き、語る。


「昔、この世の中には神が存在しました。神とはいわゆる、この世の断りにすわる存在。この世の流れを変える存在として神は存在していました。いわゆる、なんでもありな存在だったのです。人間界がうるさければ雷を、魔界を滅ぼしたければ戦争を……。過去にはそんな神もいたそうです。ただ、私も生まれてきてまだ十数年です。過去に何があったかなんてどうでもいい一人と思ってください」


 アリスはそう、神について語る。

 俺が知る神とはいわゆる、みんながお祈りするような励ましいことだと思う。アリスは過去にはといったから俺が知っているような神もたくさんいたはずだ。ただ、それが全部そうだとはいえないらしい。


「それで、俺とどう―――ま、まさかっ」


 まさか、今の神まで世界を滅ぼそうと? いや、もしそうだとして、なぜ俺がここに……? 俺が何とかできるようなことでは――。


「ごめんなさい。勘違いです。今、歩夢がご想像しているようなことはありません。……でもしかし」

「な、なんだ……」


 安堵、とは別の何かわからないがそんなあいまいな相槌を俺はした。もしかすると、俺はまだ心のどこかでこんな世界なんて壊れてしまえばいいとか思っているのかもしれない。いいや、思っているに違いない。そんな感情さえ忘れてしまえば本当に生きる意味をなくしかねない。一度捨てた人生。もし、やり直せたらとするなら俺は――。

 アリスは続けて語る。


「そして、そんな神の跡継ぎは必ず男児という条件がありました」

「そ、それが……」

「しかし、そんな神の間にアクシデントがありました。男児を授かることができなかったのです」

「そんなことって」

「ありえません」

「じゃあ……――まさか」


 そう。もし、アリスの言っていることがすべてあっているのなら神は自らの子さえ選択できるはず。そんなアクシデントなんて起きるはずがないのだ。もし、そんなことが起きるとするなら思い当たる節は一つしかないはずだ。


「神は女児を願ったのです」

「だ、だとしても――」

「神の力は現役の神にしかありません。そして、子が授かればその力も自然と子にいきます。それが今までの神だったゼウス・アルナ。そう。あなたの『母』幸恵さんです」

「ッ――!?」 


 宙を舞う感覚が俺を襲う。まっすぐに直立していられない。俺はその場でふらふらとしながら視線を泳がす。

(うそ、だ……。うそだ……)

 そんな思いを抱きつつも俺は過去を振り返っていた。

 今思えば、奇跡でも起こらないとどうにかならないようなことなどたくさんあったかもしれない。

 そう、あの時だって――。初音が事故にあったときだって間違いなく即死という状況の中、半日初音はがんばった。いや、もし、幸恵に神の力があったとしたなら初音は――!


「ああああ――――――!」

「ただ、幸恵さんが神になるために前回の神はそうとう地位を落としてしまいました。そして、あろうことか……父が得意した神ならその子も得意した一面を持ちました」

「俺は俺は――」

「少し落ち着いてから話しましょう」

「いや、続けてくれ。その先にあるんだろ? さち、母さんが初音を助けられなかった理由が」


 アリスは相槌を打ち、話を続けた。

「あろうことか幸恵さんは人間界の人間に恋をしてしまいました。そして、願ったのです。人間になりたいと」

「………」


 喉まで出かかっている言葉はこれ以上絶対に出てこないだろう。理由は何も思いつかないから。納得すればいいのか、反論すればいいのか、出来損ないな俺にはわからなかった。

 ただ、そんな感情の後にやってきたのはなんとなく暖かいそんな感情だった。

(ふっ。なーんだ。人生案外楽しんでんじゃん)

 ということは幸恵は力を失った? いいや、そういうことにしよう。


「幸恵は人間になり、その男性と結ばれ、そして、あなたが生まれた。あなたはそういう人なんです」


 人、か。


「なあ」

「なんでしょう?」

「俺がここにいるということは俺にも神の力とかがあるってことでいいのか?」

「そうですね」

 なるほどな。これで俺が人生をやり直そうと思った意味はなくなる。

 ほんと、死ぬまで親不孝者だよ、俺は!

「なあ、アリス」

「なんでしょう?」


 こんなこと俺の人生で一度もなかった。初音にすらこの思いは伝えていないのだから。だが、しかし、その言葉は自然と自分の口から出てきた。


「俺、アリスのことが好きだ。たぶん、初音よりも」

「……」


 俺はアリスにそう告発した。


「……」


 俺の愛の告白を受けたアリスは……。


「おーい」

「……」


 なぜか、俺の瞳をとらえてぼけーと突っ立っていた。


「アリス!」

「は、はい!」

「ぷっ、ぷは」


 アリスの呆けた返事につい大笑いをしてしまう。


「なっ、な――!」

「はははっ。悪い。肝心なこと言ってなかった」

「か、かかかかんじな、こ、こここ!?」


 アリスはまるで燃え上がるマグマのごとく顔を染める。こんなにかわいいのに告白される経験は零のようだ。そこら辺のバカどもが出会いがしらに告白してそうなのに。あ、実際、俺もその一人だ。アリスに一目ぼれした。


「――世界をぶっ壊すために俺についてきてくれ」

「……」


 結局のところ、俺はこの世界が許せない。

 前々回の神、いわゆる、俺の叔父がイレギュラーで母もイレギュラーならその子もイレギュラーってことだ。

 そんな俺の問いかけにアリスは。


「私もそのためにあなたをここに呼びました」


 アリスはにこやかに俺の誘いに了承してくれた。

 


 そして、二人はしばらくの間、互いに顔を染め笑った。


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