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7:それとなく(So,Let's now ark)。



 7



 しかし、考えてみれば納得とはどういうものの事を言うのだったっけ。

 相手の言っていることを認めるだとか、自分の考えを曲げて折れる事、ぐらいの認識しか僕にはない。

 だがしかしそれを自由自在に使えるとしたらどうだろう。

 想像するにしてもおぞましい能力だった。言霊より強いと思う。言霊なんてものがこの世に存在するのか僕は知らないけれど。

 さて。僕が秋野先輩から誘惑されている間に、学校では色々と面倒事が起こっていたらしい。

 一つは、増梶拓斗先輩が竃円の手に落ちたことだ。

 単純に、ただ単純に落ちたといえば、『負けた』という事に直結するが、実は違う。負けて尚、利用される。もっとわかりやすく言えば、寝返ったのだ。

 ようするに裏切り――だ。

 彼女に納得し、彼女に賛同してしまうというのはそれはとても恐ろしい事だ。

 彼女に忠実な(しもべ)と化した人間は迷いがない。伊達や酔狂じゃない。

 本気も本気超本気だ。

 ロボットより恐ろしい。

 まあ、多分人を傷つけるような命令は竃は出さないだろうけれど。これは例え話だ。

 先刻、秋野先輩とお茶をしている最中に知らされたこの情報だが、落ちたのが拓斗先輩ということがかなり痛い。らしい。

 拓斗先輩は裏表の激しい人間らしく、オンオフの切り替えが激しいらしい。

 オンの時は殺人さえ躊躇しないまでに凶暴な性格になり、オフの時は殴られようが蹴られようが絶対に抵抗もしないらしい。

 らしい情報ばかりなので僕は困っているらしい。

 そんな遊びをする余裕くらいはあった。

 僕は今秋野先輩とお茶をした喫茶店を離れ、学校に戻ってきていた。

 なんでも、拓斗先輩が落ちたことにより、学校自体が既に危ない、とのこと。秋野先輩の話だから信憑性のかけらもないのだが。

「まあ、とりあえずは行くしかない、か」

 時刻は五時半過ぎ。僕は学校の生徒会室の前にいる。

 携帯に着信が入り、確認してみると秋野先輩だった。

「もしもし、十六夜くん? 今はもう学校?」

「はい。生徒会室前にいます」

「竃はこの中なんですよね?」

「ええ――、情報によれば竃円は生徒会室でふんぞり返って椅子に腰かけている、らしいわ。これは生徒会役員からの情報だから間違いはないと思ってもらって結構よ」

 ほう。それは心強い。この部屋に竃円がいるのなら話せばそれで終わりなのだから。

 拓斗先輩に会わなかったのが救いだった。

「あ、でも増梶くんには気を付けてね。今彼、オンらしいから」

「……そういうことは最初に言ってください」

 そんなオンラインゲームで今やってるよ! みたいな気軽さで言わないでくれ。

 言わば殺人マシーンがいるようなもんじゃねえか。まあ、出会わなかったからよかったけど。

「しょうがないじゃない。ついさっき分かったんだから。じゃあ、健闘を祈るわ」

 そう言って先輩は電話を切った。

 ふう。

 ため息を吐く。竃円以外の事でため息を吐いたことがないくらいため息をしている気がする。

「さて……、行こうか」

 僕は生徒会室のドアをゆっくりと開ける。

「おーい、円……、いるんだろ? 話をしよう」

 少しずつドアを開けると、部屋には誰もいないという事が確認できた。

「…………?」

 ドアを閉め、影という影を探しても竃円の姿はなかった。竃、というより誰もいない。

 昨日入ったときみたいだ。

「いない……、よな」

 念のため掃除用具入れも開けるが、竃円はいない。

 どこにも。

「まさか、秋野先輩嘘吐いたんじゃ……」

「ン~、半分当たりで半分外れだな、イザヨイよお」

 僕の独り言に反応するように声が聞こえた。

 振り返っても其処には誰もいない。天井にも。室内には居ないはずなのに室内から声がしている。

「アキノは嘘を吐いちゃいねえさ。嘘を吐いたのはあいつに情報を与えた生徒会の役員だよ、イザヨイ」

 辺りを見渡しながら警戒する僕に声は軽快に話す。

「お前さあ、時代劇とか見たことあるか? ああいうのの忍者って縁の下から人を殺したりするんだよなあ!」

「!?」

 声と共に地中から、否――床から手が出てきた。右手には日本刀を持っている。細身にしなったこの腕は、おそらく。いや、確信を持って言える。

 そこにいたのは、オンになった増梶拓斗だった。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいぃ!!!! お前ちったぁ驚けよ、せっかく作った隠し通路なのによぉ……」

 わざわざ作ったのか……。そちらのほうに僕は驚いたが。

「あの、竃円ってどこにいますかね」

「ここに俺がいるってことは、お前もうわかってんじゃねーのか? イザヨイよお」

「いえ、まったく」

「カッ、これだからひ弱なやつは……ああ、面倒くせえ。つまりはだ、イザヨイ。俺に勝ったら伊庭夜を教えてやるよ、カマドマドカの居場所をよ!」

 なんだかお決まりな展開だった。

 というかこの人オンとオフでだいぶ違うな。オフの時はホテルマン並に丁寧だったのに、今じゃ大工の頭領より言葉遣いが荒い気がする。都会にこういう頭の悪そうな不良がいそうな気がするのは僕が田舎者だからだろうか。

「さあ、始めようぜイザヨイ。俺ぁひさーびさに暴れてーんだよ。おい。日本刀なんて振り回すなんて何年ぶりだろうなぁ!!! ひゃはは!!」

 日本刀を過去にも振り回したことがあるのかこの人。

 秋野先輩、確かに生徒会は異端ばかりですね。あなたといい、この人といい。

 まあ、人のこと言えないけどさ。

 さて、ここで一つ疑問があったのでそれを増梶先輩に突きつけてみる。

「さて、倒すっていいますけど、先輩。どうしてそこからでないんですかね」

 と僕。

 増梶先輩は、腕を出しただけで他の部分はしまっている、というか床から出ていない。腕だけがマドハンドのように地中から生えている。

「ひゃはは、そりゃ簡単だイザヨイ。俺は腕以外こっからでらんねーんだよ! まいったか! ひゃははは! ん? あれ、俺腕しか出ないんじゃお前をきれねーんじゃねえか! おいおいおいおいおいおいどうすんだよ! これじゃこいつを殺せねえじゃんか! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「……」

 馬鹿だった。

 そこにはひたすら日本刀を振り回す謎の腕があった。日本刀を投げ、僕を攻撃しようと試みた動きもあったが、僕の位置がつかめていない状態では意味がなかった。

 暫くして、日本刀も手からこぼし、先輩は無言になった。

 空しさとシュールさと、日本の腕が残るだけが残る床がそこにはあった。

 これは見るに堪えない。

 僕は部屋を後にし、自力で竃円を探すことにした。

 先輩は僕が去っても特に何もいう事なく、ただ腕が床から伸びているだけだった。

 異様にシュールな光景を見てしまったので忘れていたが、秋野先輩は大丈夫なのだろうか。

 嘘を吐かれた、ということは先輩の身にも何かあっても不思議ではない。心配することでもないが、僕は先輩と約束をしていたので、それがなくなっては困るのであった。

「まあ、殺しはしないだろうけれど一応、心配しておくか」

 僕は携帯電話を取り出し、秋野先輩に掛ける。すると数コール後につながった。

「ああ、もしもし僕ですけど。秋野先輩、大丈夫ですか?」

「ああ、ツキか。秋野なら無事だよ。特に何も手は出していない。まあ、足は出したけれどな――」

 電話から聞こえたのは秋野先輩ではなく、僕が探すべきの竃円の声だった。

「円、先輩をどうした」

「ちょっと足を出しただけ、だ。特に乱暴なことはしていない。今のところは、な」

「そうか、で、お前は今どこにいる?」

「そこから見えないかな、ツキ。屋上だ。いい眺めだぞここは」

 生徒会室前の窓から屋上を見上げると、二つほど人影が見える。

 はっきりとは分からないが、竃円と先輩だろう。一人は手足を縛られているように見える。

「ツキ、屋上で一緒に星を見よう。もうすぐ日が暮れる。今日は獅子座流星群らしいぞー。きっときれいだ」

「わかった、行くよ。じゃあな」

 そう言って僕は電話を切った。

 いやー、しかし少しばかり、女子を打ち負かすのは少し気が引ける。まあ、円だし良いか。

「やれやれだ、本当に」

 僕はぶつぶつと、それとなく独り言を言いながら屋上へと足を運んだ。

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