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8:歪なアーギュメント(It's beat argument)。


 8



「仁王立ちでお出迎えか、お前らしい」

「待った、待ちかねたぞ。ツキ。十分くらい待った。ははは、そこまで待ってはいないのにこんなに待ち遠しいとは思わなかったぞ」

「いや、僕はお前に待っててくれとは言ってなかったからな。帰ってもよかったんだぜ」

「いやいや、ツキ。お前は言っていないが私は言ったぞ。ココで待っていろ、とな。場所は変わってしまったがな。いやー、やはりとは思ったがやはり逃げ出したか」

「逃げたという言い方は適さないぜ。別に逃げたわけじゃないさ。退屈だからサボっただけだ」

「それを逃げと言わずになんという? 抗う勇気か? 笑わせないでくれよツキ。屁理屈を言ってどうするんだ」

「円、お前は生徒会長になるべきじゃない」

「ほう、この女に吹き込まれたか。ツキ、ツキは私だけの友達だったじゃないか。どうして裏切ったりしたんだ? いつもお前だけが味方で、いつも違う見方をしてくれたじゃないか。昔から、さ」

「なんでだろうな。お前、さ。自分が人を納得させられるっていう才能のこと、実は昔から気づいていたんじゃないのか?」

「何でそんなことを聞く?」

「聞きたいからさ。それ以上に理由も意味もない」

「正直だな」

「お前相手に隠しても、な。意味がない。というか今更だよそんなことは」

「そうだな、自覚はあったよ。確信はなかったがな。核心に近づいたのは中学の時だったかな。父と喧嘩をした時だ。些細な喧嘩だったが私も父も引かず、両者は対立するばかりだったんだ。数日間、父とは口を利かなかったよ。しかし父はある日突然私の言ったことを理解してくれたんだ。理解というか和解が正しいかな。数日間考えたら、お前の言ってることも正しいような気がしてきたよ。いや、私が間違っていた、すまない、とね。小学生の頃も揉め事の起こるたびに必ずと言っていい程相手が折れていたからね。気づくのは容易かったよ」

「そうか」

「そうさ」

「でも、それは間違っていると僕は思う」

「まあ、正論だな。相手の価値観・考えを捻じ曲げているようなものなのだからな」

「うん。だから生徒会長になるのはやめてくれないか」

「それとこれとは話が別だ。私は何も世界を牛耳る為に生徒会に属し、生徒から、町へ、町から県へ、県から国へと理解を広め、私を理解してもらおうと考えているわけではないのだ。ただ、人助けがしたいんだよ」

「漫画みたいに、か?」

「ああ、あの主人公みたいにな。だけどそれは一人ではできない。だから、お前の力が必要だ、ツキ」

「そうか、断るよ」

「なら、納得させるさ」

「それは無理だな、円」

「ほう、理由を聞こうか」

「理由なんて今更無意味だけどな。理由は、僕はお前を理解する気が無いからだ。僕はお前を認めない。理解もしないし許容もしない。承知しないし承諾しない。頷かないし促されない。意味も根拠も理由も無いが、僕はお前という人間、竃円を否定するよ」

「そうか。なら私は、私、竃円は全身全霊をかけて愛を込めて心を込めて情を込めて熱を持ち信念を持ち魂をもかけ、命もかけてお前を納得させて見せよう」

「二人とも、随分と歪んだ人間だ、反吐が出る」

「でも、私は歪んでいようとお前の事が好きだぞ、ツキ」

「そりゃ最高の戯れ言だよ、円」

「それはよかった」

「円。不正ってどう思う?」

「不正? ああ、ドーピング事件の事を言っているのか。私の考えは変わらんよ。不正は間違っている。けれど――間違えてはいない。勝つために手段を択ばないというのは勝利にそれほど執着したという事だ。自分にとって大切なものに命を掛けられる。時に罪なども気にせず目先の目的に一直線になれる。これは素晴らしい事だと私は思うよ」

「そうか。でも不正は犯罪だ。フェアじゃないんだよ。物事はフィフティ・フィフティじゃないと成り立たないんだ。そりゃ、ハンデを担う時もあるけれど、例えばリレーだってコースの外側と内側でリードできている距離が違うだろう? あれと同じなんだ。すべての事は平等じゃなきゃいけない。違うか? だから円。お前の言っていることは我儘だよ。漫画に憧れました。でも一人ではできません。協力が必要です。でも僕じゃないとダメです。でも僕は嫌がっています。でも無理にでも納得させます。これじゃただの独裁者だよ。お前は支配はしないと言いながら真っ先に僕を支配しようとしたじゃないか。屈服させようとしたじゃないか。僕の意見も聞かずに。もう一度言おうか。僕は、お前という人間、竃円を否定する。僕を認めない限り、僕はお前を認めない。これがフィフティ・フィフティだ、円」

「ふむ。つまりは等価交換、人に名を聞くのならばまず自分から、という事だなツキ。だが、それは負け組の発想だよ。そういう考え方のやつは負けている。既に負けている。相手に隙を求めている時点で負けている。それではいつか滅びる。勝てなくなる。先手必勝だ。ツキ。平等だとかそういうことを言っていては勝てない。戦いにも人生にも勝てないんだよ。私は平等は好きだよ。むしろ差別が嫌いだ。そのお前の考え方、一件平等に聞こえるが、実は大いなる差別の塊だぞ。負け組の発想と言ったら分かりやすいかな。そいつらは負けたくない、という気持ちに理由をつけて怖がっているんだよ。戦う前から負けることを考えている。そんな奴は戦ったって勝てるとは思わないけれどね、私は。」

「戦いって言うのは常に二手三手先を呼んで行うもんだぜ、円」

「それは勝ち筋が決まっているものだけさ。読みが必要になるものは大抵パターンがある。選択肢がある。それが無いときは読みなど不用さ。まあ、予測は必要だがね。読みと予測は似ているけど違う。博打打のようなことを私はしないんだ」

「なら、僕が次に何を言ってくるという事をお前は予測していないんだな?」

「予測、というよりは予想さ。これこれこうであるだろう、ということは想像しておく。だがそこから他は何も考えない、その場で適応するのさ」

「だとすれば大した言い回しだ。よくそこまで思いつきで舌が回るもんだ」

「人生は行き当たりばったりに生きるのが楽しいらしいからな」

「なら、ここで躓いてくれ。人生って言うのは躓くもんだ」

「そればっかりは首を縦に振れないよ。この歪な議論はきっと私たちが死ぬまで続くと思う」

「お、珍しいな。お前と意見が合うなんて。僕もそう思っていたところだ」

「両者ともが絶対に退かない、からな」

「ああ。言えてる。僕たちは相性が良くて仲が良くて互いが互いを知っていて、互いが互いを好きあっていて、どこか似ていてどこでも一緒だ。だからこそ――性質が悪い」

「ふふ、言えてるな」

「で、だ、円。お前人を助けたいんだよな?」

「ああ、勿論だ。人という人の役に立ちたい」

「僕も、人間なんだよ」

「ああ、そうだな」

「助けてくれよ」

「ああ、いいとも。ツキならいつだって助けてやるさ。今回の事は納得できないが、ツキには協力するぞ」

「そうか、なら僕を助けると思って――――」

「僕と一緒に生徒会を辞めてくれ」


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