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何も知らない神の子  作者: 三村春明
引きこもり
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5

 白いベッドの上、白い空間。間違いなくそこは保健室だ。




 かすかに薬品のにおいが鼻に刺激する。それと、かすかに甘い香り……。


「ん、ん~。つね、ちゃん。あゆ――……むごむご」

「玲奈か?」


 俺の隣で玲奈が寝ていた。そして、なぜかスカートとブレザーのボタンとリボンをはずしている。

 いわゆる、下着がもろみえ、丸見え……。

 そんな玲奈の下着に俺は……。


「……ふん」


 なんの感情もわかなかった。玲奈の下着が子供っぽいというところも考慮して考えてもおかしなくらい無関心だ。死んだ魚の目で俺は玲奈の下着を瞳に焼き付ける。


「ん~。わたしだって、わたしだって、成長したもん~……歩夢が振り向いてくれるくらい成長したもんっ……」

「……」


 今のは聞かなかったことにしておこう。うん。それがいい。

それに、他人に深く鑑賞する気など全く俺にはない。それが幼馴染の玲奈であろうと対応に大差など応じない。

 玲奈が起きないように俺はゆっくりとベッドから抜け出し、教室へと向かう。

 時間はすでに五時を回っている。

 そんなことを思いながら俺は教室へと向かう。

 夕焼けに照らされ、ほのかに橙色を漂わせる廊下を歩きながら俺は一体、何を考えているのだろうか?

 屋上のこと、玲奈のこと……計画とは一体……――そして


「初音」


 初音は一体何者なのか。何も覚えていないはずなのになぜか俺はそんなことをふと思っていた。

 初音が何者なのか? そんなことは簡単で俺の義妹だ。

 それだけで何もかもが解決してもよいはずなのにどうしても何かが引っ掛かってしまう。


「初音は妹……初音は俺のおさ――まあいい」


 何もかもがどうでもよくなり俺はそこで思考をやめる。

 教室に着くと、そこには初音の姿があった。


「お兄さん。やっとお目覚めに」

「ああ、待っててくれたのか? すまないな」

「……はい。それより、何か言いたいこととかありますか?」


 初音はなぜか澄んだ瞳で俺をとらえてくる。何かを覗き込もうと、初音は今、そんな眼光を俺に向けている気がする。


「ん? 別にないぞ?」

「……わかりました」


 俺がそう言っても初音はしばらく俺から目を離そうとはしなかった。

 それから俺たちはともに学校をでた。残念ながらそれ以降、太陽の位置と俺と初音の位置関係で初音の顔をよく見ることはできなかった。

 








 コンビニ弁当を二人分買い、俺と初音は家へと帰宅する。その途中、保健室に置き去りにしていたはずの玲奈と遭遇した。

 玲奈は顔をプンプンに膨らませ、まるで赤い出目金のような表情を俺に向けてくる。


「……起こしてよ」

「……」


 しかし、その表情とは裏腹に玲奈の言葉には怒りを感じない気がする。

 切なさ、

 そう表現した方がいいのかもしれない。

 玲奈は俺と初音が無言でいることに耐え切れなくなったのか、あたりをきょろきょろしだす。


「むむ、むむ……はぁ……」


 最後に大きなため息をついて玲奈は俺の横へと移動する。

 今までの玲奈の態度をどうとらえたのか、今度は初音が俺に語りかけてくる。

「お兄さん、玲奈さんは今までお兄さんを看病してくれていたのですよ? もしかして、何も言っていないなんてありまえんよね? お礼の言葉」

 初音はなぜか遠い夕焼け空を眺めながらそう言ってくる。心ここに非ずと言ってもいいのかもしれない。しかし、なんとなくだが、妙な感覚が俺に押し寄せてきた。一言で表現するなら殺気、ではなく、悪寒、だと思う。


「そ、そうだったのか。俺の布団に一緒に入っていたからてっきり襲われていたのかと思った」

「「にゃんどぅわってっっ!?」」


 一体、誰と誰の声だったのだろうか。そんなの疑問に持つまでもない。俺の左右にいる二人だ。


「ややややっ! やっぱり玲奈ちゃんに任せたのが失敗だったぁ! 私がやるべきだったぁ!」

「ぬぁああっ! ななななにもしてございませぬぅぅうう!?」

「歩夢が寝ているからといい気になって! はっ!」

「つねちゃん、おちつえええええええええええ! 私は何もやってない! はっ!」


 二人は何を思ったのか両方同時に俺の方を向いた。俺の顔に何かついているのか?

 そんな疑問を持ちたいところなのだが、どうしても俺はそんなことどうでもいいという感情に流されてしまう。


「はぁ。帰るぞ」


 俺がそういうと、二人はなぜか安堵の吐息を漏らした。初音のキャラが変わることは今日の学校でわかっていた。玲奈は昔からこんな奴だったと思う。こうやって、いつも二人で………。


「二人が昔なじみなわけないだろ。バカだな俺は」

「――ッ!」


 気のせいだろうか。俺のその言葉に初音が大きく反応したのは……。








 高倉家に着いた瞬間のできことだった……。

 俺たち三人はこの世とは思えない力によって、引き寄せられてしまった。

 壁に激しくぶつかり、普通なら痛みを覚えるはずなのに俺にその感覚はなかった。微かに息苦しさだけを感じ、俺は立ち上がる。

 それと同時に初音が口ずさむ。


「ゲホッ! あ、あなたは……。ど、どうして、ここに……」


 初音の声はかすれかすれで聞きにくい。それほどの衝撃を初音は受けているということだろう。


「なん、なんだ……」


 視点が回り、俺は軽く頭を抱える。と、その時――


「お帰りなさい、新たな神。いいや、歩夢」

「ッ!? おま、え―――――あああああああああああ!」


 誰だかわからない美しい声の一言で俺は悶え苦しんでいた。


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