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─プロローグ─ 夢現

◇◆◇◆◇◆


鉄のような匂いが鼻に広がっている。目の前には大量の血痕。そして倒れている男。この匂いの正体は血だった。



傷口から察するに、どうやら後ろから剣で刺されたようだ。


それにこの男周辺に漂っている残留魔力から、転移魔法を使っての攻撃ということがわかる。



ここはこの近辺で最も治安の悪い町・テグラス。



その時、俺の横に降り立つ黒い影。それは一人の少女。



綺麗な長い黒髪に、整った顔立ち。背丈は俺と同じくらいで、女性としては高いほうだ。その手には治療用の法具が握られている。



俺はその少女を警戒しなかった。それは彼女が俺の大切な戦友だから。



彼女の名前は霧峰きりみね あい



彼女はそのまま倒れている男の治療に移った。



彼女はスムーズに治療を行い、数分後には、殆んどの傷がいえていた。俺はそんな逢の治療を静かに見守っていた。



俺や逢はこんな状況であっても極めて冷静に思考し、治療を行っていた。それはもう慣れてしまっていたからかもしれない。



この異様な世界に。




静寂を破ったのは後方から聞こえた一つの銃声。だが俺はそちらに顔を向けず、高く跳び、その銃弾を避ける。



銃声のあった方に視線を向けると、そこには一人の中年の男が居た。その表情には焦りが浮かんでいる。



あの取り乱し様。そして、只の狙撃での攻撃という点から、そこまでの実力者でないことが伺えたる



俺は腰に携えている剣は抜かずに、一瞬でその男の前に移動する。



音もなく、目の前に表れた俺に、男は驚愕の表情が浮かべていた。俺が使ったのは、瞬動という技。



それは決して能力の類いではなく、体術を極めたに過ぎない。



そこで俺は剣を抜き、男の胴を両断した。そして、男も自分の胴が両断された……、ように感じただろう。男は痛みに悶えることもなく、その場に崩れ落ちた。


しかし、男は両断されているどころか、傷一つない。これは俺の剣の特殊技で、正確に言うなら斬ったのでなく、意識を刈り取ったのだ。



俺は極力人を殺さないようにしている。例え敵であっても。この世界で、その行動は命取りになるにも関わらず。


正確にいうと殺したくないのだ。だからこの剣はそんな俺には救いだった。人を傷つけず、この世界で生き抜くための。



突然、周囲に複数の気配を感じた。周りを見渡すとそこには、黒い影、アサシンが五体いた。



アサシンとはこの世界で死んだ人間の末路だ。死ぬとアサシンになり、生きている『人間』を探し求め、さ迷い続ける。



この敵はこの世界で結構厄介な部類に入る。その理由は死んだ『人間』のスキルを使うことが可能。さらに、アサシンの身体能力はその『人間』の十倍近くにまで達する。



俺は一体のアサシンに狙いを定める。そして、瞬動でアサシンの背後に回り込み 両断する。あの能力は使わずに。



意識を刈り取っただけでは直ぐに復活するからだ。そして、そのアサシンは消滅した。



動きが止まった俺の元に残りの四体のアサシンが一斉に襲い掛かってきた。



俺はそれぞれの攻撃を体を少しひねり避けた。すると、アサシンたちは互いに衝突し、ダメージを負っていた。



俺はそこでアサシンたちを一掃するため、『業』《わざ》を放つ。


剛火



剣から放たれた特大の炎はアサシンたちを包み、まとわりつく。そして、体力を奪い続け、しまいには消滅させる。



数秒して炎が消える。そこには一体のアサシンが辛うじて残っていた。


そして、何か技を放つ。その時には俺はアサシンの横に移動していた。そして、俺は剣を振るいアサシンを倒した。



最後の一体は他のアサシンと比べてレベルが高かった。そのため、俺の『業』から生き残れたのだろう。




戦闘を終えた俺は、先程の男をそのままにし、逢の下に戻った。さっきの怪我人は完治したようで、今は只、気を失っているだけだった。



「お疲れ様」



俺は短く、だが気持ちを込めて逢を労った。



「ん。ありがと。そっちもお疲れ……って程でもないか」



そう言う逢の額には大量の汗。そして、表情は少し疲れている様だった。



今回の治療は相当厳しいものだったらしく、逢は大量の魔力を消費していた。



俺はバックから取り出したタオルを逢に渡した。逢は短く、ありがとうとだけ言って、タオルを受け取り、汗を拭いていた。



この世界に来て結構時間が経ったと思う。曖昧なのは覚えられないほどの月日が経ったからかもしれない。



息を整え、汗を拭き終えた逢は、いつもの笑顔に戻っていた。それは今日も一人の救えたという安堵も混じっているのだろう。


それが俺にも分かるのは、きっと、俺も逢と同じ様に安堵していたからであろう。



そして、この笑顔のお蔭で俺は今まで生きられたと言っても過言ではない。もし、逢が居なかったら、今ごろ野垂れ死んでいたかもしれない。



「それじゃあ帰りましょ。早く帰らないと明日に響くわ」



「了解。んじゃとりあえず、逢は俺の背中に乗ってくれ。疲れてるだろ。おぶってくよ!」



その言葉に逢は顔を赤くして、ぶつぶつ何か言っていたが、本当に疲れていたためかすぐに俺の背中に乗った。



背中に逢の温もりを感じる。逢が背中に乗ったのを確認した俺は、頭の中で技名を唱える。



瞬動


それは音速に達する程のスピードだと言われている。それを何度も使い、十キロ離れた家に一分も掛からずに着いた。



背中の逢は小さく寝息をたてて眠ったいた。あのスピードの中で寝るのは至難の技だろう。



そこから、逢がどれだけ疲労していたのかが伺えた。俺は抱えていた逢をベットまで運び、静かにおろした。



すやすや眠る逢の寝顔を見て、俺もやっと帰ってきたことを実感する。



それほど、この世界では神経を使うのだ。常に周りを警戒し、誰も信用出来ないこの世界では。



俺はシャワーを浴びて、自室に戻った。そして、俺はあるものを見ていた。



それは先程助けた男からもらった不思議な玉だ。その玉に決まった色はなかった。気付いたら違う色に変わっている。



レア度が相当高かったため、この玉の用途を調べることにしたのだ。不思議なのは、あの治療した男がこんなレアアイテムを持っていたことだ。



その男の見た目は装備品はなく、この世界に来たばっかりの、元の世界の服装。そして、魔力容量もそれほど大きくなかった。



刹那、玉が凄まじい光を放ち、俺を包み込んでいく。俺は少しずつ意識が遠のいて行くのを感じた。



その時、部屋の扉が勢いよく開いた。顔を覗かせたのは、逢だった。


さっきから放たれている眩しい光で目が覚めたのだろう。その表情は驚きと焦りが占めている。



「…………」



逢が何かを叫んでいるが、その声は届かなかった。俺はその光に吸い込まれていく。



俺の目はもう、何も見えなかったが、不意に、手に何か、温もりを感じた。それは逢の手だった。



「大丈夫。何処までも一緒に行くよ。だって私は……」



今度は確かに聞こえた温かい声。しかし、最後の方が聞こえる前に俺は意識を失った。


そして、そのまま深い眠りについた。



深い、深い眠りに。




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